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高校生ってまだまだ子供ですよ

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半年程預かることになった斗真がお腹をさすっているのが見えて、声をかけた。

「斗真?お腹どうかした?」
「夏希さん…。大丈夫です。なんでもないです。」

高校生なんてまだまだ子供なんだから親がいてあげないと、という僕の考えは一個人の意見としては間違っていないと思うのだ。何を思って斗真の親はこの時期に海外出張なんだ…という思いはとりあえずは流しておくことにした。
親戚の中で僕の家は斗真の通う高校に一番近いとの理由から半年間、社会人歴一年目、いわゆる新卒であるにも関わらず僕の家で預かることになった。

「ならいいんだけど、なんかあったら言えよ?こんな、ちょっと前まで学生だった新卒の大人なんか頼りにならないかもだけど。」
「ありがとうございます。夏希さんは頼れる大人、ですよ。」
「ふふ、ありがと。ご飯できたから運んでくれる?」
「もちろん。」

キッチンに来てくれた斗真はなんだか涙を堪えているような、ぎりぎりで保っているような表情をしている。今、良いことでも悪いことでも何か斗真に刺激を与えればその両目から止まることなく涙があふれることだろうと想像が簡単につくくらい。
こんな表情を見たら、だから親がいてあげないといけないんだ、と自分理論を爆発させたくなってしまう。甘えられるのは、信頼に足る大人の胸だと僕は思っているのだから。

向かい合って座り、二人で手を合わせて食事に手をつける。
斗真ははじめの方こそいつも通り食べていたが、だんだん箸を動かす手がゆっくりになってきて、咀嚼速度も落ちてきた。具体的にどういえばいいかわからないけど、顔色が悪い。

「斗真、無理して食べなくていいよ?食欲わかないなら、残していいよ。」
「だ、いじょうぶです。そんな」
「無理したっていいことないよ。まだちょっとしか一緒にいないけど、そんな僕でもわかるくらい今の斗真顔色悪いよ。」

諭すように言えば、少しの間、困るような迷うような顔をしたが最後は手に持っていた箸と茶碗を机に置いた。小さくごめんなさい。と言ったのに対して大丈夫。という意味を込めて頭をぽんぽんと二回ほど撫でた。一人暮らし用の小さな机で良かったと今思った。

箸と茶碗を持っていた手を膝の上に置いてそれきりどうしていいかわからない、という顔をしている斗真。

「少し休む?って言ってもソファとかベッドとかそんなのはないから、ここか、隣の部屋くらいしかないけど。」
「いえ、……」

カウンセラーは目の前でなく、左右どちらかの斜め前に座ると聞いたことがある。人間は真正面よりもその方が話しやすいらしい。
目の前で俯いてしまってそれきり何をどう言おうか迷っている斗真にもそれは当てはまるだろうか。

「お腹、痛むの?」
「…」

席を移動しながら聞く。椅子がいるテーブルタイプじゃなくて良かったと、過去の自分を再び褒めた。テーブルだと中腰かしゃがむか、どちらにしても少し視線が合わない気がする。
先程お腹を摩っていたのを思い出して聞いてみたところ、当たっていたようで、小さく頷いてくれた。痛みがあってよかったという訳では決して無いけれど、反応がないよりは斗真のことがわかるから良い。

「足崩していいよ。」
「…」
「その体勢は楽なの?」

首を今度は横に振る斗真に少し問い詰めた。

「楽な体勢でいいよ。そんな、無理したら余計痛くなっちゃう。」

頭を撫でながら言うとおそるおそる、と言った感じに足を崩した。三角座りをした斗真だけれど、その座り方は長時間していると腰や太ももの付け根あたりが痛くなってくるのはちょっと前まで学生だった僕は身体が覚えている。それでもお腹を抱えるようなその体勢が今一番楽なのだろう。

膝に顔を埋めて小さく丸くなる姿は、迷子の子供を見ているよう。今、斗真にとって痛いのはお腹より心の方なんじゃないかと思う。
いつも背筋をピンと伸ばしていて礼儀正しく、寝起きもいいし、あまり世話のかからない子だと思っていたけど、たぶん気を使いすぎているだけだ。姿勢がいいのは気が抜けないから。寝起きがいいのではなく寝れていないのだろう。世話がかからないとは意識して自分のことを自分でしているから。

席を斜め前から真横に移動して、その丸くなった背中を抱きしめた。まだまだ安定した大人ではないけれど、少しとはいえ斗真より人生経験がある。安心させて泣かせてあげることくらいは出来るだろう。なにより…

「斗真。我慢しないでいいよ。泣いていいよ。寂しくなっちゃったかな。?」
「うっ、んっ、ぁああ…あぁぁ…けほっ、ひぐ…えっ。。ああああ…」
「よしよし。」
「あぁん…っ、、」

なにより、親元から離れたばかりの僕は、今の斗真の気持ちをどんな大人よりも理解出来る自信がある…。
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