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20. 余命11日③

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 気まずい思いをした朝食から1時間、私は学院の教室で答案が返されるのを待っていた。
 全ての科目で30分ほどの解説授業の後に返却という形が取られているから、すぐに結果を知ることはできない。

「レティシア様、少しお話ししてもいいですか?」

 突然後ろの席の方に話しかけられて、振り向いた時だった。
 最初の科目、魔導考古学の担当教授が入ってきて、こう口にした。

「少し早いですが、そろそろ始めます。全員席について下さい」

 手で断りの合図をして、前に向き直る私。
 教室も静かになっていて、予定よりも早い時間に授業が始まった。

「では、最初に答案を返却します。その後、特別授業を行います」

 その言葉に続けて、順番に名前が呼ばれ教授の前に行って答案を受け取る。

 私は真ん中あたりで呼ばれて、特に嘆いたりすることなく無言で席に戻った。
 落ち込んでいたり嬉しそうにしている人はいるけれど、誰も言葉を発することはない。

 5分かけて全員の答案が返されると、教授がこんなことを口にした。

「皆さん、試験お疲れ様でした。今回は全体的に正解率が高かったので、解説は紙にまとめたものを配布することにしました。
 ただ、早く授業を終わらせることは出来ませんので、最近明らかになっまだ精霊術について紹介しようと思います」

 精霊という言葉自体はおとぎ話によく出てくるのだけど、その存在が確信されているわけではない。
 というのも、精霊は人前に姿を見せる事がないから。

 唯一、許された人だけが姿を見る事が出来るそうだけど、それもおとぎ話の中の話。
 だから、精霊術という不思議な言葉に驚いた。

「700年以上前の話になりますが、精霊と契約することで強力な魔術を使う事が出来たようです。
 精霊の姿が見えないのは皆さんご存知の通りですが、精霊に愛されている者は会話することが出来たようです」

 うん、ちょっとよく分からない。
 そもそも精霊と意思疎通は出来ないと言われているから。

「精霊を呼び出すには、特定の儀式を行う必要があったようです。しかし、精霊に愛されている者は違ったようです。
 夢の中に現れた自分と同じ姿の人物に頼む事で、加護を得ることが出来るようです。夢の中で会ったら、対話を試みるといいかもしれません」

 教授の話を聞いて、最近見た夢を思い出す私。
 うん、私の姿をした誰かと話していたわね……。

「残念なことに、儀式の方法は汚れで解読することは出来ませんでした。
 ですが、この精霊術を蘇らせる事が出来たら、魔導技術に大きな影響を与えるでしょう」

 もしも加護を得て、それが知られてしまったら……王国に協力させられる未来が見えてしまった。

「ここからが不気味なのですが、精霊と契約できた者は全員不幸な最期を遂げたようです。追放されたり、処刑されたり。
 詳細は分かりませんが、契約をする機会があれば、そのリスクを考慮するべきでしょう」

 それからは精霊と契約することで使えるようになるという魔法についての説明をされた。

 例えば、街を飲み込む炎の魔法だったり、致死の怪我を治せる治癒魔法だったり。
 恐ろしいものも、あったら嬉しいものも色々紹介された。

 その魔法はどれも人を不幸にするように思えてしまった。
 私は精霊に愛されているかもしれないのに……。

「本日の授業は以上です。不備がありましたら、今この場で申し出て下さい」

 少しの静寂。

「では、お疲れ様でした」

 誰も申し出ないことを確認した教授は、そう言うと静かに教室を後にした。
 その直後、一気に教室は騒がしくなった。

 私も雑談の輪に加わるべきなのだけど……精霊のことが衝撃的すぎて、誰かと話をする気にはなれなかった。
 それなのに……

「レティシア様、さっきの精霊の話どう思いましたか?」

 ……今は話したくない話題を示されてしまった。
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