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37. 余命7日③
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(今の冗談だからね? 真に受けないで?)
うん、知ってた。だって、幻覚なら触れていた時点でおかしいもの。
(分かってるから大丈夫よ)
(急に止まるから信じちゃったとばかり……)
(いい気分転換になったわ。ありがとう)
驚いたように見せたのは私からのささやかなお返し。
でも、精霊のフレアが冗談を言ったことに驚いていたから、少し分かりにくい演技だったかもしれないわね。
そんな反省をしながら足を進め、数分も経たずにレストランにたどり着いて、いつものやり取りに続けて席に案内されたのだけど……
「レティシアさん、今日は隣ですのね。良かったらこちらに来ませんか?」
「では、お邪魔しますわ」
……通路を挟んで向かい側の席にクロエさんが座っていて、席を変えてもらうことになった。
「レティシアさんは何にしますの?」
「私はこれにするつもりですわ。全種類頂くために順番に選ぶことにしてますの」
「奇遇ですわね。私もそのやり方で、今日は3周目ですの」
そんな会話をしながら料理を待つ私達。
でも、10分待っても運ばれてこなくて……
「大変お待たせしました」
……そんな言葉と共に料理が運ばれてきた時には女官の仕事が始まる時間まで数分しかなかった。
だから間に合わせるために無言で食事を進めて、なんとか1分前にここを出ることが出来た。クロエさんが。
私は今日から視察に同行するために休暇を頂いているから、普段通りに食事をすすめた。
それから挨拶をするために仕事場に寄ったのだけど、今日も仕事はほとんどなかったみたいでお茶会をしていて、参加したい気持ちを抑えながら殿下との待ち合わせ場所に向かうことになってしまった。
(王子はまだいないみたいね)
(まだ10分前だもの。いなくて当然よ)
特に話す話題もなく、ひたすら待つこと10分。
ジグルド王太子殿下が護衛さんと共に姿を見せた。
「待たせてすまない」
「いえ、大して待っていないのでお気になさらないでください」
「そうか。それなら良かった。
馬車は荷物用と乗る用で2台しか用意してないが、大丈夫か?」
「ええ、問題ありません」
使用人さんも同乗するはずだから、頷く私。
すると、殿下は近くに止まっていた馬車のところまで案内してくれて、驚いたことに手まで差し出してきた。
「先に乗ってくれ」
「ありがとうございます」
お礼を言って、殿下の手を借りながら馬車に乗る。
続けて殿下も馬車に乗ってきて、最後に補佐官の方と侍女さんが乗ってきた。
「では出発致します」
「ああ、よろしく頼む」
殿下と御者さんのやり取りの後、馬車はガタゴトと小さな音を立てながら動き出した。
侯爵領は王都を出てから1時間もかからずに着く距離にある。
それでも3日もかかるのは、それだけの広さがあるから。
しっかりと案内出来るといいのだけど……。
領地のことを勉強と称して視察したりしていた時もあったから、案内出来ないことはないと思っている。でも、完璧ではないから少し不安に感じている。
「今回は応じてくれてありがとう。領主ではない君に多くは求めないから、気楽に案内してもらえるの助かる」
「お気遣いありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
そう返す私。正直この時点で会話は途切れるものと思っていたのだけど、殿下は次の話題を出してきた。
「王宮での生活はどうだ?」
「今まで侍女に任せていた事を自分でする必要があるので、少し困惑していますわ。でも、すぐに慣れると思います」
「そうか。必要なら侍女を付けるが」
そんなことされたらフレアと自由にお話出来なくなってしまうわ!
