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1. 婚約破棄
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「本当の愛を見つけたから、婚約を破棄する」
婚約者のアドルフに突然そう言われて、私は内心で笑みを浮かべた。
やっと浮気男と離れられると思ったから。
「リーシャ様が浮気していたってことにすればぁ、私達は幸せに暮らせるの。だからぁ、早く次の相手を見つけてちょーだい」
そして今度は、間伸びした気持ち悪い言葉を聞いて表情を引き攣らせてしまった。
この声のせいで、吐き気を催してしまったから。
声の主は子爵令嬢のアンナで、侯爵令嬢の私においそれと意見していい立場ではない。
それなのに、ちょーだいって何様よ!?
今すぐに私兵を呼んで不敬罪で捕らえさせても良かったけど、あまりにも発言が馬鹿すぎて言葉が出なかった。
そのせいで、気持ち悪い声は続いてしまった。
「次の相手はルードリッヒ様とかぁ、お勧めしますわぁ」
提案された人物はまさかの現公爵。その歳50を過ぎていながらも、夫人のことを常に考えている愛妻家として有名な人物だった。
先の発言といい、この発言といい、頭が可笑しいとしか思えない。
そもそも次の相手なんて聞いてないのに、この発言。わざとなのか、分からなかった。
「別にコレのことはどうでもいいよ。僕にはアンナさえいればいいんだから」
そんな言葉と共に、アンナと唇を重ねる婚約者のアドルフ。
堂々としすぎていて、目の前の男と婚約していなかったと錯覚しそうになってしまった。
「随分と仲が宜しいのですね。お似合いですわ」
──馬鹿同士。
嫌味を込めてそう口にすると、こんな言葉が返ってきた。
「僕とアンナは本当の意味で愛し合っているからね。お似合いで当然だよ」
「アドルフっ、リーシャ様に認めてもらえましたわぁ」
どうやら、褒め言葉として受け取られたらしい。
ここまで来ると流石に話にならないから、今すぐに婚約を破棄したくなった。
こんな男と婚約しているのは、死んでも御免だから。
「少し席を外しますわ」
一応断りを入れ、父親である侯爵に婚約破棄の了承を貰いに向かった。
屋敷の3階にあるお父様の書斎に辿り着いた私は、軽くノックしてこう口にした。
「お父様、大事なお話がありますわ」
「鍵は空いてるから、入りなさい」
部屋に入ると、お父様は書類を書く手を止めてこちらを向いてくれた。
そしてこんなことを口にした。
「婚約破棄したくなったか?」
「はい」
実はこの婚約、急成長していたアフォール伯爵家との仲を深める意図での政略婚だった。
でも、最近になって伯爵家が事業に失敗し、さらに不正まで明らかになった。
お父様は「判断力不足ですまなかった」と謝ってくれたけど、私は仕方ないと思っている。
侯爵家のお庭番でさえ、不正を見つけることが出来なかったのだから。
でも、私は婚約破棄を有利に進めるために調査をお願いした。
アドルフから知らない女性の香水の臭いがしていたことがあったから。
そして案の定、浮気していることが判明した。
だから、既に証拠集めは終わっていて、婚約破棄の書類の準備も出来ている。
「出来るだけ早く婚約破棄したいですわ」
「分かった。明日の午前中に話し合いの席を設けよう」
私がそんなお願いをしたら、お父様はそう言ってくれて。
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
そして応接室に戻ると、浮気男と子爵令嬢がイチャついていた。
「今はアドルフと二人きりがいいのぉ。だから、出て行ってぇ」
はい? ここは私達シルヴァス侯爵家の屋敷ですよ?
婚約者のアドルフに突然そう言われて、私は内心で笑みを浮かべた。
やっと浮気男と離れられると思ったから。
「リーシャ様が浮気していたってことにすればぁ、私達は幸せに暮らせるの。だからぁ、早く次の相手を見つけてちょーだい」
そして今度は、間伸びした気持ち悪い言葉を聞いて表情を引き攣らせてしまった。
この声のせいで、吐き気を催してしまったから。
声の主は子爵令嬢のアンナで、侯爵令嬢の私においそれと意見していい立場ではない。
それなのに、ちょーだいって何様よ!?
今すぐに私兵を呼んで不敬罪で捕らえさせても良かったけど、あまりにも発言が馬鹿すぎて言葉が出なかった。
そのせいで、気持ち悪い声は続いてしまった。
「次の相手はルードリッヒ様とかぁ、お勧めしますわぁ」
提案された人物はまさかの現公爵。その歳50を過ぎていながらも、夫人のことを常に考えている愛妻家として有名な人物だった。
先の発言といい、この発言といい、頭が可笑しいとしか思えない。
そもそも次の相手なんて聞いてないのに、この発言。わざとなのか、分からなかった。
「別にコレのことはどうでもいいよ。僕にはアンナさえいればいいんだから」
そんな言葉と共に、アンナと唇を重ねる婚約者のアドルフ。
堂々としすぎていて、目の前の男と婚約していなかったと錯覚しそうになってしまった。
「随分と仲が宜しいのですね。お似合いですわ」
──馬鹿同士。
嫌味を込めてそう口にすると、こんな言葉が返ってきた。
「僕とアンナは本当の意味で愛し合っているからね。お似合いで当然だよ」
「アドルフっ、リーシャ様に認めてもらえましたわぁ」
どうやら、褒め言葉として受け取られたらしい。
ここまで来ると流石に話にならないから、今すぐに婚約を破棄したくなった。
こんな男と婚約しているのは、死んでも御免だから。
「少し席を外しますわ」
一応断りを入れ、父親である侯爵に婚約破棄の了承を貰いに向かった。
屋敷の3階にあるお父様の書斎に辿り着いた私は、軽くノックしてこう口にした。
「お父様、大事なお話がありますわ」
「鍵は空いてるから、入りなさい」
部屋に入ると、お父様は書類を書く手を止めてこちらを向いてくれた。
そしてこんなことを口にした。
「婚約破棄したくなったか?」
「はい」
実はこの婚約、急成長していたアフォール伯爵家との仲を深める意図での政略婚だった。
でも、最近になって伯爵家が事業に失敗し、さらに不正まで明らかになった。
お父様は「判断力不足ですまなかった」と謝ってくれたけど、私は仕方ないと思っている。
侯爵家のお庭番でさえ、不正を見つけることが出来なかったのだから。
でも、私は婚約破棄を有利に進めるために調査をお願いした。
アドルフから知らない女性の香水の臭いがしていたことがあったから。
そして案の定、浮気していることが判明した。
だから、既に証拠集めは終わっていて、婚約破棄の書類の準備も出来ている。
「出来るだけ早く婚約破棄したいですわ」
「分かった。明日の午前中に話し合いの席を設けよう」
私がそんなお願いをしたら、お父様はそう言ってくれて。
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
そして応接室に戻ると、浮気男と子爵令嬢がイチャついていた。
「今はアドルフと二人きりがいいのぉ。だから、出て行ってぇ」
はい? ここは私達シルヴァス侯爵家の屋敷ですよ?
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