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ベースボールマシーン2号
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近藤さんに誘われたので(また平手打ちされるのが嫌なので)、オータムレッスルファイトに行くことにした。
会場は校内の大体育館。割と広めのスタンドもある、ものすごく立派な施設だ。こういう音弧野高の施設を見るたび、儲けてやがんなー、と思う。確かにスポーツに特化した経営方針は当たりかもしれない。
ところで、なんで正式な部でもないプロレス同好会(正式にはOWEらしいが、まぁ、どうでもよい)がこんな、校内でも一、二を争う施設を使わせてもらえるのかというと、同好会ながら学校側からはかなり重用されているからだ。
というのは、アメリカの超有名プロレス団体から卒業後にスカウトされたことが過去三度あったからだ。その度に大きなニュースとなり、世間の耳目を集めるところとなった。とりわけ格闘技ファンからは非常な称賛と熱狂を持って迎えられた。
プロレスという全国規模の競技会があるわけではないので、部に昇格することはないだろうが、学校側からの期待は高い。
ちなみに、校内では、アメリカの団体への売り込みは学校側が行っているという噂がまことしやかに流れている。もっと言ってしまうと、アメリカのプロレス団体に触手を伸ばすために学校側が同好会を設立したのではないかという噂もある。
そうでなければ一介の私立高の、しかも部ですらない同好会に、アメリカのそんなメジャー団体が目を付けるはずはないからだ。
ともあれ、いずれにしろ、学校からは今後も重用され続けるだろう。要は、音弧野高の宣伝になれば部でも同好会でも何でもいいのである。
義務感(殴られるのが嫌)から会場に足を運んだので、開演から大分遅れて到着した。大体育館に入ると、超満員であった。
スタンドの他に、普段はバレーやバスケに使用されているコート中央に設えられたリングの回りにも、パイプ椅子で観客席が作られている。それらの座席、全てが埋まっている。こんな人気あるんだ……。
今日は休日ということもあり、音弧野高以外の人もかなり多い。なぜなら、女子が多いからだ。正直、びっくりした。仕方がないので二階席の後ろの方から立ち見での観戦となった。
「貴様とはもう兄弟でもなんでもない!」
そんな声が会場に響いた。見ると、リング上でマイク片手に叫んでいるのは、なんとスーツ姿の近藤さんであった。あんた選手じゃないだろ。何やってんだ?
そんな近藤さんと相対しているのは、ドラゴン・コンドー・マッチョ、本名・近藤龍之介。
近藤さんの弟である。赤と黄色を基調としたロングタイツ姿で、筋骨隆々とした上半身を顕わにしている。身長は百九十は軽く超えているだろう。横幅も分厚い。目がクリッとしていて、二重もハッキリとしている。眉毛も太く、童顔と言って良い、甘い顔立ちである。「ドラゴーン!」とか「マッチョおー!」とかいう黄色い声援が多い。
なるほど、女子たちのお目当てはここか。ドラゴン・コンドー・マッチョは近藤さんと同じ三年生だ。双子なのかもしれないが、全然似てない。そういった意味で、気を遣ってしまう。
「なんとか言ったらどうだ!」
さっきから近藤さんは弟さんをさんざん罵倒しているが、弟さんの方はマイクを握ろうともせず、言い返す気はないようだ。それが却って近藤さんの怒りの火に油を注いでいるらしい。
「クぅ……! 弟のくせに兄をコケにしやがって……。もう許さん!」
さっき兄弟じゃないといった矢先の発言である。一体今日の近藤さんはどうしてしまったのだろう? しかも、近藤さんの一言一言に、会場からは大ブーイングだ。何がどうした?
「出でよ! ベースボールマシーン2号!」
大量のスモーク、そして鳴り響く「ワイルド・シング」のBGMと共に大体育館ステージから現れたのは、なんと星野であった。
こちらはブーイングと歓声の両方が入り混じっている。ステージからリングまで一本道に開けられた観客席の間を駆け抜け、リングにヘッドスライディングイン。ちょっとカッコいいと思っちまった。
星野……いや、ベースボールマシーン2号がスックとリング上に立ち上がる。野球のユニフォームを模したロングタイツ、そしてこちらも上半身裸だ。さすが野球部キャプテン、すごい体をしている。が、コンドー・マッチョと比べると、いかんせん上も横も小さい。大丈夫だろうか。
「カーン」とゴングが鳴った。と同時にマシーン2号はドロップキック一閃。極めて高い打点だ。長身のマッチョの顔面を捉えた。しかも空中姿勢も美しい。星野の運動能力の高さを伺わせる。
もんどりうって倒れるマッチョ。ところで、ゴングが鳴ったというのに近藤さんはリングを下りようとしない。スーツも着たままだ。と、やおらリングサイドから、なんと金属バットを取り出した。そしてマシーンに手渡す。おい近藤! それはさすがにヤバいだろ!
