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放課後誰もいない部室で
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そんなに体は弱くはなくて、熱を出したことは数回しかなかった。
頭痛や腹痛は、寝不足や食べ過ぎで「少し痛い」程度しか経験がない。
だから、こんなことは初めてだったのだ。
部活終わり、少し自主練をしてから帰るから、鍵は任せてくれて構わない。と言ってみんなを見送り、自分一人になった教室の入口近くで座り込んだ。
座り込みたくて座り込んだ訳では無い。せめて椅子に座った方がいいのかもしれないが、今は動くだけで頭痛がして、一歩も動きたくない。
ガンガンと内側からハンマーで殴られるような痛みはこれまでに経験したことがない。人に知られたくないから、隠して、一人になれる時を待ったというのに、今はそれが逆効果だったと後悔する。
いっそ、言ってしまったほうが楽だったかもしれない。とはいえ、過度に心配されるのもどうかと思うし、僕のせいで練習を中断させたくもない。
「いっ……ひっ、、」
痛むおおよその箇所を抑えても内側からの痛みに外側から対抗出来るはずもなく、痛み続ける。
息を吸っても吐いても痛む頭に、息が出来るという当たり前のことに場違いな感謝を覚える。
不可抗力で出てきた涙が頬を伝って床に落ちた。
「っ、、あぁ、、」
自然と声が漏れるのに、声を出す度に痛む。それがわかって声を出さないようにしてもそれはそれで痛む。
どうすればいいんだ。誰か、助けて。
窓からさしてくる夕日の光が元からある頭痛に追い打ちをかける。
「いた、い、、たすけて、、あぁっ、。。」
一人だということがわかっていても、誰かに縋りたくなるほどに、痛む。一人だとわかっているから、不安になる。
これでは保健室に行くことも出来ない。携帯もカバンの中に仕舞いっぱなしだ。
上手く痛みを逃がせなくても、頭を抑える手は離す気にはなれなくて、髪の毛が抜けそうになるほど、強く手を握りしめた。
コンコン、と廊下を歩く音がする。廊下の一番奥にあるこの教室から遠ざかる足音はあっても、近づいてくる足音は、確実にこの教室に用事がある時のみの音だ。
先生だったら、説明して、何とかしてもらおうか。でもまだ最終下校時刻ではないし、ここから職員室は遠いから先生の可能性は低いか。
後輩かな。忘れ物して、取りに来たのなら、この状況はビックリするだろう。
同期はある意味一番嫌だな。なんとも言えない気まずさが残る。
色々な考えが頭に巡ったが、結局は自分が立ち上がらないことにはどうにも出来ない。
痛む箇所を押さえつけて、何とか立ち上がった。
目の前がグラグラと揺れて、立っているだけのはずなのに、酔いそうだ。足に力が入らない。ふらふらするのを気力で持ちこたえる。
ガラガラ、と扉の開く音がして、人が入ってきた。
部室に、人が入ってくるだけで、これだけ緊張するのは初めてだ。
「功弥っ、、っと。」
「たつ、、」
入ってきたのは幼なじみの竜で、その顔に安心したらふっと、力が抜けた。
力が入らず、床に頭を打ち付けそうになるのを、間一髪で竜が支えてくれた。
「ご、めん。。ありがと。った…」
「功弥…悪いな。ちょっと触るぞ。」
そう言われて額に当てられた手はほんのり冷たくて、すっと頭の痛みを取ってくれるようで、自然と安堵の息を吐いていた。
冷たいけれど、保冷剤や氷のようなそれでは無い。人肌で安心する、温もりのある冷たさだった。
「熱いな。熱出てる。…けど、それより頭痛いんだよな。」
「うん。。」
「珍しいな。お前が熱出すの。」
「なんで、、あたま、いたいってわかったの。」
「頭抑えてただろ?」
「ああ、それで。。」
先生より安心する。竜がいてくれるだけで自分が強くなったかのように錯覚する。頭痛はするけど、不安はもうない。
ガンガンと痛む頭もさっきに比べれば少し和らいだような気がしてくる。
「はあっ、、」
「大丈夫か?しんどくなってきた?」
「ちょ、、っと。」
やっぱり、気がする、だけだったか。
「ほら、こっち倒れていいぞ。」
さらっと自分の方に抱き寄せて、すうっと髪を梳くように、頭を撫でる姿は、男の僕がみても、文句無しにかっこいい。
「そ、いえば、、何で、ここ。。」
「自転車置き場で功弥の後輩が駄弁ってるの見つけてさ。聞けば自主練してる、っていうのに音が全く聞こえなかったから、ちょっと気になって。」
