お弁当ミュージカル

燦一郎

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【2】

スペアリブとプチトマトとおにぎりとゆで卵の歌

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木もれ日がまぶしい。まぶたの中がまっしろだ。

園内に音楽が流れた。どこかで聴いたことのあるミュ―ジカルの曲。

―たしか 「アラジン」のア・ホ―ル・ニュ―・ワ―ルド―

そういえば母さんはミュ―ジカルが好きだったな。

強めの風がふき、音楽に混じってケヤキの葉のせわしい音がした。風はやがて弱まり、おでこのあたりを優しくなでた。だんだんと気持ちよくなっていった。

眠くなってきた。

……。
……。
……。

まわりは真っ暗だった。すると目の前に学習机くらいの広さの舞台があらわれた。まだ開演前だったけど、カ―テンのすき間からカラフルな光がもれていて、何か楽しいショ―でも始まるのではないかという予感がした。

元気なアナウンスが流れる。

『さあ、ショ―の始まりだよ!!』



すると拍手かっさいとともに、カ―テンが開き、楽しい音楽が流れてきた。

鍋やフライパン、フォ―クやスプ―ンといったキッチンの道具が、ユニ―クなオブジェになって舞台のあちこちに置いてあり、楽しそうに左右にリズミカルに揺れている。舞台の真ん中に赤と緑の大きな弁当箱が二つ並んでいて、まるで呼吸しているみたいに、ふくらんだり、ちぢんだりしている。



赤の弁当箱からピエロのような服を着たスペアリブがあらわれて、音楽に合わせてバレエのアントルシャのステップで飛び回り、歌いだした。

『♪ お―なか なおった みたいだね 本当は痛くないだろ 仮病だろ』 

すると驚いたことに、高さ5センチくらいの「ぼく」が、舞台袖から登場し、これまたバレエのステップでくるくる回転しながら歌いだしたのだ。「ぼく」は大きな蝶ネクタイをしている。思わず笑ってしまった。

『♪ ど―してわかった すごいよな 君は心が読めるんだ』 

赤の弁当箱から水玉のワンピ―スを着たプチトマトが飛びでると、舞台全体をスキップで走り回る。走りながら、ときどきオブジェに軽くふれる。

『♪ そんなに気弱で おもしろい? 楽しい遠足だいなしよ 意外とちっちゃな男の子 バスの中でも だんまりで となりのユウトがかわいそう みんなも変だと 思ってる いつものあなたじゃないみたい』

すると「ぼく」が立ち止まって両手を広げ、困った表情で首を横にふった。

『♪ だってだって見てごらん ユウトのお弁当すごいんだ あんなお弁当見せられちゃ 病気にだってなりたいさ』

ライトが緑の弁当箱に集まると、高らかなトランペットの曲とともにコンビニのおにぎりが立ち上がった。そのタキシ―ドを着たおにぎりが「ぼく」をまっすぐ指さした。

『♪ なんで君たち人間は お店のお弁当ばかにする 私は大事に作られる 品質管理かんぺきさ 世界でいちばんていねいさ それがお店のお弁当 それにそ―れに聞いてくれ 私のお米はコシヒカリ のりは築地の高級品 中には博多の明太子 はるかにおいしく高級だ 遠足弁当に もってこい!!』

続いて緑の弁当箱からゆで卵が立ち上がって、じゃまだといわんばかりにおにぎりをおしのけた。元気なおばちゃん風だ。ゆかたのような、着物のような、とにかく和服をはおっている。暑いのか、扇子を広げてしきりに顔をあおぐ。

『♪ 何だい何だい何なのさ 親が作ってくれないの それがそんなに大変かい 世の中たくさんいるんだよ つらい子供がいるんだよ お弁当つくってもらってあたりまえ そんな考え捨てちまえ まだまだ甘いね蝶ネクタイ お洒落で気弱なおぼっちゃま』

「ぼく」がしゃがみこみ、両手で床をたたく。

『♪ そんなにそんなにせめないで わかっているんだ頭では でもね見た目がちがうだろ びっくりするほど ちがうだろ ユウトのお弁当 すごいだろ』

急に緑の弁当箱からからあげが飛びでる。体操の少年選手のような感じ。マンドリンの音色に合わせて陽気に踊り、とんぼ返りやばく転をする。そして高いト―ンで歌う。

『♪ 君は ユウトの気持ちを知らないな おかずの気持ちを知らないな おかずの気持ちを聞いてごらん』

すると曲がスロ―モ―な短調に変わり、スペアリブがゆっくりと客席にむかって歩きだした。

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