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129. 媚薬騒ぎ

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「お父様、媚薬って……どういうことですか?」


 数秒間固まってから、お父様にそう問いかける私。
 アノヒトの隠密が盛ったみたいだけど、その隠密の実力はうちの護衛さんには及ばなかったと記憶しているから、私は困惑している。


「ああ、実はさっき王家から使者が来ていて、その時に盛られたようだ。
 相手が王家の使いだという理由で監視を外したのが間違いだった。すまなかった」

「お父様は悪くありませんわ。そうするのが決まりですもの」


 使用人であるとはいえ、格上の相手の使いに厳しい監視を付けるのは信頼していないことの現れで、失礼とされている。
 だから、お父様は何も悪くないのよね。


「そう言ってもらえると助かるよ。もし媚薬が効き始めて辛かったら遠慮なくアイリスに言ってくれ」

「分かりましたわ」


 私が頷くと、お父様は執事長さんにこんなことを伝えた。


「明日の朝までフィーナに男性の使用人を近付けないように。それと、侍女を誰かしら側につけて欲しい」

「畏まりました」


 執事長さんが恭しく頭を下げて部屋から出ていくと、入れ替わるようにしてジーク様が入ってきた。
 そしてまっすぐ私の方にやってきて、おもむろに抱きしめてくれた。


「怖いよね……」

「うん……」


 ジーク様は私が媚薬を盛られたことを知っているみたいで、そう口にしながら私の頭を撫でてきた。
 そして、彼が離れようとする時に手が首に触れて思わず飛びのいてしまった。


「ごめん……嫌だった?」

「ううん、手が当たった時に変な感じがして思わず……」

「媚薬が効いてきたのか」

「多分……」


 私達がそんな話をしていると、お父様がこんなことを口にした。


「フィーナ、いつ王子が襲いに来るか分からないから別の部屋で寝るようにしてくれ。侍女に部屋の準備はさせてある」

「分かりましたわ……」


 身体が熱くて胸がドキドキするのは媚薬のせいよね……?


「もし耐えられないと思ったらこれを読むように。媚薬の対処法が書いてある」


 そう言って半分に折ってある紙を出すお父様。
 受け取る時に透けて見えた時はお母様の字だったから、急いで書いてくれたみたい。

 なんだか恥ずかしいことが書かれているのも見えた気がしたから、頼るのはやめておいた方が良さそうね……。

 そんなことを心の中で決め、中庭に面した部屋に移動する私。
 こんな状況だからついてくる侍女さんの人数もいつもより多く、完全武装の護衛さんもついてきている。

 ちなみに、私はいつも通りスカートの内側に護身用の短剣を忍ばせている。
 身体がおかしくなっている今は剣を交えることなんて出来そうにないから。


「この部屋で合ってるわよね?」

「はい」


 侍女さん達に確認をとってから部屋に入ると、お茶とお菓子、それにチェス盤や読みかけの本が用意されていた。
 暇を弄ばないようにここまで運んできてくれたみたい。


「ジーク様、ソーラス様から伝言です。
 何があってもフィーナに手を出したら許さないからな、だそうです」

「そうですか……」


 私達姉妹のことになると心配性になるお父様だけど、やっぱりこうなるのね……。
 苦笑するジーク様を前に、そんなことをを思う私だった。
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