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1章 BIG3
三幕A 『満蔵』
しおりを挟む超人特区を訪れた灰色の髪の男、『服部満蔵』。
彼を案内する事になった情報屋『ライブラリ』。
二人は超人特区の南南東に位置する下層第八区『下層庁』を目指し、第一区の『観光街』を歩いていた。
超人特区下層一層。外部からの窓口があり、観光エリアとなっているこの層は八つのエリアに分けられる。
南南西、入区の管理・超人特区のガイドをを行う『観光庁』がある第一区『観光街』。 西南西、各国の腕利き超人料理人が集う第二区『グルメ街』。
西北西、『超人道化師』と呼ばれる奇人、ジェスターが営む超人サーカス団『ジェスター・スーパーマン・サーカス』のテントがある第三区『サーカス街』。
北北西、超人特区に多数存在する警備団体の多くが本拠地を置く第四区『防衛街』。
北北東、製造系の超能力を持つ『職人』と呼ばれる超人が集まる第五区『職人街』。
東北東、他の各区分に該当しない超人が集う、一風変わった店立ち並ぶ第六区『便利街』。
東南東、宿泊施設が多く並ぶ、外部観光客向けの第七区『ホテル街』。
南南東、下層を管理する『下層庁』始めとする中枢機関の集まるエリア第八区『下層庁』。
移住の申請は『下層庁』にて行う事になっている。その為、満蔵とライブラリはそこを目指して歩いているのだ。
「でもでも、俺っちは大丈夫だけど、ラブちゃん歩くの辛くない? それぞれのエリアには鉄道やらバスやら交通機関通ってるんでしょ」
「か、『下層庁』と『観光街』は隣接してるので……あ、歩きで行けます。こ、交通費掛けるのはお金の無駄です」
走って行く電車を見送りながら満蔵が問えば、ライブラリは引き攣った笑みで口早に答える。
すると、おお、と感心したように満蔵は手を打った。
「倹約家なんだねぇ、ラブちゃんは」
「す、素直にけちんぼと言っても、い、いいんですよ?」
「けちんぼ。可愛い言い回しするんだねぇ」
満蔵に言われて、ライブラリは口をへの字に曲げる。
「けちんぼだなんて思わないよ。ただ、ラブちゃん歩くの疲れてない? 俺っち、おんぶしたげよっか?」
「つ、疲れてませんので結構です」
ライブラリは満蔵と逆方向を向き、困ったように垂れた目はそのままに、少しだけ唇を尖らせた。
しかし、気付けば目の前に満蔵がいる。
「その表情も可愛いねぇ」
「ま、回り込まないで下さい」
服部満蔵は足が速い。更には足運びが異常に上手い。
素早くライブラリの顔の向く方向に移動しているだけではない。まるでそれを悟らせない様に、静かに、音も立てずに足を走らせている。
ぐるぐると瞳だけを動かしながら、ライブラリはしばらく黙る。
そして、満蔵が前に回り込んだタイミングで、ぽつりと問い掛けた。
「あ、足の使い方がお上手なんですね。ちょ、超人、そ、それも、脚力寄りの超身体能力系の超能力ですか?」
「そだよー。ラブちゃんは超人? どんな超能力? 超絶可愛いみたいな?」
「か、可愛くないです」
ライブラリは多少の事ならば、口元だけで笑って誤魔化す。しかし、今度は嫌そうに口元を歪めて、そっぽを向いた。
満蔵がそんな事ないのに、と言い掛けた時、一瞬ライブラリの目が光ったように満蔵は感じた。そして、ぴったりと、まるで満蔵の口を閉ざすようにライブラリは口元だけでにこりと笑ってから声を発した。
