婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ？〜

29. 辺境伯邸④

「お取り込み中失礼します。
　旦那様、お手紙が届きました。早めにご確認ください」


　私のお父様の話になったとき、執事らしき殿方が部屋に入ってきてそう口にした。
　手には封筒が2つ握られていて、そのうちの1つをキーファス様に差し出した。


「分かった。今確認する」


　タイミングよくペーパーナイフを差し出す執事さん。
　キーファス様は手際良く封を切っていく。

　すると、今度は私に残りの封筒を差し出してきた。


「こちらはフィーナ様宛てになります」

「私、ですか？」

「はい。ご両親からですよ」


　私が首を傾げると、そう答えてくれた。

　手紙を出したばかりだからまだ届かないと思っていたから驚いたわ。
　届くのに3日かかるのが普通の距離なのに……。


「もう届いたのですね。ありがとうございます」


　お礼を言って受け取る私。
　この場で中身を見るのは失礼になってしまうから、中身は見ないでそのまま鞄にしまった。

　その後、キーファス様な手紙から顔を上げたタイミングで気になったことを聞いてみた。


「そういえば、私の父に殺されるとおっしゃっていましたけど、どういう意味ですか？」

「こういう意味だ」


　そう言ってキーファス様が見せてきたのは、お父様の字で書かれた手紙だった。

　フィーナに何かあれば殴りに行くって……完全に脅しよね？

　心配してくれるのは嬉しいけど、脅しをするのは良くないと思うわ。


「父が失礼なことを言ってしまい申し訳ありません」

「いや、気にしなくていい。俺とソーラスの仲だからな」


　慌てて頭を下げたけど、キーファス様は特に何も思ってないようだった。


「話が逸れてしまったな。ドレスの件だが、フィーナ嬢、貴女の要望を聞きながらデザインさせようと考えている。
　我々は貴女の好みを把握していないからな」

「そこまでしていただかなくても……。お店にあるもので大丈夫ですのに」

「……」

「そちらの方が安く済むので、お気になさらないでくださいませ」


　キーファスさんが言葉を詰まらせると、女性の使用人さんがそう補足してくれた。

　作ると安く済むって……なんでかな？


「都会の商店は値段を釣り上げているからな。うちのお抱え商人に作らせた方が品質も信用出来るんだ」

「そうなのですね。では、それでお願いしますわ」

「うむ。次商人が来るのはいつだったか？」

「明日でございます」


　執事さんに確認するキーファス様。
　確認を終えるとすぐに私に向き直って、短くこう告げてきた。


「では、また明日来てくれ」

「分かりましたわ」


　辺境伯様の性格のお陰か、最初は感じていた緊張も今は消えていた。
　でも、他所様にドレスを作ってもらって大丈夫なのかしら？

　変な勘繰りを受けないように代金はお返ししないといけないわね……。
　女性がドレスを受け取っていい相手は、家族かお付き合いしている方の家族だけだから。

　とりあえず、早く家に戻って手紙を確認しなくちゃ。