バットを手にしたマシーンはマッチョに襲い掛かる……かと思いきや、バッティング練習よろしくバットを構えた。近藤さんがいつの間にやら手にしたボールをトス。カキーンと良い音させてボールは美しいラインドライブを描く。そしてドラゴン・コンドー・マッチョに直撃。
「グホッ!」
苦悶のうめき声を上げるマッチョ。マシーンは尚も的確な打撃でマッチョを苦しめる。しかし、すごいバットコントロールだ。
防戦一方だったマッチョは意を決したかの如く、迫りくるボールをものともせず、猛然と二人に突っ込んだ。そして、近藤さんを捕まえるとリフトアップ。
「おい! やめろ! 俺はお前の兄貴だゾ!」
近藤さんの叫びがここまで聞こえる。あんたさっき、兄弟じゃないって言ってたじゃないか。
そんな、無様にも暴れる近藤さんの足がマシーンの顔面に当たってしまったようだ。マシーンが目をおさえて倒れた。ドラゴンはそれには構わず、近藤さんをリング下へポイッと放り投げた。
あ!っと思ったが、下には若手レスラーたちが待ち構えていて、近藤さんをキャッチ。事なきを得る。なんだか今日の近藤さんはえらく情けない。
ドラゴンは倒れているマシーンを無理矢理立たせるとロープへ振って、反動で帰って来たところをラリアット! 仰向けに倒れたマシーンはそのままカウントスリーでフォール負け。場内は大歓声(主に黄色い声援)に包まれ、ドラゴンは両手を上げて勝ち名乗りを受けた。
なんか、最後はあっけなかったが、盛り上がり自体はすごい。はぁー、これがOWEかぁー、と妙に感心してしまった。
会場は校内の大体育館。割と広めのスタンドもある、ものすごく立派な施設だ。こういう音弧野高の施設を見るたび、儲けてやがんなー、と思う。確かにスポーツに特化した経営方針は当たりかもしれない。
ところで、なんで正式な部でもないプロレス同好会(正式にはOWEらしいが、まぁ、どうでもよい)がこんな、校内でも一、二を争う施設を使わせてもらえるのかというと、同好会ながら学校側からはかなり重用されているからだ。
というのは、アメリカの超有名プロレス団体から卒業後にスカウトされたことが過去三度あったからだ。その度に大きなニュースとなり、世間の耳目を集めるところとなった。とりわけ格闘技ファンからは非常な称賛と熱狂を持って迎えられた。
プロレスという全国規模の競技会があるわけではないので、部に昇格することはないだろうが、学校側からの期待は高い。
ちなみに、校内では、アメリカの団体への売り込みは学校側が行っているという噂がまことしやかに流れている。もっと言ってしまうと、アメリカのプロレス団体に触手を伸ばすために学校側が同好会を設立したのではないかという噂もある。
そうでなければ一介の私立高の、しかも部ですらない同好会に、アメリカのそんなメジャー団体が目を付けるはずはないからだ。
ともあれ、いずれにしろ、学校からは今後も重用され続けるだろう。要は、音弧野高の宣伝になれば部でも同好会でも何でもいいのである。
義務感(殴られるのが嫌)から会場に足を運んだので、開演から大分遅れて到着した。大体育館に入ると、超満員であった。
スタンドの他に、普段はバレーやバスケに使用されているコート中央に設えられたリングの回りにも、パイプ椅子で観客席が作られている。それらの座席、全てが埋まっている。こんな人気あるんだ……。
今日は休日ということもあり、音弧野高以外の人もかなり多い。なぜなら、女子が多いからだ。正直、びっくりした。仕方がないので二階席の後ろの方から立ち見での観戦となった。
「貴様とはもう兄弟でもなんでもない!」
そんな声が会場に響いた。見ると、リング上でマイク片手に叫んでいるのは、なんとスーツ姿の近藤さんであった。あんた選手じゃないだろ。何やってんだ?