「と、ところで、服部満蔵って、ほ、本当に本名なんですか?」
唐突に、無理矢理に話題を切り替えた。しかし、自身の事を聞かれた満蔵は、満更でもなさそうににやけ面で胸を張った。
「俺っちが自分でつけた名前!」
自称『服部満蔵』は、ライブラリの横に立ち直して胸に手を当て得意気に語り出す。ライブラリはほんの少し歩調を緩めて、横目で満蔵を見て、話に耳を傾けた。
「知ってるかい? すっげぇ足業のプロにはな、『ハットリ君』って称号が与えられるんだぜ」
「え、何それは」
「あれ? ラブちゃんサッカー見ない人?」
「み、見ない人ですけど……え? ハットリ君?」
「何かたくさん点獲るとハットリ君」
ライブラリは困った様に垂れた目の間にしわを寄せて、更に困った表情になった。
彼女は自身で言った通り、サッカーの知識があまりない。ボールを蹴るスポーツという認識しかない。
彼の言っているのは「ハットリ君」ではなく、「ハットトリック」だという事にライブラリが気付くのは、この後気になって彼女がインターネットでサッカーを調べた後の事である。
当然、今の彼らはそのまま話を続ける。
「そして、歴史上、超有名なハットリ君が日本に居る。ラブちゃん、服部半蔵、知ってるかい?」
「し、知ってますけど。サ、サッカー選手でしたっけ?」
「だって、ハットリだぜ? ハットリ君だろう?」
「え、ええ? そ、そうなんですか……あ、あまり詳しく調べた事はないですけど……な、何か分かりやすいイメージですと、に、忍者みたいなのが良く聞く話だと思うんですけど」
「へぇ。忍者って、サッカーもできるんだなぁ。すげぇなぁ」
話が噛み合わない。ライブラリは思わず頭を抱えた。
ライブラリは仕事に関わる事と、興味の無い事は調べない。故に、今まで名前を聞くに留まっていた服部半蔵なる人物や、サッカーなどの知識はない。
何かが大きく間違っているような気がしているのだが、否定するだけの知識もないので、彼女は納得いかないながらも満蔵の話を苦々しく呑み込んだ。
「あ、そうそう話の続き! んでだ、服部半蔵っていう凄い足業の名手が居る訳だ。それを知った時、俺っち思ったね。俺っちより凄い足業を持つ人間が、超人が居る訳がないって」
大した自信だ。ライブラリはこの時ばかりは皮肉を口にしなかった。
彼女の『目』から見ても、満蔵の言葉は自信過剰でも大袈裟でもない、紛れもない事実であった。
『足』という点だけ取り上げれば、恐らくは最強の超人と名高い『超人アダム』にすら勝るのではないか。それがライブラリの見立てである。
「だから、半蔵よりすげーってんで、『満』蔵! 半月より満月のほうがでっかい! だから、俺っちのほうが凄い! 詰まり俺っち、『服部満蔵』! よろしくっ!」
しかし、流石にこっちのネーミングの理由は突っ込まずには居られない。
ライブラリはほっと胸を撫で下ろすような素振りを見せた。
「ん? どったのラブちゃん。何か安心した?」
「は、はい」
ライブラリは足を止め、満蔵を見て満面の笑み(口元だけ)を浮かべ、手を合わせて言った。
「よ、良かった。じ、自分のこ、子供に……そんなふざけた名前を付ける、ざ、残酷な親は居なかったんですね」
皮肉、嫌味、悪意たっぷりのライブラリの毒。
ライブラリは表情変わらぬ双眼で、じっと満蔵の表情を見つめた。
怒る? 失望する? 目が覚める?
