上 下
45 / 155

45. 竜の国の王都へ④

しおりを挟む
 あの後すぐに朝食の時間が来てしまい、落ち着く前にダイニングに行った。顔が赤いのを隠すために俯きながら……。
 そのせいで何があったのかソフィア様とキーファス様に聞かれたのだけど、もちろん私から答えることなんて出来なかった。


「ジーク、何があった?」

「何もありません」

「嘘をつくな。フィーナ嬢の様子を見れば何かあったのは分かる。まさか襲ったのか?」

「襲っていませんよ!」

「言えないことをしたんだな?」


 このままではジーク様が怒られてしまうと思ったら、焦りで熱が冷めてきた。

 だから、私は顔を上げてジーク様の無実を説明することにした。


「ジーク様には何もされていませんわ。何があったのかは説明出来ませんけど、間違いは起きていないので大丈夫です」

「フィーナ嬢がそう言うなら、探るのはやめよう。ジーク、怒ってすまなかった」


 キーファス様はそれから何があったのか聞いてこなかった。

 秘密にしてとお願いしていなかったのに、秘密に出来て良かったわ。





 それから3日後の昼前、大きな街の上を飛んでいると前の方に巨大な真っ黒な塔が見えてきた。

「あの塔ってなんの塔ですか?」

「守護竜の一家が暮らしてる塔だ。頂上に巣がある」

「そうなのですね。あんなに高くて、崩れたりしないのですか?」


 私がそう聞いてみると、ジーク様は当然のようにこう答えた。


「毎年崩れてるよ」

「大丈夫なのですか……⁉︎ 絶対危ないですよね?」

「大丈夫、怪我人すら出た事ないから」


 あんなに巨大な塔が崩れたら大惨事になると思うのだけど?
 周りが開ているわけでもなさそうだから。

 全く理解出来そうになかったから、他の話題にすることにした。


 ちなみにだけど、私がジーク様を抱きしめてしまった事件以降、私たちの距離は近くなったと思う。
 主にジーク様が自然に私を抱き寄せるようになっただけなのだけど、私もジーク様も寄り添うことに抵抗がなくなったのかな。

 でも、夜寝る時は距離を取っている。ジーク様から「好きな女の子に抱きしめられたら我慢出来なくなりそうだからやめてくれ」と言われたから。
 私としても一線を超えるのはお断りだから、二度とあんなことをしないように気をつけている。



 塔が見えてから少しして、大きなお屋敷の前に着いた。


「大きいですね……。うちの倍はありそう……」

「王都の貴族の屋敷としては一番大きいんだ。迷わないようにな?」

「はい。ジーク様と一緒に行動するようにしますね」

「それは嬉しいが、フィーナが不便だろ? 後で一通り案内するから覚えてくれ」

「努力しますわ……」


 こんなに大きなお屋敷の中なんて、1日で覚えられる気がしないわ……。

 ちなみに、ここでも部屋はジーク様と一緒になっている。


 これは出発前にティアナさんやソフィア様から聞いた話なのだけど、ローザニアでは婚約前に同じ部屋で寝泊りすることはあり得ないけど、グレイヴでは普通のことらしい。

 ローザニアみたいに男性中心の考え方ではなく、女性を大切にする考え方だから、無理やり純潔を奪われることはここ100年起きていないらしい。


 お互いの同意があれば、婚約前でも既成事実を作ることがよくあると聞いて卒倒しそうになったりもしたわ。
 なんでも、絶対に結ばれたい相手との関係を他の貴族に引き裂かれないようにするためなんだって。

 私には絶対に無理だけど、アトランタ家は筆頭貴族だからその必要は無いと聞いて安心した。


 そんなわけで、今は二人で案内された部屋にいる。

 ここは当主夫妻の部屋らしい。


「私なんかがここで過ごして本当によろしいのですか?」

「むしろフィーナじゃなきゃ駄目だ。この部屋は機密書類とかないから、滞在中は自由に使っていいよ」

「ありがとうございます」


 そんな会話をしていると、ティアナさんが他の侍女さん2人を連れてやってきた。


「フィーナ様、明後日の準備をいたしましょう!」

「今から、ですか?」

「お飾りが合わなかったりするといけませんので、念には念を入れるのです。あ、ジーク様はしばらく部屋から出ていってください」

「ここは俺の部屋なんだけど?」

「出 て い っ て く だ さ い」

「分かった……」


 ジーク様が追い出されると、社交界用のドレスに着替えさせられ、着せ替え人形よろしく色々なお飾りを試させられた。
 髪型も何回も変えられたから、髪が傷まないから心配になってしまった。


 それよりも……


「私、社交界で上手くやれるかな……?」


 ……今呟いてしまったことが一番心配なのよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~

マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。 その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。 しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。 貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。 そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。

処理中です...