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127. お茶会②

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 アイセア様よりも少し前を歩きながら後ろを見てみると、アイセアはイリーナ様が隠れているのとは反対側の壁を見ていた。
 そして、その隙にとアイセア様の背後に移動するイリーナ様。


「去年お邪魔した時にここに飾ってあった騎士様の絵って、今はどこにありまして?」

「これから通る廊下にありますわ」


 そういえば、アエリア様はあの絵に描かれている騎士をカッコいいと言っていたわね……。
 前はそんな素振りはなかったけど、気に入っているみたい。


「早く見たいですわ!」

「焦らなくても絵は逃げませんわよ……」


 苦笑いを浮かべながら廊下を進む私。
 不思議なことに、イリーナ様の存在はまだ気付かれていない。

 気付いていないフリかもしれないけど、一応大丈夫そうね。


 私がそんなことを思っていると、アイセア様がこんなことを口にした。


「フィーナ様、少し恥ずかしいことを相談してもいいですか? フィーナ様だけにしか聞かれたくないので、少し耳を貸して欲しいですわ」

「いいですわよ。私なんかでお役に立てるかは分かりませんが……」


 そんな相談なら人払いをした部屋でするべきなのだけど、別の意図を感じた私は頷いてアイセア様の行動を待った。
 すると、彼女は私の耳元でこう囁いた。


「後ろから怪しい気配がしますわ……。今から斬るので離れていてくださいね」

「え……」


 予想外の言葉に固まる私。
 その間にアイセア様はスカートの中に手を入れて護身用の短剣を掴んでいた。

 私は慌ててさっき通り過ぎた曲がり角に隠れるように手の動きでイリーナ様に伝えようと試みたけど、イリーナ様の姿は既になかった。


「あら、気のせいだったみたいですわ。ごめんなさい」

「結界が破られたのかと思ってしまいましたわ……。何もなくて良かったです」

「よく考えたら、ここの結界を破れる者などいるはずがありませんわね……」


 これは高位の貴族なら当たり前のように知っていることだけど、屋敷の敷地には不審者が入れないようにする結界が構築されていて、許可のない者は入れないようになっている。
 これを突破するには、結界を破壊するか書き換えるかしないといけないのだけど、外部からそれをするのはほぼ不可能になっている。

 不可能というわけでは無いのは、お父様とお母様はうちの結界を無理矢理書き換えたことがあるから……。
 ちなみに、この結界が防げるのは不審者の侵入だけで、物を投げ入れたりは出来る。


「私の両親は無理矢理破れますけどね……」

「流石は魔導侯爵家と呼ばれるだけはありますわね……」


 苦笑いを浮かべながら廊下を進む私達。
 少しすると、騎士の後ろ姿が描かれた絵の前にたどり着いた。


「やっぱりカッコいいですわ。うちにもこういう絵があればいいのに……」


 うっとりとした表情でアイセア様が呟くと、私の足音に綺麗に重ねてついてきていたイリーナ様がアイセア様の肩に手を置いた。


「フィーナ様?」

「アイセア様の夢見る乙女のような仕草、可愛らしかったですわ」

「い、イリーナ様⁉︎ 今のは忘れてくださいッ!」


 一瞬ビクッとして、取り乱すアイセア様。

 こうして、イリーナ様の計画は無事に成功した。


 それから、私はお茶会の会場にしている部屋にアイセア様とイリーナ様を案内するのだった。
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