上 下
62 / 74

62. 余命2日②

しおりを挟む
「おやすみ」
「うん、おやすみ」

 ベッドに入ってから、フレアの言葉に返す私。
 すぐに目を閉じて眠りにつこうとしたのだけど……。

「寝れないわ……」

 眠気が全く襲ってこなくて、寝れる気配が全く無かった。

「怖いの?」
「そうかも……」

 フレアが守ってくれていて、いざとなれば幻想空間もある。だから心配する必要が無いことは分かっているのだけど……お兄様とお姉様のことが心配で仕方なかった。

「レティのお兄さんとお姉さんも、瘴気を防ぐ手立てはあるみたいだから、大丈夫よ」
「そうだといいけど……」
「今はちゃんと寝て、いざという時に備えるべきよ。もしかして、無理矢理寝させた方がいいかしら?」

 満面の笑みで言わないで欲しいわ……。
 少し……いや、かなり恐怖を感じてしまった。

「大丈夫よ」

 それだけ口にして、目を閉じる。
 すると今度は、あっという間に意識が遠のいていって……。


 ……。
 …………。


「おはよう」

 目を開けた瞬間、そんな声がかけられた。

「おはよう」

 朝陽が眩しくて、細目になりながら返事をする。
 起き上がって窓の外を見てみると、昨日はすぐ近くまで迫っていた瘴気が遠くに移ったのが分かった。

「こんなに遠くになったのね」
「少し消しただけでこんなに怯えるなんて、驚いたわ」
「そうね」

 そんなことを話しながら、朝の準備を始める。
 今日も女官の仕事があるから急がないといけないのだけど……。



 ……朝食のために向かったレストランには列ができていて、待っていたら仕事に間に合わないように思えた。

(朝は諦めないとダメそうね……)
(大丈夫?)
(多分大丈夫よ……)

 仕方ないから、諦めてそのまま仕事場に向かう私。
 部屋に入ると、いつもお食事会で使っている机の上にパンが積み上がっているのが目に入った。

「クロエさん、これって……」
「差し入れですわ。沢山あるので、お好きなだけどうぞ」
「ありがとうございます」

 お礼を言いながら、1つ手に取ってみる。
 大きさは2口くらいで食べれそうなのだけど、量が量。ちょうどいいくらい食べても、まだ沢山積み上がっていた。

 でも、皆さん朝食を済ませられなかったみたいで、仕事が始まる前には数個残るだけになっていた。

「今日も頑張りましょう、と言いたいところなのですが……今日は お休みになりました」
「どういうことですの?」
「さっきこんな知らせが届きましたの」

 差し出される1枚の紙。みんなで覗いてみると、そこには事務職を休みにするということが書かれていた。
 必要に応じて戦う必要もあるみたいで、仕事場で待機するようにとも。

 きっと陛下は、王宮の防衛には騎士団以外の力も必要だと考えたのね。

「いつ戦いになるか分かりませんし、今はしっかり休んで万全を期しましょう」
「「はい」」

 そんなわけで、私達は軽く雑談をしながらゆっくり休むことになった。


   ◇  ◇  ◇


 同じ頃、ルードリッヒ侯爵邸ではちょっとした騒ぎが起きていた。

「何故これほど濃くなっているのだ……!?」

 朝を過ぎても明るくならないことを不審に思い、外を見るなり声を上げる侯爵。
 結界のお陰で屋敷の周囲に霧が立ち込めることは起きていないが、外に出るのは困難だと一目で分かってしまった。

「お父様、結界は大丈夫ですの?」
「ああ。セシル達のお陰で、放置しても半月は持ち堪えられそうだ」
「そうですのね。良かったですわ」

 幸いにも、小麦粉の貯蓄は半年分残っており、乾燥させた果物もある。そして栄養が詰まった豆も10ヶ月分残っている。
 だが、この豆は家畜用という問題があった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

言いたいことは、それだけかしら?

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】 ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため―― * 短編です。あっさり終わります * 他サイトでも投稿中

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

処理中です...