1 / 1
心からの安心
しおりを挟む
若干の気持ち悪さを覚えて、トイレに行って嘔吐いてみたが、何も出なかった。
だから、気持ち悪さはまだ残るものの、トイレにいてもどうすることも出来ないので、リビングのソファに座って、行儀が悪いと分かっていても、足を上げて丸くなった。
「由貴?どしたの?」
健が帰ってきたみたいで、ドアを開けるなりそう言った。帰ってきて早々見たのが、恋人がソファで丸くなる姿なら、そうなるか。と客観的に場違いなことを考えた。
「胃がいたい。」
素直に答えると健はちょっと待ってて、と言い残して、部屋を出ていった。それが少し、寂しいと感じてしまう。帰ってきたんなら、俺のそばにいてくれよ。と思ってしまう。荷物置いたり、手を洗ったり、色々しなくてはいけないことがあるのはわかるので、それを口にはしなかった。
「お待たせ。ごめんね。」
「いや、いい。…毛布ありがと。」
「いいえ。」
肩にかけてくれた毛布を自分で更に引き上げて、お腹に巻き付けるように被り、その上から手で胃のあたりを抑えた。
「顔色悪いね。吐いた?」
「吐けてない。」
「そか。辛いな。」
ぽんぽんと頭を撫でられた。それがすごく安心する。もう少し、と思ってお願いしようとしたが、それより一歩早く健が口を開いた。
健はすでにキッチンに足を向けていて、その足を止めるのはなんだか気が引ける。
「何か食べられそう?」
「…うぅん。いらない。」
「冷蔵庫に昨日作ったゼリーならあるよ。」
健のゼリー。そんなに珍しい味がする訳では無いが、市販のものより少し味が薄くて、それが好みな俺は売っているものより、健の作ったゼリーの方が好きだ。
気分の悪さはあるが、もしかしたら、それなら食べられるかもしれない。
「…食べる。」
「はい。」
冷蔵庫から可愛らしいプリンカップに入ったゼリーを出して、スプーンを持って戻ってきた健は、自然にスプーンでゼリーを掬うと俺の前に出してきた。
あまりに自然な流れだったから、それに恥ずかしがるなんてことはしなかった。素直に口を開ければ、少量のゼリーを入れてくれた。
薄めの味のゼリーが口の中に広がった。
「おいしい。」
「ありがと。」
「もうちょい。」
「どうぞ。」
先程と同じように出してきてくれたものを先程と同じように、受け取った。
美味しくて食べられそうと思った気持ちとは逆に、体はこれ以上受け付けなさそうだ。カップには三分の二以上ゼリーが残っている。
先程からもやもやするような胸を軽く摩った。
「無理しなくていいよ。気持ち悪くなってきた?」
「ご、めん。」
「いいよ。」
胃がキュッと締まるような感覚に思わず呻き声を漏らした。
少量ずつだが、口に上がってくる胃酸をまとったゼリーを飲み込んだ。
健がスプーンを軽く洗って戻ってきた。俺の隣に座ると、胃を抑えている俺の手の上に、そっと手を置いてくれた。
だけど、これだけ近ければ、上がってきたものを飲み込む行為も見えてしまう。
「由貴?ちょっとおいで。」
「えっ、」
手を引かれて立ち上がらされる。それに抵抗出来るだけの気持ち的よ余裕はない。健に手を引かれるまま着いて行った。
トイレのドアを開けると俺を便器の前で座らせた。
「飲み込まない。ちゃんと出して。」
「だっ…。てけほっ、」
「気持ち悪いんでしょ。ほら。」
強めに背中を下から上へ、嘔吐を促すように摩られては、今の俺では抵抗なんて出来るわけがない。
「おぇ!っ…」
「怖がらないで。大丈夫。」
声はすごく優しくて安心するのに、手は容赦ない。
体は正直に反応するから、耳だけは健の声に集中する。
「うぅ…ぇ。はっ、ゴホッうぇ。」
「そうそう。」
「あっ、げほっ、、」
「もうちょっと頑張れ。」
しばらく続けていると、次第に吐き気はおさまってきた。未だギュッと痛む胃を擦りながら、健にもういい、と伝える。
「胃はまだ痛むか。」
「ん。」
「とりあえずリビング戻ろう。」
「ん。」
返事をするのも億劫でただ頷くだけになってしまう。申し訳なく思う気持ちはあるが、座位を保っているのもしんどくて、健に手を伸ばした。その手を拒むことなく掴んでくれて、引き上げてくれた健になんだかとてつもなく安心して、立ったまま、健に抱きついた。
「わっ、」
「…」
驚かれてしまった。いきなりの行動を危なくなく受け止めてくれた健には感謝しかない。
「しんどいでしょ。」
「ん。」
「部屋戻ろ?歩ける?」
「へやいったら、」
「ん?」
「いっしょ、にいて…くれるか?」
「…もちろん。いいよ。」
その言葉に先程の安心より更に安心が加わって、健に抱きついていた手を離して、健の手を掴むと、リビングに向かって歩き出した。
そっと握り返された手は温かくて、それだけで胃の痛みが少し和らいだような気さえした。