そうか。吹奏楽の部室から音が漏れていないのは不自然だったのか。楽器の音がしなくても、リズムの確認や、基礎の確認、指の確認など、音が漏れない練習はいくらでもあるが、陸上部の竜にとって、それはあまり馴染みがないものなのだろう。
「帰れるか?」
「…」
「ちょっと揺れるのも痛いか?」
「、、……いたい、けど、それくらい、ならいける。」
「じゃあ、帰れるな。荷物もうまとめてある?」
「うん。」
椅子の上に置いているカバンに視線を向ければ、竜もそちらを見て、理解してくれたらしい。
近くにある椅子を引っ張って、真横に持ってくると、そこに僕を持たれ掛けさせて「ちょっと待っててくれ。」と、そう言うなり、僕のカバンの方へと向かった。
かばんの近くに置いていた筆箱を中に入れてチャックを閉めると、直ぐに、僕の元に戻ってきてくれた。
「鍵どこ?」
「つくえのうえ…」
「ああ、あれか。……っと。よし。はい。」
本当は指揮者用の譜面台の上、だが、説明が面倒だし、なにより「机」のほうが伝わりやすい。
竜は、鍵を片手に、2人分のカバンを抱っこするように持って、僕に背中を向けて、しゃがんだ。
意味が分からずに、固まってしまった。
「ほら、乗って。どうせ家近いんだから、帰る場所一緒だろ。」
「え、、」
「ほら。」
急かされるまま、背中に乗ると、小さな掛け声と共に、立ち上がった。いくら小柄とはいえ、同い年の男を背中に、前にはカバンを持った状態でも、ふらつくことなく立ち上がった竜はそのままなんの迷いもなく、部室のドアを開けた。
鍵を閉めて、職員室に返すのも全部やってくれた。
「色々寄り道して悪いな。帰ろっか。」
「あり、がと。、ごめん。」
寄り道なんて全くしていない。部室の鍵は職員室に返さないといけないし、施錠だって本当なら僕がしなくちゃいけないことなのだ。
「気にしなくていいぞ。誰だって体調崩すことはあるしな。それに珍しいとは言ったが、迷惑だなんて思ってもない。陸上部なんだし、そこそこ鍛えてるよ。辛かったら寝てろよ。」
なんだか、思考を全て読まれた上での返答だ。陸上部が全員が全員、竜のようなタイプではないだろうが、それでも竜が陸上部に入ってから、肉体的に逞しくなったのは、事実だ。
安定感があって、安心する。
たぶん、安心するのは、竜だから、だろうけど。
信頼出来る幼なじみに、もう一度「ありがとう」と言って、お言葉に甘えて、目を閉じた
頭痛や腹痛は、寝不足や食べ過ぎで「少し痛い」程度しか経験がない。
だから、こんなことは初めてだったのだ。
部活終わり、少し自主練をしてから帰るから、鍵は任せてくれて構わない。と言ってみんなを見送り、自分一人になった教室の入口近くで座り込んだ。
座り込みたくて座り込んだ訳では無い。せめて椅子に座った方がいいのかもしれないが、今は動くだけで頭痛がして、一歩も動きたくない。
ガンガンと内側からハンマーで殴られるような痛みはこれまでに経験したことがない。人に知られたくないから、隠して、一人になれる時を待ったというのに、今はそれが逆効果だったと後悔する。
いっそ、言ってしまったほうが楽だったかもしれない。とはいえ、過度に心配されるのもどうかと思うし、僕のせいで練習を中断させたくもない。
「いっ……ひっ、、」
痛むおおよその箇所を抑えても内側からの痛みに外側から対抗出来るはずもなく、痛み続ける。
息を吸っても吐いても痛む頭に、息が出来るという当たり前のことに場違いな感謝を覚える。
不可抗力で出てきた涙が頬を伝って床に落ちた。
「っ、、あぁ、、」
自然と声が漏れるのに、声を出す度に痛む。それがわかって声を出さないようにしてもそれはそれで痛む。
どうすればいいんだ。誰か、助けて。
窓からさしてくる夕日の光が元からある頭痛に追い打ちをかける。
「いた、い、、たすけて、、あぁっ、。。」
一人だということがわかっていても、誰かに縋りたくなるほどに、痛む。一人だとわかっているから、不安になる。
これでは保健室に行くことも出来ない。携帯もカバンの中に仕舞いっぱなしだ。
上手く痛みを逃がせなくても、頭を抑える手は離す気にはなれなくて、髪の毛が抜けそうになるほど、強く手を握りしめた。
コンコン、と廊下を歩く音がする。廊下の一番奥にあるこの教室から遠ざかる足音はあっても、近づいてくる足音は、確実にこの教室に用事がある時のみの音だ。
先生だったら、説明して、何とかしてもらおうか。でもまだ最終下校時刻ではないし、ここから職員室は遠いから先生の可能性は低いか。
後輩かな。忘れ物して、取りに来たのなら、この状況はビックリするだろう。
