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第五話
ナラの老木、布は赤
しおりを挟むそして数日たったある日の午後、オオルリ鳥がいつものようにノンビ山の空を回りだしました。住人はみんな空をみあげました。
「明日の朝、カワベ村に人間がきます。くりかえします。明日の朝、カワベ村に人間がきます……」
コンボじいさんは、カミキリムシに小声でこういいました。
「いよいよじゃな。明日の朝、サルにくるようにつたえてくれ」
カミキリムシは悲しそうに大声でかえしました。
「本当の本当の話ですかあ? その方法しかないのですかあ?」
「これはもう決まったことだ。考えはかえん」
カミキリムシはしかたなく、木を降りていきました。
そして次の朝、オオルリ鳥がいったように、人間が二人、カワベ村にやってきました。二人はしばらく小川のほとりで紙をめくりながら、ときどきコンボじいさんとサンボのほうや、それとは逆の、川をへだてた木々のほうにちらちら目をむけていましたが、やがて一人がコンボじいさんとサンボのほうをゆびさして、こういいました。
「右のナラの老木、布は赤」
住人が、大声でいっせいにさけびました。人間からみて右のナラの木は、コンボじいさんなのです。ノンビ山警察の予想は大きくはずれました。
人間は、カバンから赤い布をとりだすと、コンボじいさんの一枝にまきつけました。
やがて人間は村を去りました。その日カワベ村で布をまかれた木は、どうやらコンボじいさんだけだったようです。
人間が去るのをみとどけると、背の高い雑草たちのかげにかくれていたサルがコンボじいさんに走りよりました。ほかの住人たちも、コンボじいさんをじっとみつめています。
「どういたしやす? おいらのお役目は?」
コンボじいさんは笑いながらこういいました。
「こうなったら願ったりかなったりじゃ。老木のわしひとりですんでよかったよかった。サルよ、せっかくきてもらったが、君の仕事はなくなったな」
すると息子のサンボがさけびました。
「おいサル、お父さんの布をわたしに巻いてくれ」
「ばかなことをいうな……おまえは生きろ。生きて最後まで美しいこの山を見とどけろ」
みんな泣きました。虫も、花も、草も、魚も、鳥も、みんな泣きました。
「人間はひどい。人間はひどい」とみんな口々にいいました。
「人間のことをそういう風に決めつけてはならん。この山に草花をうえ、木をうえ、川を作って、わしらがくらせるようにしてくれたのは、ほかでもない人間だ。これからは人間に対するおんがえしをせにゃならん」
「でも木を切るなんて。人間は今までそんなことしなかった」
「何か事情があるんじゃろ。人間のくらしもたいへんなんじゃろ。わかってあげよう」
カミキリムシが穴からこそこそはいでてきて、元気な声でこういいました。
「花さん、花さん。音楽会は今日できないですかなあ? へたくそでもいいから今日できないですかなあ」
「わしもそう願う。旅だちのまえに君たちの歌声をきいておきたい」
「けっこうなお話ですね。今日やりましょう。ただしいっときますが、へたくそではないですよ」
花たちがそういうと、その場のふんいきがなごみました。
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