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屋根裏のあいつ

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「このおんぼろ借家とも今宵限りか」

牛太郎は引っ越しの準備を終えると、夕食のカップのそばを食べながら、すすけた壁や色濃くなった畳を見ながらしばし感慨にふけった。安い賃料に惚れて住み始めて7年。もう限界だ。雨漏りはするし、強風が吹いたら揺れるし、いろんな虫が出現する。

「お前ともお別れだな」

牛太郎は汁を啜りながら天井を見た。



屋根裏に少なくとも一匹のネズミがいることがわかっている。夜なよなバタバタ走りまわり、安眠妨害はなはだしい。下に降りてくることがないのでどんな成りをしたネズミか知らないが、このぼろ借家の屋根裏でちゃんと生計を立てているのだから、なかなかの強者かもしれない。


「夜中だけじゃなくて一日中暴れていいぞ、このぼろ家はお前に譲る」


飲み干したカップをプラごみ用の袋に入れて、歯を磨いた。


もう寝よう。


翌朝は快晴で、ぜっこうの引っ越し日和。


引っ越し先は築5年の一軒家だった。日当たりのよくない借家だが、築5年にしては賃料が安いので即決した。何度か下見に行き、男やもめの暮らしにはもったいないくらいの家だと納得している。


手配した業者のトラックに荷物が積み終わると、牛太郎は助手席に乗せてもらって新天地へと出発した。


業者が運転しながら妙なことを言った。


「お荷物の数が合わないんですけどね」


「どういうことですか」


「お客さんが申告した荷物の数と、トラックに積んだ荷物の数が合わないんです。一個多かったかな。まあいいです。まけときます」


そういうこともあるだろう。すぐに忘れた。

そして新居最初の夜。


カップのうどんをいただく。


「ああ、新居はいいな。なんといっても居心地がいい」


きつねを口にしたが熱いので元に戻してふーっと息を吹きかけた。


そのときだった。


何かが屋根裏をゴソゴソ這う音がしたのである。


カップをテーブルに置いて静かに上を見て息を飲む。





「あいつの音だ」


あいつも一緒に引っ越してきやがった。


そのとき運転手の言ったことを想い出した。


「トラックに積んだ荷物の数が合わないんです。一個多かったかな」


その荷物はきっとネズミがこっそり運び込んだ荷物だったのだ。


ぼろ借家時代と同様、また屋根裏のネズミと同居することになるので一瞬ため息が出たが、まあいいかと思った。あいつもあの家のぼろさ加減に嫌気がさしていたかもしれないし。

その夜、ネズミはあまり暴れなかった。


―新居は居心地がいいのだろうか―


しかしあいつはどんな荷物を持ってきたのだろう。


それだけが気になる。

一個、というのが面白い。


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