上 下
3 / 6
Nail Excellent

第三話

しおりを挟む
 サノヤに買い物に行ったけどパイシートがみつからず、店員さんに聞いてみると冷凍食品のコーナーの端の方にあった。見たことない物を探すのって難しいものだと統太は店を出た。

「今から作るもの、全然想像がつかないんだけど」

 統太は冷蔵庫の中身を思い浮かべながらスーパーの買い物袋をさげて家に向って歩いた。よく見て歩くと小さな商店街は生活に密着した店がたくさんある。早く閉まる店ももちろん多いけど、大手スーパーと違って近所の人の生活の場という雰囲気が感じられる。まだ開いている惣菜屋さんからコロッケのいい匂いがした。

   商店街から見える場所にある ワンルームのマンション、オートロックなどない古い物件に統太は住んでいる。

「ただいまなさい」

一人でただいまとおかえりを済ませ、玄関を上がって三歩の所にある冷蔵庫を覗く。長ネギ、餅一切れ、キムチ、ちくわ、ベーコンが全て中途半端に残っていた。

「うわ……これでほんとに美味しくなるのかな」

    色々疑問が頭に浮かぶが、統太は馨の言うことを信じてみたくてパイシートを一枚取り出し、解凍するためにクッキングシートの上に置いた。

    まずは材料を全て一センチ角くらいに細かく刻む、そう馨に教わった。ネギはとにかく何にでも合うから入れた方がいいと勧められた。キムチはベタベタするからそのままにして。あとスープはインスタントでいいかな。
    オーブントースターの天板に柔らかくなってきたパイシートを置いて端を少し引っ張って伸ばす。トマトケチャップ、刻んだ食材を乗せ溶き卵を多めに二個分、溶けるチーズは冷凍庫から出して振りかける。チーズは好きだからたっぷりかけてしまえ!    と、統太は残っている全部をかけた。オーブントースター強めで15~20分焼く。
その間にスープのお湯を沸かしてキッチンを片付ける。チーズが焼けて香ばしい匂いがしてくると待ちきれなくてオーブントースターを覗き込んだ。

「ヤバっ、めっちゃ美味そう!」

    焼き上がると馨に見せようとスマホで写真を撮った。包丁で十文字に切り目をいれて皿に移し、スープと一緒にテーブルへ運ぶとまた写真を撮った。

「馨さんと一緒に食べたいなぁ、いただきます」

 しばらく一人の食事が当たり前だったのに、少し寂しくなる。手を大きく動かしてチーズの伸びる糸を引きちぎって顔を近づけ、一口齧ると、食べたことない味なのに感動した。

「何だかわからないけど美味しい!    これきっとマヨネーズも合うと思うな~」

    一人暮らしになってから増えた独り言と共に、パクパクと平らげた。

 馨さんも一人でご飯食べるのかなぁ。そうだよね、一人暮らしなんだし。
 仕事が忙しいと作りたくないことってやっぱりあるのかな。
 でも料理が好きなんだってわかるな~、こんな美味しいもの教えてくれたし。
 お菓子とかも作るのかもしれない。おしゃれだけど簡単なもの。
 うんうん、きっと作ってる。

「馨さんは食後に紅茶とか飲んでそう!」

 一人盛り上がって立ち上がると電気ポットでお湯を沸かし、棚の奥にある紅茶の缶を取り出してティーバッグの紅茶を淹れた。馨が紅茶を飲んだりご飯を作る様子を想像しているうちに眠くなり、そのままベッドに倒れ込んだ。
    寝転がって天井に向い、しっとり柔らかくなった手を伸ばし眺めながら馨の手の感触を思い出す。マッサージしてもらったその余韻がなくなりそうな気がして、シャワーは明日の朝にしようと決めた。
 布団を抱きしめ、次に会うことを考えながら眠りについた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。 キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。 高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。 メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...