そんな近藤さんと相対しているのは、ドラゴン・コンドー・マッチョ、本名・近藤龍之介。
近藤さんの弟である。赤と黄色を基調としたロングタイツ姿で、筋骨隆々とした上半身を顕わにしている。身長は百九十は軽く超えているだろう。横幅も分厚い。目がクリッとしていて、二重もハッキリとしている。眉毛も太く、童顔と言って良い、甘い顔立ちである。「ドラゴーン!」とか「マッチョおー!」とかいう黄色い声援が多い。
なるほど、女子たちのお目当てはここか。ドラゴン・コンドー・マッチョは近藤さんと同じ三年生だ。双子なのかもしれないが、全然似てない。そういった意味で、気を遣ってしまう。
「なんとか言ったらどうだ!」
さっきから近藤さんは弟さんをさんざん罵倒しているが、弟さんの方はマイクを握ろうともせず、言い返す気はないようだ。それが却って近藤さんの怒りの火に油を注いでいるらしい。
「クぅ……! 弟のくせに兄をコケにしやがって……。もう許さん!」
さっき兄弟じゃないといった矢先の発言である。一体今日の近藤さんはどうしてしまったのだろう? しかも、近藤さんの一言一言に、会場からは大ブーイングだ。何がどうした?
「出でよ! ベースボールマシーン2号!」
大量のスモーク、そして鳴り響く「ワイルド・シング」のBGMと共に大体育館ステージから現れたのは、なんと星野であった。
こちらはブーイングと歓声の両方が入り混じっている。ステージからリングまで一本道に開けられた観客席の間を駆け抜け、リングにヘッドスライディングイン。ちょっとカッコいいと思っちまった。
星野……いや、ベースボールマシーン2号がスックとリング上に立ち上がる。野球のユニフォームを模したロングタイツ、そしてこちらも上半身裸だ。さすが野球部キャプテン、すごい体をしている。が、コンドー・マッチョと比べると、いかんせん上も横も小さい。大丈夫だろうか。
「カーン」とゴングが鳴った。と同時にマシーン2号はドロップキック一閃。極めて高い打点だ。長身のマッチョの顔面を捉えた。しかも空中姿勢も美しい。星野の運動能力の高さを伺わせる。
もんどりうって倒れるマッチョ。ところで、ゴングが鳴ったというのに近藤さんはリングを下りようとしない。スーツも着たままだ。と、やおらリングサイドから、なんと金属バットを取り出した。そしてマシーンに手渡す。おい近藤! それはさすがにヤバいだろ!
バットを手にしたマシーンはマッチョに襲い掛かる……かと思いきや、バッティング練習よろしくバットを構えた。近藤さんがいつの間にやら手にしたボールをトス。カキーンと良い音させてボールは美しいラインドライブを描く。そしてドラゴン・コンドー・マッチョに直撃。
「グホッ!」
苦悶のうめき声を上げるマッチョ。マシーンは尚も的確な打撃でマッチョを苦しめる。しかし、すごいバットコントロールだ。
防戦一方だったマッチョは意を決したかの如く、迫りくるボールをものともせず、猛然と二人に突っ込んだ。そして、近藤さんを捕まえるとリフトアップ。
「おい! やめろ! 俺はお前の兄貴だゾ!」
近藤さんの叫びがここまで聞こえる。あんたさっき、兄弟じゃないって言ってたじゃないか。
そんな、無様にも暴れる近藤さんの足がマシーンの顔面に当たってしまったようだ。マシーンが目をおさえて倒れた。ドラゴンはそれには構わず、近藤さんをリング下へポイッと放り投げた。
あ!っと思ったが、下には若手レスラーたちが待ち構えていて、近藤さんをキャッチ。事なきを得る。なんだか今日の近藤さんはえらく情けない。
ドラゴンは倒れているマシーンを無理矢理立たせるとロープへ振って、反動で帰って来たところをラリアット! 仰向けに倒れたマシーンはそのままカウントスリーでフォール負け。場内は大歓声(主に黄色い声援)に包まれ、ドラゴンは両手を上げて勝ち名乗りを受けた。
なんか、最後はあっけなかったが、盛り上がり自体はすごい。はぁー、これがOWEかぁー、と妙に感心してしまった。
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