だから、気持ち悪さはまだ残るものの、トイレにいてもどうすることも出来ないので、リビングのソファに座って、行儀が悪いと分かっていても、足を上げて丸くなった。
「由貴?どしたの?」
健が帰ってきたみたいで、ドアを開けるなりそう言った。帰ってきて早々見たのが、恋人がソファで丸くなる姿なら、そうなるか。と客観的に場違いなことを考えた。
「胃がいたい。」
素直に答えると健はちょっと待ってて、と言い残して、部屋を出ていった。それが少し、寂しいと感じてしまう。帰ってきたんなら、俺のそばにいてくれよ。と思ってしまう。荷物置いたり、手を洗ったり、色々しなくてはいけないことがあるのはわかるので、それを口にはしなかった。
「お待たせ。ごめんね。」
「いや、いい。…毛布ありがと。」
「いいえ。」
肩にかけてくれた毛布を自分で更に引き上げて、お腹に巻き付けるように被り、その上から手で胃のあたりを抑えた。
「顔色悪いね。吐いた?」
「吐けてない。」
「そか。辛いな。」
ぽんぽんと頭を撫でられた。それがすごく安心する。もう少し、と思ってお願いしようとしたが、それより一歩早く健が口を開いた。
健はすでにキッチンに足を向けていて、その足を止めるのはなんだか気が引ける。
「何か食べられそう?」
「…うぅん。いらない。」
「冷蔵庫に昨日作ったゼリーならあるよ。」
健のゼリー。そんなに珍しい味がする訳では無いが、市販のものより少し味が薄くて、それが好みな俺は売っているものより、健の作ったゼリーの方が好きだ。
気分の悪さはあるが、もしかしたら、それなら食べられるかもしれない。
「…食べる。」
「はい。」
冷蔵庫から可愛らしいプリンカップに入ったゼリーを出して、スプーンを持って戻ってきた健は、自然にスプーンでゼリーを掬うと俺の前に出してきた。
あまりに自然な流れだったから、それに恥ずかしがるなんてことはしなかった。素直に口を開ければ、少量のゼリーを入れてくれた。
薄めの味のゼリーが口の中に広がった。
「おいしい。」
「ありがと。」
「もうちょい。」
「どうぞ。」
先程と同じように出してきてくれたものを先程と同じように、受け取った。
美味しくて食べられそうと思った気持ちとは逆に、体はこれ以上受け付けなさそうだ。カップには三分の二以上ゼリーが残っている。
先程からもやもやするような胸を軽く摩った。
「無理しなくていいよ。気持ち悪くなってきた?」
「ご、めん。」
「いいよ。」
胃がキュッと締まるような感覚に思わず呻き声を漏らした。
少量ずつだが、口に上がってくる胃酸をまとったゼリーを飲み込んだ。
健がスプーンを軽く洗って戻ってきた。俺の隣に座ると、胃を抑えている俺の手の上に、そっと手を置いてくれた。
だけど、これだけ近ければ、上がってきたものを飲み込む行為も見えてしまう。
「由貴?ちょっとおいで。」
「えっ、」
手を引かれて立ち上がらされる。それに抵抗出来るだけの気持ち的よ余裕はない。健に手を引かれるまま着いて行った。
トイレのドアを開けると俺を便器の前で座らせた。
「飲み込まない。ちゃんと出して。」
「だっ…。てけほっ、」
「気持ち悪いんでしょ。ほら。」
強めに背中を下から上へ、嘔吐を促すように摩られては、今の俺では抵抗なんて出来るわけがない。
「おぇ!っ…」
「怖がらないで。大丈夫。」
声はすごく優しくて安心するのに、手は容赦ない。
体は正直に反応するから、耳だけは健の声に集中する。
「うぅ…ぇ。はっ、ゴホッうぇ。」
「そうそう。」
「あっ、げほっ、、」
「もうちょっと頑張れ。」
しばらく続けていると、次第に吐き気はおさまってきた。未だギュッと痛む胃を擦りながら、健にもういい、と伝える。
「胃はまだ痛むか。」
「ん。」
「とりあえずリビング戻ろう。」
「ん。」
返事をするのも億劫でただ頷くだけになってしまう。申し訳なく思う気持ちはあるが、座位を保っているのもしんどくて、健に手を伸ばした。その手を拒むことなく掴んでくれて、引き上げてくれた健になんだかとてつもなく安心して、立ったまま、健に抱きついた。
「わっ、」
「…」
驚かれてしまった。いきなりの行動を危なくなく受け止めてくれた健には感謝しかない。
「しんどいでしょ。」
「ん。」
「部屋戻ろ?歩ける?」
「へやいったら、」
「ん?」
「いっしょ、にいて…くれるか?」
「…もちろん。いいよ。」
その言葉に先程の安心より更に安心が加わって、健に抱きついていた手を離して、健の手を掴むと、リビングに向かって歩き出した。
そっと握り返された手は温かくて、それだけで胃の痛みが少し和らいだような気さえした。
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる