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62. フィーナ父side 襲撃事件(1)

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 苦しそうにしている横には桶を持った侍女がいて、背中をさすっている。
 その反対側では医者が傷の手当てをしているようだった。


「頭でも打ったのか?」

「旦那様……! 奥様のお怪我は右腕だけです。これは精神的なものですのでご安心ください」

「旦那様、先に護衛の方から状況を聞かれた方が良いかと」

「分かった」


 アイリスのことが心配だが、こうなった原因が分からなければ対処のしようがない。
 だから使用人達の言葉を聞き入れることにした。


 手の空いていそうな侍女に護衛を呼びに行かせ、すぐにやってきた護衛隊長に説明を求めると、彼はこう口にした。


「門の前で16名の襲撃に遭い全力で応戦致しましたが、人数差を覆すことが出来ず2名の馬車への侵入を許してしまいました」

「16か、多いな。敵は手練れだったのか?」

「はい。通常の襲撃でしたら100人だろうと返り討ちにしております」


 大袈裟に聞こえるが、我が家の護衛騎士達はほとんどが騎士団の精鋭に引けを取らない強さだ。
 護衛達が悪かったとは考えていない。

 そもそも護衛は完璧ではないから、護衛がいないことを前提に家族には護身術を学ばせてきた。


「敵が侵入した後は?」

「奥様が魔法で返り討ちにされました。ただ……」

「なんだ?」


 言葉を渋る彼に先を促す。


「2人目を返り討ちにされる際に内臓が飛び出すところを目の当たりにされたようでして……」

「それでああなってるのか。腕は敵にやられたのか?」

「いえ、魔法の余波で吹き飛んだ馬車の破片が突き刺さってしまってああなっています」


 それを聞いて、私はあることを決めた。

 次に作らせる馬車は頑丈なものにしようと。


「そういうことか。敵は何人逃げた?」

「1名のみです。12名は既に死亡、3名を拘束しました。身柄は既に騎士団に引き渡しております」

「分かった。持ち場に戻っていいぞ」

「はっ。では、失礼いたします」


 この後はアイリスが落ち着くまで寄り添って背中をさすり続けた。



 1時間もしないでアイリスが落ち着いてからは、すぐに事件の調査を始めた。
 とはいっても、拷問や捜査は騎士団に任せたので、やることは襲撃された理由を探るくらいだ。

 そういうわけでアイリスに心当たりが無いか聞いてみたのだが……予想もしなかった言葉が飛び出してきた。


「昨日公爵家の不正の証拠を見つけてしまったの……」

「不正の証拠? それ、探った訳じゃないよな?」

「探ってなんかないわ。たまたま公爵家の方が不正の話をしているところを聞いてしまって、その方が書類を落としていったから拾ったのよ」

「その書類に何かありそうだな。今どこにある?」

「私の部屋にあるいつもの引き出しよ」

「分かった」


 そう口にして、私はアイリスの部屋に向かった。
 その書類というものが解決の糸口であることを期待しながら。
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