154 / 155
Extra 01. 破滅した者の末路
しおりを挟む
「頼む、誰かここから出してくれ!」
ドンドンと扉を叩く音が虚しく響く。
ここはイストリア帝国の王宮。そして、扉を叩く人物はクラウス・ローザニア。
彼は表向きこそ王子だが、事実上では廃嫡されている。
既に破滅した彼がここまで焦っている理由は、部屋の状況を見る限り窺い知ることは出来ない。
整った調度品に、高級品のベッドやソファ。窓際のテーブルには茶菓子が置かれていて、お茶は湯気をあげている。
見た目だけは普通の部屋だが、住人であるクラウスの表情は憔悴し切っていた。
それでも彼は扉を叩き続けて訴える。
しかし、そんな時に扉越しに女性の声が響いた。
「煩いですわね? 貴方は私の玩具なの、分かるかしら?」
同時に勢いよく扉が開き、クラウスはベッドまで飛ばされた。
「うっ……」
「さあ、今日もわたくしを楽しませてくださいまし?」
そう口にするこの女性の名はエルザ・イストリア。イストリア帝国の皇女だ。
ちなみに彼女は『娼婦』という不名誉な二つ名を貴族達から頂戴していた。
その欲求は婚約破棄直後に女性を自室に連れ込み、王族でありながら婚前に盛っていたどこかの男を遥かに超える者だった。
エルザ皇女と付き合えば命まで搾り取られるなどという噂が流れるほどだった。
そしてこの噂は偽りなどではなく、彼女と付き合った男性2人が行為中に発作を起こし、帰らぬ人となっている。
そんな彼女に監禁されているクラウスは、ここに来てからまだ1週間なのにも関わらず、彼女を拒絶するようになっていた。
「さあ、早く服を脱いでくださいまし?」
「ひっ……」
満面の笑みを浮かべるエルザを前に、クラウスは気絶したようだった。
しかし彼女は構わず準備を続け、数分後には2人の声が部屋から漏れ出していた。
「皇女様は嬉しそうですな……」
「王子様はご愁傷様、としか言えませんな……」
部屋の前で護衛をしている騎士たちは溜息を漏らした。
彼らはクラウスを可哀想な王子だと思っている。だからこそ同情していて、満足の行く食事を用意したりしていた。
もしもクラウスが過ちを犯していたことが知られたら、使用人達の態度は変わるだろう。
皇女の『お気に入り』なので虐待を受けることはないだろうが、雑に扱われることは間違いない。
「頼む、休ませてくれ!」
「流石にこれは酷いですな……」
「そうそう、知っていますか? あの王子様、自国の令嬢に酷い仕打ちをして追放されたそうですよ」
「それが本当なら、自業自得ですな……」
この噂は瞬く間に広まり、クラウスは冷遇され始める。
そしてこの日から2ヶ月後、クラウスは全裸のまま最期を迎えた。
彼の遺体は数日のうちにローザニア王国へと送られ、葬儀が執り行われる事となる。
国王を始め、彼の死を都合が良いと喜ぶ者はいた。
しかし、悲しむ者は誰もいなかった。
ドンドンと扉を叩く音が虚しく響く。
ここはイストリア帝国の王宮。そして、扉を叩く人物はクラウス・ローザニア。
彼は表向きこそ王子だが、事実上では廃嫡されている。
既に破滅した彼がここまで焦っている理由は、部屋の状況を見る限り窺い知ることは出来ない。
整った調度品に、高級品のベッドやソファ。窓際のテーブルには茶菓子が置かれていて、お茶は湯気をあげている。
見た目だけは普通の部屋だが、住人であるクラウスの表情は憔悴し切っていた。
それでも彼は扉を叩き続けて訴える。
しかし、そんな時に扉越しに女性の声が響いた。
「煩いですわね? 貴方は私の玩具なの、分かるかしら?」
同時に勢いよく扉が開き、クラウスはベッドまで飛ばされた。
「うっ……」
「さあ、今日もわたくしを楽しませてくださいまし?」
そう口にするこの女性の名はエルザ・イストリア。イストリア帝国の皇女だ。
ちなみに彼女は『娼婦』という不名誉な二つ名を貴族達から頂戴していた。
その欲求は婚約破棄直後に女性を自室に連れ込み、王族でありながら婚前に盛っていたどこかの男を遥かに超える者だった。
エルザ皇女と付き合えば命まで搾り取られるなどという噂が流れるほどだった。
そしてこの噂は偽りなどではなく、彼女と付き合った男性2人が行為中に発作を起こし、帰らぬ人となっている。
そんな彼女に監禁されているクラウスは、ここに来てからまだ1週間なのにも関わらず、彼女を拒絶するようになっていた。
「さあ、早く服を脱いでくださいまし?」
「ひっ……」
満面の笑みを浮かべるエルザを前に、クラウスは気絶したようだった。
しかし彼女は構わず準備を続け、数分後には2人の声が部屋から漏れ出していた。
「皇女様は嬉しそうですな……」
「王子様はご愁傷様、としか言えませんな……」
部屋の前で護衛をしている騎士たちは溜息を漏らした。
彼らはクラウスを可哀想な王子だと思っている。だからこそ同情していて、満足の行く食事を用意したりしていた。
もしもクラウスが過ちを犯していたことが知られたら、使用人達の態度は変わるだろう。
皇女の『お気に入り』なので虐待を受けることはないだろうが、雑に扱われることは間違いない。
「頼む、休ませてくれ!」
「流石にこれは酷いですな……」
「そうそう、知っていますか? あの王子様、自国の令嬢に酷い仕打ちをして追放されたそうですよ」
「それが本当なら、自業自得ですな……」
この噂は瞬く間に広まり、クラウスは冷遇され始める。
そしてこの日から2ヶ月後、クラウスは全裸のまま最期を迎えた。
彼の遺体は数日のうちにローザニア王国へと送られ、葬儀が執り行われる事となる。
国王を始め、彼の死を都合が良いと喜ぶ者はいた。
しかし、悲しむ者は誰もいなかった。
64
お気に入りに追加
5,355
あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる