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56. 竜の国の社交界③

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「ごきげんよう、はじめまして。今日初めて社交界に参加されるのですか?」

「ええ」


 囲まれたかと思うと、いきなりそんなことを言われて戸惑い気味に返す私。
 まさか話しかけられるとは思っていなかったから、少し困惑している。

 悪意は全く感じないから、私と友好関係を作ろうとしているのだと思う。でも、囲うのはやり過ぎだと思うのよね。


「私、テレーゼ・クレノアと言いますの。貴女のお名前を伺ってもよろしくて?」

「フィーナ・アストリアですわ。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 明るいブロンドの髪のご令嬢ーーテレーゼ様とそんな会話をすると、今度は赤い色の髪の方と若草色の髪の方も名乗ってくれた。


「私はローズ・リトニアですわ。色々あって大変だと思いますが、お友達になってくださると嬉しいですわ」

「アエリア・ノートルムです。一応、こちらのルイス様の婚約者をしていますの。
 不束者ですがよろしくお願いします」


 若草色の髪のアエリア様の婚約者様はジーク様に「死んだと思ったぞ」と言われていた青髪の殿方らしい。
 ジーク様のご友人の婚約者ということは、この先付き合いが長くなると思うからアエリア様とは仲良くしておこうと思う。

 もちろん、テレーゼ様とローズ様ともいい関係を築けたらいいなと思っている。


「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」


 頭を下げる二人に、私もスカートを摘んで礼をした。


 それから私も雑談に参加して色々な質問に答えたりしていると、アエリア様が婚約者様に連れて行かれた後にあまり答えたくない質問が飛び出してきた。


「フィーナ様の姿が見えた時から気になっていたのだけど、ジーク様とはどういう関係なのかしら?」

「それ私も気になってたのよ。嫌じゃなかったら教えて欲しいわ」


 テレーゼ様の言葉にそう被せてきたローズ様。
 他人の恋話が気になるのは分かるけど、聞かれる方は恥ずかしいのよね……。

 ちなみに、会話が打ち解けた感じなのはグレイヴでは普通らしい。初対面や大きく地位が離れた間柄でなかったら、こんな感じらしい。


「まだお付き合いを始めたばかりですわ」

「えぇーっ⁉︎ すごく仲良さそうだったから、長いお付き合いだと思ってたわ」


 私の言葉に驚くローズ様。そして、こんなことを口にした。


「もしかして、ジーク様の独占欲が強いのかしら? だとしたら大変じゃない?」

「いえ、そんなことないです。寧ろ安心するというか……」

「浮気されたばかりだから愛されてるって感じが良いのよ、きっと。独占欲が強い方って浮気しなさそうだもの」


 そう口にするテレーゼ様。
 ジーク様の独占欲が強いのは気付かなかったわ……。

 でも、どこかの誰かとは違って、私を大切にしようとしてくれているのは分かっているからジーク様の告白を受け入れたのよね。


「浮気で思い出したわ。ローザニアの王太子が屑だというのは本当なの?」


 不意にテレーゼ様にそんなことを聞かれて、私は感情に任せてこう答えていた。


「本当よ。屑じゃなかったら怖いくらいよ」


 つい本音が出てしまったわ……。危ない女って思われないよね?
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