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1. 余命宣告

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 今日も私は1人だった。

 ここは王宮のパーティー会場で、私──レティシア・ルードリッヒ以外の参加者の令嬢達は婚約者にエスコートされて楽しそうにしている。
 それなのに、婚約者がいるはずの私は1人寂しくテラスに出て恥晒しにならないようにしていた。

 視線の先には仲睦まじく寄り添う1組の男女がいて、周囲の様子を気にすることもなく唇を寄せている。
 私は思わずこう叫びそうになってしまった。

(どういうことなの──!?)

 そこにいる殿方──アドルフは、私の婚約者だったから。

 彼との婚約は侯爵家と伯爵家の関係を深める狙いもある政略的なものだから、こうなることも覚悟はしていたはず。
 でも、いざ目の当たりにすると涙が溢れてきてしまった。
 胸が痛くなるほど、辛い気持ちになった。


 そんな時だった。

「レティシアさん、こんなところにいましたのね」

 後ろから、そんな声をかけられたのは。

「クリスティーナ様……何か問題があったでしょうか?」

 相手は我儘で有名な公爵令嬢。涙を拭ってから、機嫌を損ねないよう表情を窺いながら尋ねてみる。

「そんなところにいたら風邪を引いてしまいますわ。浮気者は放っておいて、中でお話ししましょう」
「お気遣いありがとうございます」

 ただでさえ注目を集めているクリスティーナ様の近くにいれば目立ってしまうのは確実。
 だからお断りしたかったのだけど、筆頭公爵家の方のお誘いを断る訳にはいかない。
 仕方なくお礼を言ってついていった。

 でも、この判断は間違いだったとすぐに知ることになった。

「王家の方々が開いてくださったパーティーで、場違いにも婚約者と共にいない無礼者を連れてきましたわ」

 私の方を見ながら、取り巻きの方々にそんなことを言うクリスティーナ様。そこには気味の悪い笑みを浮かんでいた。

 こんなの、ただの嫌がらせじゃない──っ!

 今すぐにこの場から逃げ出したかった。
 でも、それは叶わなかった。

「あら、婚約者の方はどうされましたの?」
「喧嘩でもしましたの? だからといって、エスコート役がいないのは常識外れだと思いませんの?」

 こんな風に攻撃をうけながらも、逃げようと思って足を動かした。
 でも、取り巻きに阻まれてしまって、逃げることは叶わない。

「逃げるつもりですの? そんなこと許しませんわよ」

 もちろん攻撃が止むことはなく、少しずつ気分が悪くなっていって、もうダメだと思った時。
 救いの手は唐突にやってきた。

「俺が主催するパーティーで虐めとは、感心しないな」
「女の戦いに口を出さないでくださいまし!」

 冷徹王子の二つ名をつけられている王太子殿下の姿が、そこにあった。
 ちなみにだけど、彼はまだ婚約者がいない。

 クリスティーナ様の声に対して、殿下はこんな言葉を返した。

「そうかそうか、それが戦いか。
 クリスティーナ嬢は公爵令嬢という立場でありながら、多数の味方をつけないと家格が下の令嬢とも対等に戦えないご様子。これは俺も援護をした方がいいでしょう」

 嫌味たっぷりの言葉。
 すると、クリスティーナ様とその取り巻きは居心地が悪くなったのか、無言で私から離れていった。

 でも、私の気分が良くなることはなく、今日はお暇させて頂くことになった。



 それから侯爵邸に戻る最中も気分が良くなることは無かった。
 そして邸に着くと、使用人達が10人程で出迎えにきてくれて、こんなことを口にした。

「お帰りなさいませ、お嬢様。もうすぐ夕食の用意ができますが、いかがなさいますか?」
「今日は気分が悪いからやめておくわ……」
「畏まりました。すぐにベッドの用意をします」

 侍女数人が階段を駆け上がっていき、私は転ばないようにゆっくりとその後を追った。

 私室に着くと、既にベッドは整えられていて、着替えを終えるとすぐにベッドに入った。

「おやすみなさいませ」

 そう言って、そっと部屋から出る侍女。

 気分が悪いはずだったのだけど……疲れからか、私はあっという間に眠りについた。


 ……。


 ふと、周囲が明るくなって、浮遊感に襲われる。
 そして、聞き覚えのない声が聞こえてきた。

「汝よ、心してきなさい。貴女は14日後に馬車の事故に巻き込まれて死にます」
「どういうことですの……?」

 私が戸惑いながら問い返すと、目の前に無惨な光景が映し出された。
 そこには馬車の破片に身体を貫かれた令嬢の姿が映っていて。

「いやああぁぁぁぁ」

 私は悲鳴を上げながら飛び起きた。

「今のは何……?」

 夢にしてはリアルすぎるそれは、天啓以外の何物でもなくて。余命宣告をされたのに等しくて。
 私は頭を抱えた。
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