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高校本気編
銀河系女子
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「荻窪田ぁ、おめぇ、異世界転移すんだってなぁ」
俺が、まさにどうやって異世界に行くかを考えながら窓の外を眺めていたら、そう、声をかけられた。今日も相変わらず晴れて暑い。そのため、本来ならば外で体育の授業なのだが、生徒の健康を考慮して、教室で自習となった。
声をかけてきたのは同じクラスの男子二人、豪田と滑川だった。
「え、あ、いや……」
確かに俺は先生相手に、異世界へ行く、と啖呵を切ったが、先生の「真面目にやれ」という低いトーンのお叱りで我を取り戻し、「異世界とは大学のことです」とか言って、その場は凌いだ。だから、俺の表向きの志望進路は大学進学だ。しかし、やはり学校内でのことなので、どこかから俺の「異世界へ行く」発言は漏れたものらしい。
「そんなモンあるなんて、本気で思ってんの?」
「高三のくせに中二病なー」
「うまい!」
二人は爆笑したが、下手である。なんなら若干スベっている。発言したのは滑川の方なので、滑川だけに滑った、といったところか。……ん? 俺の方がうまくないか?とも思ったが、発言は控えた。
ちなみにこの二人は野球部に所属していて、ガタイもでかい。しかしレギュラーではない。ただ野球部所属という肩書きだけで、なんとなく校内カーストの上の方にいる雰囲気を出そうとしている。
ただ、二人とも俺よりも更に成績が悪く、厳密に言うと「上」というわけでもない。だからだろうか、校内カースト最下層にいる俺を叩くことで、自分たちがカースト上部にいるように見せかけようとすることがしばしばだ。
「そういやお前、小学校ン時、最後までローエナやってたらしいじゃん」
もちろん、彼らも小学校からの顔なじみである。
「いや、まぁ……」
お前らみたいなモンに口をきいてやる義理はない。と言いたいが、それは半分本当で半分嘘だ。言い返さないのではない。言い返せない。校内カーストとはそういうものだ。別に制度化されてはいないが、学内には絶対的な階級制度がある。
逆に言うと、こいつらもカースト上位者の前では大人しい。優紀も綺羅星も校内カーストではかなり高いところにいる。優紀は女子サッカー部のエースにして、ケンカが強い。
綺羅星は成績優秀者である上、一部熱狂的なファンがいるので、敵に回したら彼のグルーピーがめんどくさいことになる。そうでなくても、ご両親が元伝説のヤンキーだ。
だから、こいつらもその二人がいるところでは俺に手を出さない。しかし、二人はそれぞれ別のクラスなので、今、こういうことになっている。クラスの他の者は見て見ぬ振りを決め込んでいる。
そうなんだよな。優紀と綺羅星は上位なんだよな。俺だけは違う。俺だけ。
「おい、何とか言えよ。シカトくれてんじゃねぇよ」
豪田が俺の肩をこづく。
「いや、シカトなんて……」
「荻窪田くん、異世界行くって本当?」
キラッキラした声で、突然の来訪者が現れた。うおっ!
見ると、その空間だけ、それこそちょっと異世界だった。
ボリュームたっぷりのロングヘアをふんわりとウエーブさせ、ほっそりとした鼻は高すぎず低すぎず、顔の大きさは豪田の三分の一くらいしかないのに、目の大きさは滑川の五倍はありそうだ。もちろん、ちょっと潤んでるように見える黒目の中は銀河系だ。キラッキラ輝いている。まさにギャラクティコ。
ほんの少しだけ厚めの唇はゼリーのような瑞々しさを湛えている。素肌の透明感はほぼほぼ透明人間レベルである。ここまで存在感のある透明人間も珍しい。それでいて、ほっそりとした小柄な体型はどこか守ってあげたくなる気持ちを催してやまない。
彼女の周りだけ時空が歪んでいるように見えた。もちろん、良い意味で。
色で言えばゴールドの女の子が現れたので、さっきまでカースト上位ぶっていた野球部の二人は完全に灰色になってしまった。しかも限りなく闇に近い灰色だ。
「え……、ぁ、あう……、はぃ……」
声をかけられた俺はもはや虫の息で、そう声を絞り出すのが精一杯だった。ちなみに野球部の二人はさっきまでの勢いはどこへやら、口を噤んで黙り込んでいる。
「嬉しい! 私と同じこと考えてる人がいるなんて!」
な、何ですって? 同じこと……! こんな子が、言わば、俺の同士……!