「いえ、大丈夫ですわ。1人の方が気が楽ですので」
慌ててお断りする私。
「分かった。それなら侍女の件は無かったことにしよう。
他に何か要望はあるか?」
「いえ、特にはありませんわ」
そう答えれば、殿下はどういうわけか困ったような表情を浮かべた。
でも、滅多に話すことのない殿下との会話は、話題が沢山あるお陰で途切れなかった。
だから、最初の目的地に着くまではあっという間に感じた。
うん、知ってた。だって、幻覚なら触れていた時点でおかしいもの。
(分かってるから大丈夫よ)
(急に止まるから信じちゃったとばかり……)
(いい気分転換になったわ。ありがとう)
驚いたように見せたのは私からのささやかなお返し。
でも、精霊のフレアが冗談を言ったことに驚いていたから、少し分かりにくい演技だったかもしれないわね。
そんな反省をしながら足を進め、数分も経たずにレストランにたどり着いて、いつものやり取りに続けて席に案内されたのだけど……
「レティシアさん、今日は隣ですのね。良かったらこちらに来ませんか?」
「では、お邪魔しますわ」
……通路を挟んで向かい側の席にクロエさんが座っていて、席を変えてもらうことになった。
「レティシアさんは何にしますの?」
「私はこれにするつもりですわ。全種類頂くために順番に選ぶことにしてますの」
「奇遇ですわね。私もそのやり方で、今日は3周目ですの」
そんな会話をしながら料理を待つ私達。
でも、10分待っても運ばれてこなくて……
「大変お待たせしました」
……そんな言葉と共に料理が運ばれてきた時には女官の仕事が始まる時間まで数分しかなかった。
だから間に合わせるために無言で食事を進めて、なんとか1分前にここを出ることが出来た。クロエさんが。
私は今日から視察に同行するために休暇を頂いているから、普段通りに食事をすすめた。
それから挨拶をするために仕事場に寄ったのだけど、今日も仕事はほとんどなかったみたいでお茶会をしていて、参加したい気持ちを抑えながら殿下との待ち合わせ場所に向かうことになってしまった。
(王子はまだいないみたいね)
(まだ10分前だもの。いなくて当然よ)
特に話す話題もなく、ひたすら待つこと10分。
ジグルド王太子殿下が護衛さんと共に姿を見せた。
「待たせてすまない」
「いえ、大して待っていないのでお気になさらないでください」
「そうか。それなら良かった。
馬車は荷物用と乗る用で2台しか用意してないが、大丈夫か?」
「ええ、問題ありません」
使用人さんも同乗するはずだから、頷く私。
すると、殿下は近くに止まっていた馬車のところまで案内してくれて、驚いたことに手まで差し出してきた。
「先に乗ってくれ」
「ありがとうございます」
お礼を言って、殿下の手を借りながら馬車に乗る。
続けて殿下も馬車に乗ってきて、最後に補佐官の方と侍女さんが乗ってきた。
「では出発致します」
「ああ、よろしく頼む」
殿下と御者さんのやり取りの後、馬車はガタゴトと小さな音を立てながら動き出した。
侯爵領は王都を出てから1時間もかからずに着く距離にある。
それでも3日もかかるのは、それだけの広さがあるから。
しっかりと案内出来るといいのだけど……。
領地のことを勉強と称して視察したりしていた時もあったから、案内出来ないことはないと思っている。でも、完璧ではないから少し不安に感じている。
「今回は応じてくれてありがとう。領主ではない君に多くは求めないから、気楽に案内してもらえるの助かる」
「お気遣いありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
そう返す私。正直この時点で会話は途切れるものと思っていたのだけど、殿下は次の話題を出してきた。
「王宮での生活はどうだ?」
「今まで侍女に任せていた事を自分でする必要があるので、少し困惑していますわ。でも、すぐに慣れると思います」
「そうか。必要なら侍女を付けるが」
そんなことされたらフレアと自由にお話出来なくなってしまうわ!
「いえ、大丈夫ですわ。1人の方が気が楽ですので」
慌ててお断りする私。
「分かった。それなら侍女の件は無かったことにしよう。
他に何か要望はあるか?」
「いえ、特にはありませんわ」
そう答えれば、殿下はどういうわけか困ったような表情を浮かべた。
でも、滅多に話すことのない殿下との会話は、話題が沢山あるお陰で途切れなかった。
だから、最初の目的地に着くまではあっという間に感じた。
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