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138. 戻らぬ平穏

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 翌朝、目を覚ますと何者かに抱きしめられていた。
 危うく出かけた悲鳴をなんとか抑えて……。


「おはよう」

「ジーク様、何やってるのよ……」

「フィーナがまた襲われないか心配だったからつい。嫌だったら離れるよ」


 私の問いかけにそう答え、あからさまに距離を取るジーク様。


「嫌って訳じゃないわよ……」


 私がそう呟くと、ジーク様は一瞬動きを止めた。


「え? 今なんて?」

「着替えてくるから覗かないでね?」

「その前は?」

「恥ずかしいから言いたくないわ!」


 それだけを口にして、衣装部屋に逃げ込んだ。
 逃げ込む直前に見えたジーク様の表情は嬉しそうだったから、絶対に聞かれてるわよね。

 カーテンを閉めたままだから、表情までは見られてないと思うけど……。


 そんな時だった。


「なんでこんなことになっちゃったのかしら……」


 ふと昨日のことを思い出して思わずそう呟いてしまった。


 王子は今も牢に入れられていて、国王陛下は絶縁することも考えているらしい。
 相当悩んでいるみたいだから、あんな性格でも実の息子だから躊躇っているのね……。

 陛下がいつ決断を下すのかは分からないけど、王子はしばらく牢から出ることはないと思う。


 だから今は安心して穏やかな日々を……


「お嬢様! 大変です!
 イストリアと戦争が起こりました!」


 ……過ごせそうにはなかった。


「戦争⁉︎ ここは大丈夫なのよね⁉︎」


 驚きのあまり、衣装部屋から飛び出してしまった私。

 イストリア帝国とうちの国は仲が悪くて小さな争いはよく起きていた。
 でも、戦争になったことは最近では聞いたことがなかったから驚かない訳がない。


「相手は魔法が使えない国ですから、問題ありませんよ。
 それよりも、お嬢様の今の格好の方が問題です。ジーク様が困っていますよ?」

「ご、ごめんなさい……!」


 厚地のカーテンが開けられていて部屋が明るくなっているということは、薄いベビードールしか着ていない今の姿をしっかり見られてしまっているということに他ならなくて。
 私は勢いよく衣装部屋の扉を閉めるのだった。


 それから数分、部屋着のワンピースを着て衣装部屋を出た私。
 すぐに顔を洗ったり寝癖を直したりしてからジーク様の向かいに腰を下ろすと、早速こんな問いかけをされた。


「戦争ってことだけど、あの王子はどうなるんだ?」

「処刑されることになっても、刑が執行されるのは戦争が終わってからになると思うわ」

「そうか。まだ不安は消えないんだな」

「牢が壊されない限り大丈夫なはずよ。今回はお父様の部下の方が監視についているから。
 間違っても解放されたりはしないわよ」


 そもそも牢に入れる命令を出したのは陛下だけど、あの陛下のことなら「今すぐに王子を牢から出せ!」なんて言いかねないからジーク様も私も不安なのよね……。
 例え国王陛下が解放するように命令しても、お父様なら退けてくれるはずだけど。
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