「ねぇ、こんなトコじゃアレだから、自販機前のベンチ行かない? 異世界について、いっぱい話そうよ!」
「いや……、でも……、授業チュウでスシ……」
「大丈夫だよ。自習だし、先生来ないし。ね?」
と言って、俺の手首を掴んだ。オゥ、マーイ。
「は、はい……」
自動的に俺は立ち上がっていた。そして、銀河系女子は、そこに存在しないかの如くに野球部の二人には目もくれず、俺の手を引っ張って教室を後にした。ゴールデンギャラクティコの瞳には闇のような灰色など映らないのだろう。
銀河系女子は俺の腕を引っ張り、廊下をずんずんと進んでいく。女子に助けられた挙句、なすがままに手を引かれているのは情けなくもあるが、それが可憐な乙女となれば、正直少しばかり嬉しくもある。
大胆不敵にも授業中の廊下を俺の手を引いて闊歩するこの女子は……そうだ、葉月七瀬さんだ。
同じクラスではあるが、あまりにも自分とは階級が違いすぎるので、逆にその存在を忘れていたようだ(またしても上手いこと言った。今日は我ながら調子が良いようだ)。
葉月さんはなぜこんな、川に囲まれた辺境の地に生まれたのか、全く理解ができない。それほどの美貌の持ち主だ。もちろん全校中の憧れで、校内カーストではブッち切りのトップに君臨する。
「あ、あの……、ありがとう……」
情けなくはあるが、謝辞は言わねばならん。
「何が?」
「なんか、助けてもらっちゃったみたいで……」
みたいで、って何だ、俺! 正真正銘、俺は助けられたんだ。
「え? ……あぁ。そういえば、何かいたね」
しかしやはり、葉月さんにとっては全然眼中になかったようである。
購買部の横には、自販機が五台ほどズラッと並んでいる。その前には横長のベンチが三つほど置かれてあり、休み時間にもなると、学内のちょっとしたカフェ(言い過ぎだが)みたいになる。
だから、いつも席の取り合いになるのだが、さすがに今は授業中、当然のことながら貸し切りである。購買部のおばちゃんは見て見ぬふりを決め込んでくれている。さすがにわかってらっしゃる。たまに息抜きに来る生徒は少なくないのだろう。
しかし、葉月さんはそんなおばちゃんに向かって、
「こんにちわぁ」
と大胆不敵にも愛想を振りまく。おばちゃんも苦笑い気味に笑顔を返す。さすがカーストトップ。
助けてくれたお礼ということで、ジュースは俺がおごった(親の金だけど)。ありがとうと言いつつ、葉月さんがチョイスしたのは冷やし甘酒であった。なかなかにしてコアなドリンクである。
ちなみに俺は冷やしウーロン茶だった。こういったところに我ながら凡人性が憎らしいくらい滲み出てると思ってしまう。葉月さんの隣に座るのだから、百パーセントトマトジュースとか、もうちょっと攻めたドリンクを選べば良かったと後悔した。
しかし、それからの俺たちは熱かった。
過去に観た異世界を舞台にしたアニメやマンガ、ゲームについて語り尽くした。俺と葉月さんの趣味は驚くほど被っていた。
まさか俺が、こんな学校一、いや廻中町イチの美少女とここまで趣味を同じくするとは思わなんだ。しかも、こんなに楽し気に語らうとは……。こんなこともあるのだなぁ。恥ずかしながら、俺は悦に入っていた。
そして話題はローエナにまで行き着いた。
俺が、まさにどうやって異世界に行くかを考えながら窓の外を眺めていたら、そう、声をかけられた。今日も相変わらず晴れて暑い。そのため、本来ならば外で体育の授業なのだが、生徒の健康を考慮して、教室で自習となった。
声をかけてきたのは同じクラスの男子二人、豪田と滑川だった。
「え、あ、いや……」