ライブラリは『観察』する。
満蔵は一瞬言われた意味を整理するかのようにきょとんと呆けて、ああ、と言われた事を理解した後、無邪気ににかっと笑った。
「うん! 俺っち、親とか居ないよ! 何でラブちゃん知ってんの?」
「え?」
返ってきたのは思わぬ答え。思わずライブラリはたじろいだ。
ライブラリは『分析』する。満蔵の言葉は冗談でもなければ嘘でもない、紛れもない無実。そして浮かべる無邪気な笑みも、作り笑いでもなければ嫌味を込めたものでもない、純粋な笑顔であった。
『親無し』。超人にとっては珍しい事ではない。
超人は、人間に必ずしも慕われている訳ではない。得体の知れない怪物として、むしろ疎まれている事が多い。
自らの子供が超人に『覚醒』した時、気味悪がり、恐れ、自らの子供を捨てる親も居る。彼もそんな超人孤児なのだろうか。
思わぬものを掘り起こしてしまい、ライブラリは目を逸らす。
「ご、ごめんなさい」
「ん? どったのラブちゃん。何謝ってんのさ急に」
満蔵の言葉に影はない。心の底から素で言っている。
今までの言動から、ライブラリは自称服部満蔵の分析の第一段階を終えた。
自称『服部満蔵』は、子供だ。
大人になれないまま、苦しまぬままに『生きて来れてしまった』、才能に恵まれ過ぎたが故に、環境に恵まれなかった、幸運にして不幸な超人だ。
ライブラリは、素直に、彼を哀れに思った。
人を疑う事を知らず、人の悪意を知らず、ライブラリが吐き続ける『嫌われる為の毒』にも気付く事すらない。
困った様に垂らした目を、僅かに細めて、作り笑い浮かぶ口をぎゅっと結び、ライブラリは歩き出した。
満蔵はおっとと後ろに続く。興味深そうに観光街のあちこちで周囲の様子を見回しながら、何かを思い出したように口を開いた。
「そういやラブちゃんさ、お仕事あるっつってなかった? 俺っちの案内に付き合っててだいじょぶなん?」
やはり、ライブラリの失敗など気にも掛けていないらしい。口早にライブラリは返した。
「じょ、情報収集メインなので、案内しながらでも大丈夫です。ど、どうせあちこち歩いて回る予定で、でしたから」
「へぇ。どんな情報集めてんの? 歩いてるだけだけど、聞き込みとかしないん? 俺っちも手伝うよ?」
「あ、歩いてるだけではないんですけど……」
少しだけ不満げにライブラリは口をすぼめる。
「え? あ、ごめん。怒った?」
「お、怒ってないです」
「もしかして、ラブちゃんの超能力? 俺っちのお喋りに付き合いながら、何かしてたの? すっげー! ラブちゃんの超能力って何なん?」
割とぐいぐい迫る満蔵に、ライブラリは口をへの字に曲げた。
やりづらい。如何にもそう言いたげな表情である。
しかし、不思議と嫌な感じはしなかったので、ライブラリは珍しく他者とのやり取りに応じた。
「わ、私の超能力は『超頭脳瞬間記憶入出力特化』です」
「何それ超むつかしい!」
「か、簡単に言うと、『すぐにたくさん正確に覚えて、正確にそれを引っ張り出せる』ってことです」
ライブラリはスカートのポケットに手を突っ込み、鉛筆一本とメモ一枚を取り出した。そして、左手でメモを右手で鉛筆を持ち直す。
何をするのだろうか、と満蔵がまじまじと見つめていると、ライブラリは素早くメモに鉛筆を走らせ始めた。あまりの早さに、満蔵は唖然として言葉を忘れる。
ほんの二、三秒。ライブラリはふうと息を吐き、鉛筆を走らせる手を止め、メモを満蔵に差し出した。それを見て、満蔵は更に大きく口を開いた。
「すっげ……」
そこに描かれていたのは、一人の少年の絵だった。
まるで時間を掛けて書いたかのような、細かい線を重ねて描いた肖像画。白黒写真家と見紛う程に、繊細に、精密に描かれた絵であった。
「わ、私は一度見聞きした事は、正確に『出力』できます。そ、それは今探している子の、写真をそのまま『出力』してます」
「……すっげすっげすっげすっげええええ! ラブちゃんすっげええええ! やっぱ、ラブちゃんはすっげえイカした女だぜ!」
ライブラリが鉛筆を握る手を持ち、満蔵は興奮気味にブンブンと手を振り乱す。
そのはしゃぎっぷりはまるで子供である。
ライブラリは困った様に愛想笑いして、ぱっと手を振り払った。
「お、お褒めに預かりどーも……」
「あ、ラブちゃんの手ひんやりしてて気持ちいい……」
