上 下
13 / 27

13. 衝撃

しおりを挟む
「みんな、今日は大事な話がある。この地に新しい屋敷を建てる。陛下から王都の土地を頂けることになったんだ」

 お父様の口からそんな言葉が飛び出して、賑やかだった朝食の席は静まり返った。
 亡命しに来たに過ぎない私達のために、そこまで気遣ってくれるとは思わなかったから。

「それと、直轄領を分けてもらえることになった。ついでに伯爵位もくださるそうだ」

 驚きの連続に空いた口が塞がらない私達。
 突然伯爵位を授かるのは、あり得ない事だから。

「お父様、一体何があったの……?」

「アラン殿下が陛下にそう頼んだと聞いている。それ以外の理由は聞いていない」

「爵位があればフィリアを守りやすくなるから、助かるよ」

 そう口にするハルトお兄様。
 でも、嬉しそうな理由は他にもありそうだった。

「そういう訳で、これから忙しくなる。ハルトとアレンは覚悟しておけよ」

「「はいっ!」」

 揃って返事をするお兄様達。
 蚊帳の外の私は、少しだけ寂しい気持ちになった。

 そんな時だった。

「お嬢様! 今すぐ来てください!
 兵士さんがひどい怪我をしているんです……!」

 侍女さんの焦る声が朝食の席に響いた。

「どこにいるの?」

「こっちです」

 侍女さんについて行く私達。
 しばらく歩いていくと、顔にひどい痣のある男性ーーノスタルダム家の門番の姿が見えた。

「これ、普通の怪我じゃないわよね……? 何があったのか、教えてもらえるかしら?」

「お嬢様達が出られた後のことですが……」

 治癒魔法で怪我を治しながら問いかけると、門番さんはゆっくりと口を開いた。

 そして、拷問されていた事を語った。

「そんなことがあったのね……すぐに助けられなくてごめんなさい」

「これくらい大丈夫ですよ。日々の鍛錬の方が大変ですから」

 そう言ってもらえて、少しばかり気持ちが楽になったけれど。
 申し訳ない気持ちが消える事はなかった。

「ところで、拷問の後は治療されなかったの?」

「治癒魔法はかけられましたが、擦りむいた傷の血が止まっただけでした」

 拷問自体は驚くことではない。問題は、拷問を受ける者が犯罪に関わったという証拠があったのかということだけ。
 お父様達の証拠隠滅は完璧に見えたから、彼は理不尽な理由で拷問を受けたに違いなかった。

「本当に申し訳ないわ……」

 改めて罪悪感が湧いてくる。

「いえ、お嬢様は何も悪くありません。悪いのは騎士団と腐った王家です」

「それでもよ。他に拷問を受けた者はいない? こんなもので許されるのか分からないけれど、後で見舞金を渡すわ」

「……っ。ありがとうございます。
 他に5名おりますが、彼らは受け身が上手で無傷で済んだようです」

 素直に受け取ってもらえるようで、安心する私。
 同時に、私の責任を否定されて安心していた。

「一応名前を教えてもらえるかしら?」

「分かりました」

 その代わり、侍女まで拷問されたと知って、まだ見ぬ元凶に怒りが湧いてしまった。

 それでも……

「お嬢様。使用人は全員、無事にハステイルから脱出出来たそうですよ」

 ……こう聞かされた時は、すごく嬉しかった。
 ハステイル王国に留まっていれば、彼らが酷い目に遭うことは明らかだったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚鈍な妹が氷の貴公子を激怒させた結果、破滅しました〜私の浮気をでっち上げて離婚させようとしたみたいですが、失敗に終わったようです〜

あーもんど
恋愛
ジュリア・ロバーツ公爵夫人には王国一の美女と囁かれる美しい妹が居た。 優れた容姿を持つ妹は周りに持て囃されて育った影響か、ワガママな女性に成長した。 おまけに『男好き』とまで来た。 そんな妹と離れ、結婚生活を楽しんでいたジュリアだったが、妹が突然屋敷を訪ねてきて……? 何しに来たのかと思えば、突然ジュリアの浮気をでっち上げきた! 焦るジュリアだったが、夫のニコラスが妹の嘘をあっさり見破り、一件落着! と、思いきや……夫婦の間に溝を作ろうとした妹にニコラスが大激怒! ────「僕とジュリアの仲を引き裂こうとする者は何人たりとも許しはしない」 “氷の貴公子”と呼ばれる夫が激怒した結果、妹は破滅の道を辿ることになりました! ※Hot&人気&恋愛ランキング一位ありがとうございます(2021/05/16 20:29) ※本作のざまぁに主人公は直接関わっていません(?) ※夫のニコラスはヤンデレ気味(?)です

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。

酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。 いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。 どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。 婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。 これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。 面倒な家族から解放されて、私幸せになります!

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

【完結】そんなに妹がいいのですか?では私は悪女となって去りましょう

サラサ
恋愛
タイトル変更しました。旧タイトル「そんなに妹がいいのですか?では私は去りますね」 長年聖女としてボロボロになりながら、この国を支えてきた、スカーレット。 王太子オーエンの婚約者として大変な王妃教育も頑張ってきたのに、彼は裏で妹のシャルロットと浮気をし、大勢の前で婚約破棄を言い渡してきた。 しかもオーエンの子供を身籠っていると言う。 そのうえ王家が出した答えは、私にシャルロットの「影」として仕えろという酷いもの。 誰一人として聖女としての力を認めず、馬鹿にしていたと知った私は決めました! 絶対、みんなを後悔させてみせますわ! ゆるゆるの世界観です。最初のほうに少し性的描写やセリフがあるので、念のためR15にしてあります 短編から長編に変更になりました。短く読みたかったという読者様、すみません。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

処理中です...