確かに俺は先生相手に、異世界へ行く、と啖呵を切ったが、先生の「真面目にやれ」という低いトーンのお叱りで我を取り戻し、「異世界とは大学のことです」とか言って、その場は凌いだ。だから、俺の表向きの志望進路は大学進学だ。しかし、やはり学校内でのことなので、どこかから俺の「異世界へ行く」発言は漏れたものらしい。
「そんなモンあるなんて、本気で思ってんの?」
「高三のくせに中二病なー」
「うまい!」
二人は爆笑したが、下手である。なんなら若干スベっている。発言したのは滑川の方なので、滑川だけに滑った、といったところか。……ん? 俺の方がうまくないか?とも思ったが、発言は控えた。
ちなみにこの二人は野球部に所属していて、ガタイもでかい。しかしレギュラーではない。ただ野球部所属という肩書きだけで、なんとなく校内カーストの上の方にいる雰囲気を出そうとしている。
ただ、二人とも俺よりも更に成績が悪く、厳密に言うと「上」というわけでもない。だからだろうか、校内カースト最下層にいる俺を叩くことで、自分たちがカースト上部にいるように見せかけようとすることがしばしばだ。
「そういやお前、小学校ン時、最後までローエナやってたらしいじゃん」
もちろん、彼らも小学校からの顔なじみである。
「いや、まぁ……」
お前らみたいなモンに口をきいてやる義理はない。と言いたいが、それは半分本当で半分嘘だ。言い返さないのではない。言い返せない。校内カーストとはそういうものだ。別に制度化されてはいないが、学内には絶対的な階級制度がある。
逆に言うと、こいつらもカースト上位者の前では大人しい。優紀も綺羅星も校内カーストではかなり高いところにいる。優紀は女子サッカー部のエースにして、ケンカが強い。
綺羅星は成績優秀者である上、一部熱狂的なファンがいるので、敵に回したら彼のグルーピーがめんどくさいことになる。そうでなくても、ご両親が元伝説のヤンキーだ。
だから、こいつらもその二人がいるところでは俺に手を出さない。しかし、二人はそれぞれ別のクラスなので、今、こういうことになっている。クラスの他の者は見て見ぬ振りを決め込んでいる。
そうなんだよな。優紀と綺羅星は上位なんだよな。俺だけは違う。俺だけ。
「おい、何とか言えよ。シカトくれてんじゃねぇよ」
豪田が俺の肩をこづく。
「いや、シカトなんて……」
「荻窪田くん、異世界行くって本当?」
キラッキラした声で、突然の来訪者が現れた。うおっ!
見ると、その空間だけ、それこそちょっと異世界だった。
ボリュームたっぷりのロングヘアをふんわりとウエーブさせ、ほっそりとした鼻は高すぎず低すぎず、顔の大きさは豪田の三分の一くらいしかないのに、目の大きさは滑川の五倍はありそうだ。もちろん、ちょっと潤んでるように見える黒目の中は銀河系だ。キラッキラ輝いている。まさにギャラクティコ。
ほんの少しだけ厚めの唇はゼリーのような瑞々しさを湛えている。素肌の透明感はほぼほぼ透明人間レベルである。ここまで存在感のある透明人間も珍しい。それでいて、ほっそりとした小柄な体型はどこか守ってあげたくなる気持ちを催してやまない。
彼女の周りだけ時空が歪んでいるように見えた。もちろん、良い意味で。
色で言えばゴールドの女の子が現れたので、さっきまでカースト上位ぶっていた野球部の二人は完全に灰色になってしまった。しかも限りなく闇に近い灰色だ。
「え……、ぁ、あう……、はぃ……」
声をかけられた俺はもはや虫の息で、そう声を絞り出すのが精一杯だった。ちなみに野球部の二人はさっきまでの勢いはどこへやら、口を噤んで黙り込んでいる。
「嬉しい! 私と同じこと考えてる人がいるなんて!」
な、何ですって? 同じこと……! こんな子が、言わば、俺の同士……!