「セ、セクハラでう、訴えますよ?」
「ん、ちょっと待って」
「え? い、いや、そんなにすぐには訴えませんけど……」
ライブラリは素っ頓狂な返事を返した事にすぐに気付く。
満蔵が向いた先からは、如何にも怪しい人物が複数、歩み寄ってきていた。
全員が帽子を深く被り、マスクにサングラスという絶対に不審者に違いない集団である。真っ直ぐにこちらに歩いてくるのを見れば、彼らのターゲットがライブラリ、もしくは満蔵である事は明らかであろう。
更にライブラリが集中して『分析』すれば、その狙いが満蔵かライブラリのどちらであるかは明らかであった。
思わず溜め息が漏れる。
「……はぁ。何なんでしょう。本当に」
ライブラリは満蔵の肩を叩く。満蔵は振り返った。
「か、彼らの狙いは私ですので。は、話つけてきます」
満蔵は首を傾げた。
「あいつら、さっきのチンピラの仲間っしょ? ラブちゃん、狙われてんの?」
ライブラリは事情を語るつもりはなかった。
恐らく、この自称服部満蔵、事情を話せば首を突っ込んでくるだろう。
とてもじゃないが、『自分が攫われそうになっていた』等と言える訳もない。
ライブラリは適当に誤魔化し笑いをして、「大丈夫です」と囁いた。
「じ、実は私、そ、それなりのコネを持ってますので。ど、どうやら彼ら、外部の人間みたいなんで、ぜ、全然事情を知らないみたいですけど……ひとつ『脅し文句』を使えば、き、きっと諦めて下さる筈です。……ほ、ほんとはあなたがさっき邪魔しなければ、とっくに解放されてる筈なんですけど」
ライブラリは少しだけ嘘を吐いた。
彼女はそれなりのコネを持っている。これは事実。
超人特区に在住する超人であれば、一発で青ざめ逃げ出してしまうような『脅し文句』がある事もまた事実。
しかし、彼女はその脅し文句を使うつもりなど毛頭なかった。
情報屋ライブラリが今調査しているひとつの事件。
最近多発している超人特区内の『誘拐事件』に、彼女を狙う集団は関わっている可能性が高いと彼女は踏んでいた。
まだ力の弱い子供の超人、もしくは抵抗しない超頭脳系の超人を狙う連続誘拐事件の真相に迫る為、彼女は敢えて、彼らについていくつもりだったのだ。
ライブラリはもう一度、スカートのポケットに手を突っ込み、取り出したものを満蔵の手に握らせる。満蔵は受け取ったピンバッチのようなものを見つめて、首を傾げた。
「そ、それ、ど、どこでもいいので身において下さい。ちょ、超人特区に住む超人なら、み、みんな持ってる『バッチ』というものです。と、とある超人の作った発明で、つけておくと色々と便利ですから」
満蔵は言われるがままにバッチを胸元につける。
すると、途端に変化は現れた。
周囲で聞こえていたがやがやとした繁雑な声が、忽ち聞きやすくなったのだ。正確に言えば、何事も取れぬ飛び交う無数の言語が、一瞬で満蔵がよく知る日本語へと変換されたのだ。しかし、そんな変化に気付くのにも時間が掛かる満蔵に、ライブラリは説明した。
「た、例えば『自動翻訳機能』。つ、つけておくだけで、あらゆる言語があなたに合わせたものに翻訳されて耳に届く筈です。他にも色々機能はありますが、い、今はそれだけ分かれば十分でしょう。こ、これで、み、道行く人々との会話にも困らない筈です」
「すっげ……ほんとだ」
驚く満蔵に、ライブラリは続けて言う。
「『下層庁』に行って下さい。そして、窓口で『移住希望です』と言って下さい。下層庁の場所は人に聞けばすぐに分かります。下層庁につけば、よく分かっていなくても、丁寧に案内して貰える筈です。あとは、もう困る事はないでしょう」
そして、最後に口元だけで優しく微笑み、ライブラリは頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。ご、ご案内すると言ったのに、乱暴な感じになってしまって。ま、まさか、こうも早くまた絡まれるとは思っていなかったので、安請け合いしてしまいました」
目元は困りっぱなしである。しかし、今まで見せたライブラリの困った笑顔の中で、一番優しい笑顔だった。
満蔵はまじまじとその表情を見つめている。そして、顎に手を当てて、既に傍まで迫っている、怪しい集団を見た。
「……ラブちゃん、このばっち、俺っちにくれちゃったら、言葉分かんなくない?」
