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7. 悪役令嬢は商談する
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本部を視察してから3日が過ぎ、クラウディアはいつもよりも念入りに商談の準備をしていた。
今日の商談は失敗出来ないのだ。
「変なところはないかしら?」
「大丈夫だと思います」
「そう、ありがとう」
礼を言って馬車へと向かうクラウディア。
普段の商談を担当している従業員と共に乗り込むと、間も無く馬車がゲーテ商会の本部へと動き出した。
今日の移動でクラウディアと向かいに座る従業員が激しい振動に悩まされることはない。
空気を入れて膨らませたクッションのお陰である。
「このクッション、振動が伝わらないのはいいのだけど、座りにくいわね……」
「そうですね……外側をもう少し硬くしてみたものを作らせましょう」
そう口にする女性従業員。彼女の名はユリアと言い、サザン商会の幹部の1人だ。
「助かるわ。ところで、これを考えたのは誰かしら? 直接会って話がしたいわ」
「確か運搬担当の男性だったと思います。戻ったら調べさせますね」
そんな話をしている間にゲーテ商会の立派な建物が近付いてきて、間も無く馬車は入り口前に到着した。
そして出迎えに来た者に案内され、待つことなく商談の場へと足を踏み入れることになるクラウディアだった。
「本日は呼び出しに応じていただきありがとうございます。どうぞお掛け下さい」
「こちらこそ、声をかけていただき感謝しておりますわ」
仮面をつけた男に掛けるよう言われ、断りを入れてから腰を下ろすクラウディア達。
2人で来ているサザン商会に対して、ゲーテ商会は1人のようだった。
そして、クラウディアはこの男の声に聞き覚えがあったが、気にしないことにした。
そして商談は簡単な世間話から始まった。
実のところ、今回は主に商談ではなく、協力体制を築くことが双方の目的である。
利害が一致しているため、話はとんとん拍子に進んだ。
それはもう、予定していた時間の半分もかからない程だった。
「しかし、貴族の令嬢でありながら、これほどのものを持っているとは驚きました」
「何をおっしゃっているのですか? 貴方も貴族ではありませんか」
「気付かれていましたか……」
「仮面だけで気付かないはずがありませんわ。ユリウス・アルゲンテ様でございますよね?」
そう言われ、仮面を外すゲーテ商会長。現れたのは、美しい青年の顔だった。
彼はクラウディアの2歳歳上という若さでありながら、家督を譲られた優秀な人物だった。しかし、夫人はおらず婚約者どころか付き合っている女性もいない。
「まさかこのような形でお会いするとは思いませんでしたよ、クラウディア様。1年ぶりですね」
「ええ。ところで、何故正体を隠しているのですか?」
「金欲しさに寄ってくる者がこれ以上増えるのは嫌なのでね」
「そういうことでしたのね。このことは秘密にしておきますわ」
「助かります」
そう言って頭を下げるゲーテ商会長ユリウス。
そして、こんなことを呟いた。
「この方を妻にすることが出来たら、幸せになれるのだろうな……」
「心の声、漏れてますわよ?」
「あっ……。このことは聞かなかったことにしていただけませんか?」
「それは無理なお願いですわ」
こうして、商談は無事に成功という形で幕を閉じた。
しかし、クラウディアもユリウスも頭を抱えることになった。
誰かが心の声をうっかり口にしてしまったことによって。
今日の商談は失敗出来ないのだ。
「変なところはないかしら?」
「大丈夫だと思います」
「そう、ありがとう」
礼を言って馬車へと向かうクラウディア。
普段の商談を担当している従業員と共に乗り込むと、間も無く馬車がゲーテ商会の本部へと動き出した。
今日の移動でクラウディアと向かいに座る従業員が激しい振動に悩まされることはない。
空気を入れて膨らませたクッションのお陰である。
「このクッション、振動が伝わらないのはいいのだけど、座りにくいわね……」
「そうですね……外側をもう少し硬くしてみたものを作らせましょう」
そう口にする女性従業員。彼女の名はユリアと言い、サザン商会の幹部の1人だ。
「助かるわ。ところで、これを考えたのは誰かしら? 直接会って話がしたいわ」
「確か運搬担当の男性だったと思います。戻ったら調べさせますね」
そんな話をしている間にゲーテ商会の立派な建物が近付いてきて、間も無く馬車は入り口前に到着した。
そして出迎えに来た者に案内され、待つことなく商談の場へと足を踏み入れることになるクラウディアだった。
「本日は呼び出しに応じていただきありがとうございます。どうぞお掛け下さい」
「こちらこそ、声をかけていただき感謝しておりますわ」
仮面をつけた男に掛けるよう言われ、断りを入れてから腰を下ろすクラウディア達。
2人で来ているサザン商会に対して、ゲーテ商会は1人のようだった。
そして、クラウディアはこの男の声に聞き覚えがあったが、気にしないことにした。
そして商談は簡単な世間話から始まった。
実のところ、今回は主に商談ではなく、協力体制を築くことが双方の目的である。
利害が一致しているため、話はとんとん拍子に進んだ。
それはもう、予定していた時間の半分もかからない程だった。
「しかし、貴族の令嬢でありながら、これほどのものを持っているとは驚きました」
「何をおっしゃっているのですか? 貴方も貴族ではありませんか」
「気付かれていましたか……」
「仮面だけで気付かないはずがありませんわ。ユリウス・アルゲンテ様でございますよね?」
そう言われ、仮面を外すゲーテ商会長。現れたのは、美しい青年の顔だった。
彼はクラウディアの2歳歳上という若さでありながら、家督を譲られた優秀な人物だった。しかし、夫人はおらず婚約者どころか付き合っている女性もいない。
「まさかこのような形でお会いするとは思いませんでしたよ、クラウディア様。1年ぶりですね」
「ええ。ところで、何故正体を隠しているのですか?」
「金欲しさに寄ってくる者がこれ以上増えるのは嫌なのでね」
「そういうことでしたのね。このことは秘密にしておきますわ」
「助かります」
そう言って頭を下げるゲーテ商会長ユリウス。
そして、こんなことを呟いた。
「この方を妻にすることが出来たら、幸せになれるのだろうな……」
「心の声、漏れてますわよ?」
「あっ……。このことは聞かなかったことにしていただけませんか?」
「それは無理なお願いですわ」
こうして、商談は無事に成功という形で幕を閉じた。
しかし、クラウディアもユリウスも頭を抱えることになった。
誰かが心の声をうっかり口にしてしまったことによって。
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