「ねぇ、こんなトコじゃアレだから、自販機前のベンチ行かない? 異世界について、いっぱい話そうよ!」
「いや……、でも……、授業チュウでスシ……」
「大丈夫だよ。自習だし、先生来ないし。ね?」
と言って、俺の手首を掴んだ。オゥ、マーイ。
「は、はい……」
自動的に俺は立ち上がっていた。そして、銀河系女子は、そこに存在しないかの如くに野球部の二人には目もくれず、俺の手を引っ張って教室を後にした。ゴールデンギャラクティコの瞳には闇のような灰色など映らないのだろう。
銀河系女子は俺の腕を引っ張り、廊下をずんずんと進んでいく。女子に助けられた挙句、なすがままに手を引かれているのは情けなくもあるが、それが可憐な乙女となれば、正直少しばかり嬉しくもある。
大胆不敵にも授業中の廊下を俺の手を引いて闊歩するこの女子は……そうだ、葉月七瀬さんだ。
同じクラスではあるが、あまりにも自分とは階級が違いすぎるので、逆にその存在を忘れていたようだ(またしても上手いこと言った。今日は我ながら調子が良いようだ)。
葉月さんはなぜこんな、川に囲まれた辺境の地に生まれたのか、全く理解ができない。それほどの美貌の持ち主だ。もちろん全校中の憧れで、校内カーストではブッち切りのトップに君臨する。
「あ、あの……、ありがとう……」
情けなくはあるが、謝辞は言わねばならん。
「何が?」
「なんか、助けてもらっちゃったみたいで……」
みたいで、って何だ、俺! 正真正銘、俺は助けられたんだ。
「え? ……あぁ。そういえば、何かいたね」
しかしやはり、葉月さんにとっては全然眼中になかったようである。
購買部の横には、自販機が五台ほどズラッと並んでいる。その前には横長のベンチが三つほど置かれてあり、休み時間にもなると、学内のちょっとしたカフェ(言い過ぎだが)みたいになる。
だから、いつも席の取り合いになるのだが、さすがに今は授業中、当然のことながら貸し切りである。購買部のおばちゃんは見て見ぬふりを決め込んでくれている。さすがにわかってらっしゃる。たまに息抜きに来る生徒は少なくないのだろう。
しかし、葉月さんはそんなおばちゃんに向かって、
「こんにちわぁ」
と大胆不敵にも愛想を振りまく。おばちゃんも苦笑い気味に笑顔を返す。さすがカーストトップ。
助けてくれたお礼ということで、ジュースは俺がおごった(親の金だけど)。ありがとうと言いつつ、葉月さんがチョイスしたのは冷やし甘酒であった。なかなかにしてコアなドリンクである。
ちなみに俺は冷やしウーロン茶だった。こういったところに我ながら凡人性が憎らしいくらい滲み出てると思ってしまう。葉月さんの隣に座るのだから、百パーセントトマトジュースとか、もうちょっと攻めたドリンクを選べば良かったと後悔した。
しかし、それからの俺たちは熱かった。
過去に観た異世界を舞台にしたアニメやマンガ、ゲームについて語り尽くした。俺と葉月さんの趣味は驚くほど被っていた。
まさか俺が、こんな学校一、いや廻中町イチの美少女とここまで趣味を同じくするとは思わなんだ。しかも、こんなに楽し気に語らうとは……。こんなこともあるのだなぁ。恥ずかしながら、俺は悦に入っていた。
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