上 下
90 / 155

90. ソーラスside 強行軍(1)

しおりを挟む
 今月の始めに行われた件の裁判から半月、私の元にキーファスからの手紙が送られてきた。

 毎週交わしていふ手紙は一昨日返事を出したばかりだから、何か問題が起きたのだろう。
 夕食中だったから断りを入れて目を通すと、予想していた内容が目に入った。


『クラウス王子が我が家の使用人に暴力を振るってきているから、なんとか連れ戻してくれないか?』


 これを読んだ私は明日の早朝にアトランタ領へ向かう準備を指示した。

 これは恥ずかしいことなのだが、ローザニアでは使用人は物のように扱われていることが多い。
 王宮も例に漏れず、不手際をしてしまった使用人への暴力は日常茶飯事なのだ。

 我が家は代々使用人との関係も大事にしているから、よく他の貴族から馬鹿にされたりしている。


 こんな国で暮らしているからこそ、共に暮らしている使用人を傷付けられる怒りは知っているつもりだから、最悪の事態が想像出来てしまう。
 というのも、3年前に取引のために呼んだ伯爵の前でフィーナ専属の侍女のアンナが転んでしまい、胸を蹴られて大怪我をした出来事があったからだ。

 ちなみに、この時アンナが転んだのは交渉が上手くいかずに苛立っていた伯爵が帰り際、お茶を運んでいたアンナに足をかけたからだった。
 当然、その伯爵とは関係を切った。不敬罪というお土産を渡した上で。


 使用人への暴力が当たり前の国で暮らす私でさえかなりの怒りがあったのだ。キーファスの怒りはもっと大きいものだろう。
 だから、厄介なことになる前に馬鹿を捕まえて謝罪をさせ、さらに馬鹿なことをしないように監視を付けようと思っている。


「王家に手紙を送るからペンの準備を頼む」

「畏まりました」


 この後、王子がやらかしたことを伝えるための手紙を送りつけ、明日からの強行軍に備えるのだった。


 そして翌日、日が登る前に出発して昼前にはアトランタ領に入った。


「旦那様、あと1時間ほどですね。相手は王子ですが、どうされるおつもりですか?」

「捕まえて連れ帰るだけだ。多少乱暴になっても構わん」

「それでは我々が不敬罪になってしまいますが……」


 私の言葉に困惑しながら聞き返してくる護衛。

 これはあまり知られていないが、ローザニアの軍事は我が家の魔法技術が全体的に関わっている。


「我が家が無かったら軍事力が下がるから簡単に罪に出来ないからな。陛下と王妃殿下には申し訳ないが、王国を捨てる覚悟も出来てはいる」

「王子殿下がこれではそのような考えになられるのも仕方ないですね……」


 そんな感じで雑談をすること数十分、ようやくアトランタ邸に到着した。


「うちの馬鹿王子を引き取りに来たんだが……」

「それなら少し前に帰ったぞ」

「入れ違いになったのか。遅くなって済まない」


 出迎えてくれたキーファスに頭を下げる私。
 最短ルートで来たはずなのだが、まさか入れ違いになるとは思わなかった。


「とりあえず上がってくれ。大事な話がある」


 そう言われ、護衛10人とお邪魔することになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~

マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。 その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。 しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。 貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。 そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。

処理中です...