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135. 救出

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 馬車から馬に乗り換え、無事にルシアが囚われている場所に辿り着いた私は武器を握らずに、趣味の悪い装飾が施されている廊下を進んでいる。

 今もルシアの魔力は放たれ続けているから、それを頼りにルシアの居場所を探した。



 そして……


「無視? なら自由にしてもいいってことだね」


 ……真横の扉から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 その声を聞いた私は反射的に扉を蹴って、扉を真っ二つに割っていた。
 身体能力強化の魔法、恐ろしいわ……。


 扉が無くなったことでルシアの姿とルシアのスカートに手を突っ込んでいる変態の姿が視界に飛び込んできて、私は反射的に声を上げた。


「ルシアから離れて!」

「やっと来たんだね? 約束通り、1人だよね?」


 名残惜しそうにルシアから手を離す王子。

 いいから早く離れなさいよ!


「ええ、ここには私しか来ていないわ。だから約束通りルシアを解放して」

「分かった、解放するよ。フィーナが純潔を僕に捧げてくれたらね!」


 ……は?
 何を言ってるのかしら、コノヒトは。


「……それ、本気で言ってるの? どうやら貴方には身の程を分からせないといけないみたいね」

「身の程を知るべきなのはフィーナだよ! この部屋はね、魔法が使えないようになっているんだ。
 魔法無しに僕に勝てると思ってるのかな?」

「そんなに言うならいいわ。私の本気、見せてあげる」


 新しく魔法を使うことは出来ないみたいだけど、起動済みの魔法は使えるみたい。
 だから、身体能力強化の魔法と防御魔法を使っている状態の私が負けることは無いと思う。

 それを分かっていなさそうな王子に近づいていくとーー


「もしも君が起き上がれなくなったら、責任はしっかりとるから安心してね」


 ーー緊張感のない言葉と共に王子が斬撃を繰り出した。


「恐怖で動けないのかな?」

「斬らないの?」


 まさか本気で斬ってくるとは思わなかったわ……。

 ううん、違うわ……。寸止めに失敗したのね。
 一瞬焦った表情になってたのはそういうことね。


「まさか君がそんなに怖がりだったなんてね。愛でるのが楽しみだよ。
 でも、その前にお仕置きしないとね?」


 気持ち悪いことを早口で言いながら私の胸に手を伸ばしてくる王子。


「触らないでっ! 気持ち悪い」

「ぐぎゃっ⁉︎」


 嫌悪感がすごくて足が出てしまったわ……。

 ちょっと力を入れてしまったせいで、王子の股の間に当たった私の膝は彼を後ろへと吹き飛ばしていた。
 同時に何かが潰れた音が聞こえたけど、大丈夫よね……?


 恐る恐る王子の顔を覗いてみると、彼は顔を蒼白にして白眼を剥き、泡を吹いていた。
 胸に手を当てても、胸の冷たい感触がするだけで、感じるはずの鼓動が感じられなくて……。


「ど、どうしよう……。わ、私、人を……」


 殺してしまった。


 一時の怒りに任せて殿方の弱点を狙ってないとは言え蹴ってしまったから……。

 よく分からない、得体の知れない恐怖に身体が震える。
 足に力が入らなくなって、その場に座り込むことしか出来ない。

 そして、足元に生温かい液体が広がっていく。


 そんな状態に陥ってしまった時、声が聞こえた。


「フィーナ、しっかりしろ! 何があった⁉︎」

「私……王子を……殺してしまったかもしれないの……」

「は? 何言ってるんだ? 彼は生きてるぞ」

「え……? でも、心臓が止まってたのよ⁉︎」

「いや、動いてるぞ」


 そう言われてよく見てみると、息をしているのは分かった。


「良かった……」

「立てるか?」

「うん……」


 恐怖心が消えると、今度は足元に生温かい液体が広がっているのに気付いた。
 着ていたズボンも下着もびしょ濡れになっている。

 この状況……どう考えても……。
 周りにはうちの護衛さんもいるし……最悪……。


「どうしよう、私……粗相を……」

「それ王子のだよ。馬車も着いてるだろうし、着替えてきな。
 ルシアの拘束は俺が外しておくから」

「うそっ、これ王子のなの⁉︎ 気持ち悪いっ」


 こんな男が出したものだなんて、気持ち悪いわ!
 でも、粗相をした訳ではなくて良かったわ。


「着替えなんて持ってきてないわよ?」

「戦闘で汚れてもいいようにって、護衛が持ってきてた」

「相変わらず気が効くのね。
 ルシア、遅くなってごめんね。大丈夫だった?」


 ドレスの正面が破かれていて露わになっているルシアの足を上着で隠しながら問いかける私。


「私は大丈夫ですから、早く着替えてください。
 臭いですわ……」

「私が臭いみたいに言わないで⁉︎
 ジーク様、後はお願いしますね」

「分かった。汚いから早くしてくれ」

「ジーク様まで酷い!」


 涙目になりながら馬車に向かう私だった。
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