上 下
123 / 155

123. 王太子side 叶わぬ復縁

しおりを挟む
 レイラを捨ててから数ヶ月、建国記念式中に久しく目にしていなかった元婚約者を見つけて、ようやく話が出来ると思って胸を躍らせた。


 会ったら何を話すかはもう決まっている。
 彼女に再び僕の婚約者になるように伝えることに。
 断られる心配は無いだろう。一度捨てられても、あれだけ僕に尽くしてくれていた彼女が僕を諦められるはずがないから。


 国王である父が貴族達に向けて話をしている時に彼女を見ていたら、一瞬目があったがすぐに目を逸らされてしまった。
 恥ずかしくて逸らしてしまったのだろう。

 そう思った時、ふと良く無い想像が浮かんでしまった。
 フィーナに話しかけても恥ずかしがられて断れてしまうかもしれないと……。


 それからしばらくフィーナの様子を見ていると、視線は全く合わなかったがチラチラとこちらの様子を伺っているのは分かった。
 どうやら僕のことが気になっているようだ。

 その様子が可愛らしくて今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られたが、今は式典中なのでなんとか耐えることにした。



 そして式が終わり宴会へと移ると、フィーナは彼女の友人達と会話に花を咲かせていた。
 途中で邪魔しては悪いと思い、次に彼女が話をしそうな令嬢の近くで待ち構えることに決めた。

 だが、令嬢の方が僕よりも上手で会話が途切れる前からフィーナの近くにいたせいで叶わなかった。
 同性の方が話の流れが分かるのは当たり前かもしれないが、少しは空気を読んで欲しいものだ。


 そんなことを思ったが、直接文句を言うつもりはないので、彼女達の話が終わるまで待つことにした。

 そして、フィーナと話していた公爵令嬢2人が離れた隙に彼女に近付いて声をかけた。


「フィーナ、久しぶりだね」

「殿下、どうかされましたか?」


 こちらに振り向いて、驚いたような様子を見せながら聴き馴染みのある声で問いかけてくるフィーナ。
 嬉しそうな表情が見れると期待していたのだが、後ろから声をかけたせいで驚きの方が勝ってしまったようだ。


「久しぶりに僕と話せて嬉しいかい?」

「いいえ……」


 笑顔を浮かべながら問いかけたのにも関わらず、無表情でそう口にするフィーナ。
 恥ずかしいからって無表情で返されると少し傷付く。


「そうだよね、嬉しくて当然だよね」

「全くそんなこと思っていませんわよ?」

「えっ、なんで?」


 普段よりも低い声で言われて、思わずそう返してしまった。

 すると、彼女は笑みを浮かべ始めた。
 どうやらさっきの言葉は冗談のようだ。照れていると思うと嬉しいが、やっぱりフィーナには笑顔でいて欲しい。

 恥ずかしがる表情も可愛いかったから、後で自室に連れ込んで色々してみるのも良さそうだ。


「そっか、嬉しすぎて照れてるんだね」


 色々なことを想像していると、そんな言葉を口にしていた。


「いいえ、嬉しいだなんて欠片も思っていませんわ。
 友人が戻ってきたので私はこれで失礼します」

「待ってくれ。本題がまただなんだよ」


 恥ずかしいからって逃げられたら機会を逃してしまうーー。だから、肩を掴んで逃げられないようにした。


「言いたいことがあるのなら早く言ってください」

「分かった、単刀直入に言うよ。僕と婚約し直してもらえないかな?」


 僕がそう問いかけると、フィーナはしばらくの間固まっていた。
 復縁出来るとは思っていなかったのだろう。混乱しているようだ。

 そう思っていたのだが、フィーナは予想外の言葉を口にした。


「私を裏切っておいて、何が復縁ですか? 大体、私がいつ裏切るか分からない殿方の側にいようとするわけないじゃないですか。謝罪の言葉も無しに、酷すぎませんか?」

「それは悪かったと思ってるよ」


 フィーナが怒っている。そう分かり謝罪の言葉を口にする。


「私は貴方の都合のいい駒ではないのですよ? もう一度よく考えてから行動することをおすすめしますわ。では、私はこれで失礼しますね」


 そう言ってどこかに行こうとするフィーナ。
 王族である僕が態々謝罪したのにも関わらず、まだ不満なようだ。


「身勝手な理由で婚約破棄したことは申し訳なかった。簡単に許してもらえるとは思っていないが、フィーナが負った傷の分はしっかりと償う。だから許して欲しい。
 どうか、僕のそばにいてくれないか?」

「今更謝っても、もう遅いですよ?」


 頭を下げてまで謝ったが、彼女はそう口にして踵を返した。
 咄嗟に肩に手を伸ばしたが、魔法で弾かれてしまい、引き止めることは出来なかった。

 彼女が本気で怒っていることを見たことはないが、婚約者同士の関係だった時でさえ彼女が怒れば止めることは出来なかった。
 だから、その時以上に怒っている彼女を再び婚約者にすることは叶わないだろう。

 最後の希望を断たれ、僕はしばらくの間項垂れることしか出来なかった。



 それからなんとか宴会を終え、夜になって高熱を出して寝込むことになってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す

夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。 それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。 しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。 リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。 そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。 何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。 その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。 果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。 これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。 ※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。 ※他サイト様にも掲載中。

カワウソの僕、異世界を無双する

コプラ
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕 いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい! お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡ ★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。 カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり! BLランキング最高位16位♡ なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡ イラスト*榮木キサ様

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

記憶をなくした私は王太子妃候補の一人らしいです。覚えていないので辞退してもいいですか?

かほなみり
恋愛
――気が付くとテーラーのウィンドウの前で一人ぼんやりと立っていた、記憶を失った伯爵令嬢ルドヴィカ。自分が誰なのか分からないまま、気を失い倒れたルドヴィカは街の診療所に運ばれ、婚約者だと名乗る男性に丘の上に聳え立つ城へと連れてこられた。「俺の名前を思い出して」王太子妃候補だという自分、この人が王太子なのだろうか?何も覚えていないルドヴィカは、真実を知るために自ら行動に移すことに。 記憶を失っても自ら行動に移す強さを持つルドヴィカと、ルドヴィカに自分のことを早く思い出してほしい殿下の大切なものを取り戻すまでのお話。 ラブコメ、ハッピーエンドです!ゆるく読んで頂けると幸いです。

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

華蓮
恋愛
妹は私のものを欲しがる。両親もお姉ちゃんだから我慢しなさいという。 私は、妹思いの良い姉を演じている。

B29を撃墜する方法。

ゆみすけ
歴史・時代
 いかに、空の要塞を撃ち落とすか、これは、帝都防空隊の血と汗の物語である。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...