珍しく甘えたな君

トウモロコシ

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珍しく甘えたな君

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授業の三分の二がすぎ、僕含め生徒のほとんどの集中力が切れ始めた頃、ドアが開いた。当然ながら先生だけど、僕達の教科担当を持っていない先生なので誰かはわからない。
高校生だから小学生のようにざわざわしたりはしないけれど、やはり授業中にドアが開いたら視線がそちらに向くものだ。

先生はノートを写しておくように指示し、名無しの先生(仮)の元へと行った。
書くのが早く、既に書き終わっていた僕はノートに意味の無い落書きをしていた。

しばらく教科担当の先生と名無しの先生が話したあと、僕の名前が呼ばれた。

「林、保健室に行ってきてくれ。」
「ひゃっ、はい!」

自分は全く関係ないと思っていた僕は突然自分の名前を呼ばれて軽く飛び跳ねた。
クラスの男子は速効それをネタにしている。女子は女子でくすくすと笑っている。
もういっそ、ネタにして遊んでくれよと思ってしまうのは男子特有だろうか…

僕の教室からは保健室は少し距離がある。その間僕は色々考えた。
検尿は期限通りに出した。それに集められたのも大分と前。僕が保健室に呼び出される理由が全くわからなかった。

「失礼します。二年五組、林恭佑です。」
「どうぞ~。」
中から女の先生の声が聞こえた。どうぞと言われてもなんのために呼ばれたかを聞いていないのだから、どこに行けばいいかもわからない。
察した先生が、一番奥のベッドを仕切っていたカーテンから顔を出して手招きした。

カーテンの中でベッドの上に座っていたのは、俺の幼なじみ兼先輩から半年ほど前に幼なじみ兼先輩兼恋人となった、前田羽月だった。

「っ……」

状況がわからないのと、先生がいる手前、場合によって呼び方を変える前田羽月をどう呼べばいいのか、とにかく頭の中に入ってきた情報量が多すぎて、声が出なかった。僕はフリーズ状態だ。

僕を現実に引き戻したのは羽月だった。
「恭ちゃん~」
「えっとぉ、、?」
「授業の最初の方に保健室にきてね、ずっとこんな感じなの。少し熱があるみたいで、処置はしたのだけれど、こちらは精神的な問題なのよね。ずっと呼んでるから、授業中申し訳ないけども呼ばせてもらったわ。」
「あ、はい、それは全然構わないですけど、、先輩どうしたんですか?」

そう、体調が悪くなって保健室に来たところまではわかる。だけど、今僕の目の前にいるのは涙を流しながら必死に僕を求める羽月なのだ。まるで、子供のように。

「『子供がえり』って聞いたことある?そのまま子供のように戻ってしまう現象なんだけど、体調が悪くて精神が参ってしまっている今だから発症してしまったのかもしれない。」
「、、はい。」
「先生がいたら落ち着けないかもしれないから、林さん、あとは任せていいかしら?前田さんに何かあったらすぐに言ってね。」

そう言って先生はカーテンの外に行ってしまった。
「恭ちゃん。恭ちゃん。」
「…。よしよし。」
自分もベッドに座って羽月の体を軽く自分側に倒した。
触れた肩からはほんのりと熱い体温が伝わってきた。先生が渡したであろう白いタオルはしっとりと濡れていて、相当な時間泣いていたことが分かる。僅かに震えているところをみるとこれから熱が上がるのかもしれないと思った。
でも、僕が来る前は先生が診ていて、その先生が僕に任せたということはそれほど重症ではないのだろう。

「羽月、僕ここにいるよ。」
「恭ちゃ、ん?」
「うん、」

羽月は僕の姿を正確に捉えると、静かに涙の量を増やした。
軽く肩を叩いたり、さすったりしているとだんだん落ち着いてきたみたいだ。

「ごめんね、恭ちゃん。」
「何がですか?」
不意に謝られて普段敬語ではないのに、つい敬語になった。 
「恭ちゃん、まじめだから、授業抜けたくなかった、かなぁと、思って。……その、、つい……」
「そんなことないですよ。自慢の幼なじみで尊敬する先輩で僕の愛する恋人が涙を流して僕を求めているのに、授業を優先するなんてこと絶対にしませんよ。寂しかったんでしょ?こんな時なんだから、全てを熱のせいにして、思いっきり甘えてください。」
「っ、、ありがと…もうちょっと、、だけ、ここに。」

そう言って羽月は眠ってしまった。


「羽月が求めるなら、ずっといるよ。」
額に軽くキスをした。
「ずっといるから、早く元気になってよ。」
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みんなの感想(1件)

紅月
2019.06.08 紅月

性格にとらえる→正確

トウモロコシ
2019.06.08 トウモロコシ

すみません!!🙇🙇ありがとうございます😊💗🙏

解除

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