「あ、ある程度は多国語分かりますので、ご、ご心配なく」
「でも、こんな凄いもの貰っちゃうのもなぁ」
「し、申請が終われば誰でも貰えますから。し、申請が住んで、お、落ち着いてから返しに来てくれればいいですから」
「んー、でもなぁ……」
なかなか行かない満蔵。ライブラリが分析するにどうにも腑に落ちないらしい。
しかし、それ以上はライブラリも読めない。
服部満蔵は、ライブラリが今までに見たことのないタイプの人間だった。
次の一言が読めない。そして、やはり、予想外の一言を満蔵は返してきた。
「女の子に謝らせるってのもなぁ……」
案内できない事に対して確かにライブラリは謝った。
しかし、そこは今はどうでもいいのではないか。
ライブラリが口をへの字に曲げると、満蔵は親指を立ててにかっと笑った。
「よしっ! そうかっ! 俺っちが、ラブちゃんが案内できるようにすればいいんだ!」
「え?」
満蔵がとんと、足を踏み鳴らして、迫る集団を見る。
「ようよう女の子一人相手に集団でよう。えっと……何人だ? いち、にい、さん、しい……」
「お兄さん。ちょっとそこ退いてくれるかな? 私達はそこにいるお嬢さんに用事があるんです」
集団の先頭に立つ、金髪碧眼のスーツの男が帽子から顔を覗かせ静かに笑った。周囲もその一団の、ただならぬ雰囲気に気付き、ざわめき始めている。
ここで、ライブラリは違和感を覚える。
超人特区で悪事を働く超人は、決して居ない訳ではない。
しかし、ここまで大っぴらに騒ぎを起こそうとする超人は、超人特区の住人の中にはそうそういないのだ。超人特区で超人が悪事を働く事の意味を知っていれば、できる筈がないのだ。
彼らは『外部』の超人組織で間違いない。
ひとつ、思い当たる単語をライブラリは投げ掛けた。
「『ビッグ3』。……あ、あなた達は彼らの関係者ですか?」
「違うよ違う」
答えたのは集団ではなく、意外にも満蔵であった。
「え?」
「こいつら全く知らんし、あいつらもこの手の奴らとは手ぇ組まないよ」
流石に集団も怪訝な表情で顔を見合わせる。
この男は一体何の話をしているのか。
唯一人、ライブラリだけが深い溜め息を共に頭を抱えた。
「……やっぱりか」
「ん? どったん、ラブちゃん? あ、もしかして頭痛くなった?」
ライブラリの異変に気付いたようで、満蔵は心配そうに顔を覗き込みながら問う。
そして、彼はあらぬ勘違いをしてしまう。
「あ、こいつらのせい?」
「え、違っ」
あなたのせいです、と言おうとした時にはもう遅い。
集団の先頭に立つ男は、既に錐揉み回転しながら飛んでいっていた。
集団がざわめく。周囲で遠巻きに様子を見ていた一般人達がどよめく。
ライブラリは反応できなかっただけでしっかり見ていた。
満蔵が、音を立てずに『早歩き』して、集団の先頭に立つ男の前に移動した。男の足を軽く足で払って、両足が地面から離れて尻から落ちてくる男の背中に足を掛け、そのままサッカーボールを優しく足で操るように、投げるように男を上に『蹴り上げた』。
「うーん、殺したら流石にマズイよなぁ。満殺しは駄目でも、半殺しならおっけー?」
これには流石のライブラリも慌てた様子で満蔵に詰め寄った。
「ま、待って待って! け、けけけ喧嘩は……!」
「え? 喧嘩しちゃ駄目? だいじょぶだいじょぶ! ラブちゃん心配要らないよ!」
満蔵はにかっと笑った。ライブラリはほっと一息によっと笑った。
そして、満蔵は、絶句する集団の前にいつの間にか笑顔で立っていた。
「俺っちの心配してくれなくても、喧嘩にもならないから。これは一方的な……」
ふわっと二人目の怪しい男が宙を舞った。
「『おしりおき』だ」
「お、おしおきでしょ?」
言ってから「ツッコんでいる場合か」とセルフツッコミを決めて、ライブラリは思わず目を覆った。
別にライブラリは満蔵を心配して喧嘩を止めた訳ではない。
騒ぎを避け、怪しい集団の目的を探り、誘拐事件の真相に迫る……そんな目的の為に彼らには、無事に、静かに、自分を連れ去って貰わなければならなかった。
その彼らが、次々と、ド派手に、空をくるくると舞いながら、白目を剥いて気絶していた。
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