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5. 裏切りに見えたもの

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 ペン入れの行方が気になりますが、予備のペンは手元にあるので取りに行くのは授業後でも大丈夫でしょう。
 そもそも、ちょうど授業開始を告げる鐘が鳴ったところです。

 このタイミングで講堂を出ること出来ません。
 遅刻をすれば成績に響いてしまうからです。


「では、講義を始めます」


 この講義の担当の先生が教壇でそう口にし、私のペン入れと教科書が行方不明になったまま講義が始まりました。

 幸いなことに、予習した時の内容はまだ覚えているので教科書が無くても何とかなります。
 でも、板書を写す量が増えるので少し大変になりそうです……。


 それでもなんとか講義を終えることが出来て、ペン入れを探そうとした時でした。
 聞き覚えのある声をかけられました。

 声の主は友人のカチーナさんです。
 彼女はフォルム公爵家の次女で、私の家と繋がりが深いために幼い頃から仲良くしています。


「シルフィーナさん、さっきはごめんなさい。わたくし、何も出来ませんでしたわ……。
 それどころか、貴女を裏切るような行為まで……」

「エドガー様達に味方と思わせるために騙したのでしょう? 分かっていますわよ」

「良かった……。わたくしのこと、信じてくださっていましたのね」

「ええ、私達の仲ですもの」


 本音を言えば、あの時に助けて欲しかったのですが……。
 私のために動いてくれているようなので、それに期待してみてもいいかもしれませんね。

 そうと分かれば、やることは決まっています。


「では、彼らに勘付かれないように徹底的に演技してくださいね?」

「言われなくてもそのつもりですわ。見つかるわけにはいきませんので、この辺で」

「ええ」


 最低限の会話のみで、挨拶もせずに私達はこの場を離れました。

 他所様から見れば非常識極まりないやり取りですが、カチーナさんが私と関わり続けていると知られないようにするためのものです。



 カチーナさんが私の味方というのは分かりましたが、行動できる味方はまだ居ません。
 だからペン入れも教科書も一人で探さなくてはなりません。

 先に、落ちている場所が限られるペン入れから探した方が良さそうですね……。


 一度建物の外に出て、石畳で舗装された中庭に出て先の講義で使った講堂の真下を見てみます。

「あったわ……」

 ペン入れ自体は少し砂が付いているくらいで、特に壊れたりはしていません。
 中身の方は……無事ではないでしょう。ペンはガラスの装飾もあるので、割れてしまっている様子が脳裏に浮かんできます。

 破片で怪我をしないよう、慎重に上の方を掴んで拾い上げようとした時でした。


「よお、探し物は見つかったか?」


 そんな声と共に、突然手を踏まれてしまいました。
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