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3. 絶望と救い
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初めて殿下に呼び出されてしまった。
そのことに震えながらなんとか午前の授業を終えた私の元に、担任の教授がやってきてこんなことを口にした。
「クレシンス嬢、伯爵から急用が出来たから今すぐ戻るようにと連絡があった。
午後の授業は出席にしておくから、今すぐ準備するように」
「分かりましたわ」
私はそう返事をして、準備に取り掛かった。
急いでミランダ様に殿下への伝言をお願いすると、私が虐げられていることを知らない彼女は快く受け入れてくれた。
準備を終えた私は急いで学院正面の馬車寄せに向かい、待機していた伯爵家の馬車に乗り込んだ。
そして十数分後……
「ようやく戻ったか。すぐに掃除に取り掛かれ」
……屋敷に戻った途端にお父様にそう言われ、私は目を瞬かせた。
「どういうことですか……?」
「屋敷の掃除をしろと言っているんだ。理解できないのか?」
鞭を片手に声を上げるお父様。
私は思わず一歩後ずさった。
「分かり……ました……」
「そうそう、お前はもう学院に行かなくていい。イスティア公爵様に気に入ってもらえるように花嫁修行をしておけ」
そんなことを言い放ち、足音を立てて部屋を後にするお父様。
そして入れ違いで入ってきた使用人達に私の部屋まで連れていかれ、簡素な服に着替えさせられた。
「お嬢様にはこれから洗濯掃除を覚えていただきます」
そう言われて連れていかれたのは普段洗濯に使われている場所だった。
そして、本来は4人以上で行う洗濯を1人でやらされることになってしまった。
全てお父様の指示のようで、私が手伝うようにお願いしても誰一人として聞き入れてくれなかった。
逃げようとしても、全力で引き止められてしまい上手くいかない。
こうして、朝から晩まで洗濯掃除をさせられ、満足に食事を取ることも出来ない生活が始まってしまった。
前は暴力を振るわれたり侍女がするような仕事をやらされていただけなのだけど、今の私の扱いは奴隷そのものだった。
そしてこの生活が始まってから1週間、大量の洗濯物を干している時だった。
突然意識が遠のいていって、私は地面に崩れ落ちた。
それでも何とか意識は保てていて……
「お嬢様っ!」
「意識はあるので大丈夫でしょう」
……そんなことを言われ、私は絶望した。
身体が全く言うことを聞かないのに、使用人達は助けることもしない。
そんな時だった。
「おやおや、これは何事ですか?」
敷地を囲う塀の方から、そんな声が聞こえてきた。
「誰だ⁉︎」
「イスティア公爵、と言えば分かりますかな?
今の無礼は不問にします。今すぐに彼女を丁寧に部屋まで運んで、休ませなさい」
「分かりました」
そうして、私は私室で休めることになったのだけど……
「今まで大変だったでしょう。これからは私が可愛がってあげますからね。デュフフフ……」
頬を撫でまわされ、気味の悪い笑い声を耳元で聞かされ、唾の飛沫を飛ばされて。
鳥肌が収まる気配が全くなかった。
そのことに震えながらなんとか午前の授業を終えた私の元に、担任の教授がやってきてこんなことを口にした。
「クレシンス嬢、伯爵から急用が出来たから今すぐ戻るようにと連絡があった。
午後の授業は出席にしておくから、今すぐ準備するように」
「分かりましたわ」
私はそう返事をして、準備に取り掛かった。
急いでミランダ様に殿下への伝言をお願いすると、私が虐げられていることを知らない彼女は快く受け入れてくれた。
準備を終えた私は急いで学院正面の馬車寄せに向かい、待機していた伯爵家の馬車に乗り込んだ。
そして十数分後……
「ようやく戻ったか。すぐに掃除に取り掛かれ」
……屋敷に戻った途端にお父様にそう言われ、私は目を瞬かせた。
「どういうことですか……?」
「屋敷の掃除をしろと言っているんだ。理解できないのか?」
鞭を片手に声を上げるお父様。
私は思わず一歩後ずさった。
「分かり……ました……」
「そうそう、お前はもう学院に行かなくていい。イスティア公爵様に気に入ってもらえるように花嫁修行をしておけ」
そんなことを言い放ち、足音を立てて部屋を後にするお父様。
そして入れ違いで入ってきた使用人達に私の部屋まで連れていかれ、簡素な服に着替えさせられた。
「お嬢様にはこれから洗濯掃除を覚えていただきます」
そう言われて連れていかれたのは普段洗濯に使われている場所だった。
そして、本来は4人以上で行う洗濯を1人でやらされることになってしまった。
全てお父様の指示のようで、私が手伝うようにお願いしても誰一人として聞き入れてくれなかった。
逃げようとしても、全力で引き止められてしまい上手くいかない。
こうして、朝から晩まで洗濯掃除をさせられ、満足に食事を取ることも出来ない生活が始まってしまった。
前は暴力を振るわれたり侍女がするような仕事をやらされていただけなのだけど、今の私の扱いは奴隷そのものだった。
そしてこの生活が始まってから1週間、大量の洗濯物を干している時だった。
突然意識が遠のいていって、私は地面に崩れ落ちた。
それでも何とか意識は保てていて……
「お嬢様っ!」
「意識はあるので大丈夫でしょう」
……そんなことを言われ、私は絶望した。
身体が全く言うことを聞かないのに、使用人達は助けることもしない。
そんな時だった。
「おやおや、これは何事ですか?」
敷地を囲う塀の方から、そんな声が聞こえてきた。
「誰だ⁉︎」
「イスティア公爵、と言えば分かりますかな?
今の無礼は不問にします。今すぐに彼女を丁寧に部屋まで運んで、休ませなさい」
「分かりました」
そうして、私は私室で休めることになったのだけど……
「今まで大変だったでしょう。これからは私が可愛がってあげますからね。デュフフフ……」
頬を撫でまわされ、気味の悪い笑い声を耳元で聞かされ、唾の飛沫を飛ばされて。
鳥肌が収まる気配が全くなかった。
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