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12. ノスタルダム邸side 脱出作戦

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「なんてことだ……これでは旦那様達に顔向けできない……」

 ノスタルダム家の執事長は頭を抱えていた。
 そこに広がるのは、壊された調度品や棚などが無惨に放置されている光景。

 子爵一家だけでなく、時には使用人達の憩いの場になっていた食卓は、とても過ごせる場所ではなかった。
 この状況になっているのは、ここだけではない。他の部屋も全て荒らされていた。

 それだけではない。飾られていた高級な調度品の一部は、誰かが持ち去ったのか跡形もなく消えている。


「財産を取られる前に、逃げた方が良いかもしれません」

 頭を抱える執事長に、ノスタルダム家の兵長は声をかけた。

「そのつもりで、分散して運び出させています。商人に偽装しているので、声をかけられることはないかと」
「念のため護衛を付けましょう。次出る馬車から兵士を2人付けるよう指示してきます」

 魔物に襲われる可能性がある場所を通るため、兵長はそう口にすると指示を出すためこの場を離れた。

 それからも脱出作戦は順調に進み、財産を運ぶ使用人達は無事に隣国へと辿り着いた。



 一方、騎士団に顔を知られてしまっている使用人は、発覚を避けるために道なき山を超えていた。

「もっとマシな超え方はないんですか?」
「諦めろ、そんなものは無い」
「これキツすぎますって」

 汗を浮かべながら執事長と兵長に愚痴をこぼす使用人達。
 しかし、彼らの顔に疲労は浮かんでいない。

 険しい山を越えることは、主人を守るためにしている日々の鍛錬よりは軽いものなのだ。

「ああ、お嬢様の癒しが欲しい……」
「山を越えたら会えるぞ。癒しをくれるかは知らんけどな」

 癒しとは、文字通りの癒しーー治癒魔法のことである。それが欲しい理由は、鞭で打たれた時の痛みがまだ残っているからだった。

「そんな無責任なこと言わないでくださいよ、隊長ぉ!」
「口じゃなくて足を動かせ!」
「ひいぃぃ」

 一行はちょうど尾根を超えていた。



 同じ頃、街道近くの騎士団では異変に気付く者がいた。

「隊長、今日は馬車が多いですね」
「そう言われてみればそうだな。気になるから調べてみよう。
 ちょうどいい、あの馬車を止めて調べろ」
「止まれ!」

 声をかけられ、止まる子爵家の馬車。

「中を調べさせてもらう」

 そうして騎士団によって、中が調べられることになってしまった。
 しかし……

「普通の商人ですよ。おかしなところはありません」

 ……彼らが偽装を見破ることは出来なかったようだ。

「もう行って良い」
「ありがとうございます」

 こうして、子爵家の財産は全て隣国に渡った。
 しかし、騎士団が異変に気付くのは、使用人を拘束する命令が下ってからのことだった。
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