同期はある意味一番嫌だな。なんとも言えない気まずさが残る。
色々な考えが頭に巡ったが、結局は自分が立ち上がらないことにはどうにも出来ない。
痛む箇所を押さえつけて、何とか立ち上がった。
目の前がグラグラと揺れて、立っているだけのはずなのに、酔いそうだ。足に力が入らない。ふらふらするのを気力で持ちこたえる。
ガラガラ、と扉の開く音がして、人が入ってきた。
部室に、人が入ってくるだけで、これだけ緊張するのは初めてだ。
「功弥っ、、っと。」
「たつ、、」
入ってきたのは幼なじみの竜で、その顔に安心したらふっと、力が抜けた。
力が入らず、床に頭を打ち付けそうになるのを、間一髪で竜が支えてくれた。
「ご、めん。。ありがと。った…」
「功弥…悪いな。ちょっと触るぞ。」
そう言われて額に当てられた手はほんのり冷たくて、すっと頭の痛みを取ってくれるようで、自然と安堵の息を吐いていた。
冷たいけれど、保冷剤や氷のようなそれでは無い。人肌で安心する、温もりのある冷たさだった。
「熱いな。熱出てる。…けど、それより頭痛いんだよな。」
「うん。。」
「珍しいな。お前が熱出すの。」
「なんで、、あたま、いたいってわかったの。」
「頭抑えてただろ?」
「ああ、それで。。」
先生より安心する。竜がいてくれるだけで自分が強くなったかのように錯覚する。頭痛はするけど、不安はもうない。
ガンガンと痛む頭もさっきに比べれば少し和らいだような気がしてくる。
「はあっ、、」
「大丈夫か?しんどくなってきた?」
「ちょ、、っと。」
やっぱり、気がする、だけだったか。
「ほら、こっち倒れていいぞ。」
さらっと自分の方に抱き寄せて、すうっと髪を梳くように、頭を撫でる姿は、男の僕がみても、文句無しにかっこいい。
「そ、いえば、、何で、ここ。。」
「自転車置き場で功弥の後輩が駄弁ってるの見つけてさ。聞けば自主練してる、っていうのに音が全く聞こえなかったから、ちょっと気になって。」
そうか。吹奏楽の部室から音が漏れていないのは不自然だったのか。楽器の音がしなくても、リズムの確認や、基礎の確認、指の確認など、音が漏れない練習はいくらでもあるが、陸上部の竜にとって、それはあまり馴染みがないものなのだろう。
「帰れるか?」
「…」
「ちょっと揺れるのも痛いか?」
「、、……いたい、けど、それくらい、ならいける。」
「じゃあ、帰れるな。荷物もうまとめてある?」
「うん。」
椅子の上に置いているカバンに視線を向ければ、竜もそちらを見て、理解してくれたらしい。
近くにある椅子を引っ張って、真横に持ってくると、そこに僕を持たれ掛けさせて「ちょっと待っててくれ。」と、そう言うなり、僕のカバンの方へと向かった。
かばんの近くに置いていた筆箱を中に入れてチャックを閉めると、直ぐに、僕の元に戻ってきてくれた。
「鍵どこ?」
「つくえのうえ…」
「ああ、あれか。……っと。よし。はい。」
本当は指揮者用の譜面台の上、だが、説明が面倒だし、なにより「机」のほうが伝わりやすい。
竜は、鍵を片手に、2人分のカバンを抱っこするように持って、僕に背中を向けて、しゃがんだ。
意味が分からずに、固まってしまった。
「ほら、乗って。どうせ家近いんだから、帰る場所一緒だろ。」
「え、、」
「ほら。」
急かされるまま、背中に乗ると、小さな掛け声と共に、立ち上がった。いくら小柄とはいえ、同い年の男を背中に、前にはカバンを持った状態でも、ふらつくことなく立ち上がった竜はそのままなんの迷いもなく、部室のドアを開けた。
鍵を閉めて、職員室に返すのも全部やってくれた。
「色々寄り道して悪いな。帰ろっか。」
「あり、がと。、ごめん。」
寄り道なんて全くしていない。部室の鍵は職員室に返さないといけないし、施錠だって本当なら僕がしなくちゃいけないことなのだ。
「気にしなくていいぞ。誰だって体調崩すことはあるしな。それに珍しいとは言ったが、迷惑だなんて思ってもない。陸上部なんだし、そこそこ鍛えてるよ。辛かったら寝てろよ。」
なんだか、思考を全て読まれた上での返答だ。陸上部が全員が全員、竜のようなタイプではないだろうが、それでも竜が陸上部に入ってから、肉体的に逞しくなったのは、事実だ。
安定感があって、安心する。
たぶん、安心するのは、竜だから、だろうけど。
信頼出来る幼なじみに、もう一度「ありがとう」と言って、お言葉に甘えて、目を閉じた
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