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泣きたい時に泣きたい分だけ。

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チャイムがなって、先生が入ってくる。そして、名簿を見て言った。

「佐原、どこ行ったか知ってる奴いるかー?」

教室中がザワザワとした。佐原真希。生徒会会長で俺の恋人。立場上、生徒の前に立つことが多い真希は校内では結構有名人なのだが、その場にいるだけではかなり存在感が薄い。
そんな彼が誰にも何も言わずに出ていったのならば誰も居場所を知らないだろう。
俺は予想がつく。絶対的な確信がある訳では無いが。

「はい。」
「桐嶋。」
「多分、生徒会室だと思います。」
「見てくるから、それまで全員、ワークを進めておいてくれ。」

先生が教室から出ようとしたところで、止めた。

「先生、俺が行ってもいいですか?」
「だめだ。」
「なら、俺に行かせてください。」
「行ったら点数が引かれるぞ?」
「構いません。ただ、先生が行っても失礼な話、佐原をどうすることも出来ません。」
「どういう意味だ?」

生徒会室にいる。しかしそれは人の目を避けるために行ったのだと思う。高校に上がってからの付き合いなので、そんなに長くはない。が、二年間は確実に関わりがあるのだ。
一番の理由は、恋人だから。俺には見せてくれる気がする。

そういう意味を込めて先生を見つめ続けると、口調の割に甘い先生だから、渋々ながらもOKを出してくれた。
ついでに事情しだいで点数も引かないようにしてくれるらしい。
一言で神。

俺はしっかりとお礼を言って、タオルを持って教室を出た。

俺は一直線に生徒会室に向かった。
廊下から見えた時には電気が消えていて、中に人がいるような気配はなかった。
それに、授業で使う教室では無いのだから、先生もこんな所を覗いたりしないのだろう。

部屋のドアを開ける。鍵は空いていたので簡単にはいることが出来た。

「真希~」

部屋に入ると、会議用にと丸く並べられた机に並べられた椅子。そのひとつに座って机に突っ伏す真希がいた。

どうやら眠っている訳では無いようだった。
というのも、微かだが声が聞こえたから。

「真希。」

もう一度声をかけた。今度は軽く方を叩きながら。

「~ーっいっ」
「…真希?」
「……ぃー」
「ん?」
「…いたい…」

改めて、真希を見ると、突っ伏している頭は右腕に預けているが、左手は胃の辺りをしきりに摩っていた。時々、ギュッと握りこまれるその手の動きに痛みに波があることを悟った。
また、体を全体的に丸めていて、若干震えていた。

「真希、寒い?」

聞くと真希はゆっくりと、だが、しっかりと首を縦に振ってくれた。 

生徒会室は結構色々なものが揃っている。中に毛布もあるだろうと探してみると、やはりあった。
見つけ出した毛布をそっと真希にかけた。

「…ふっ、、うぅ、あぁ、ぐすっ」
「真希、どしたー?」

いきなり泣き出した真希。だけど驚きはしない。何度かそういう姿をみているから。それに何かが溜まり溜まったのは確かだがそれを追求することはしない。
そんなこと、傷口に塩だ。

俺は持ってきたタオルを渡して、ただ、何も言わずに、背中や腕をを摩って、落ち着かせる。と言っても無理に落ち着かせようとは思っていない。俺がここにいる、それをわかってもらうだけ。

心の限界を体が先に出すから、ある意味助かっていたりする。体に出ずに心が潰れて命を落とすケースも大いにあると聞いたことがあるような気がするから。

「落ち着いた…?」

数分して、泣き止んだ真希に問う。

「…まだいた、い」
「そう。辛いね。」

会話が若干噛み合わないが、特に気にしない。いい意味で無干渉なのがいいと、正常な時に言っていた。

会長だからと特別扱いされるのが一番辛いと。

「っ……」
「保健室行く?」
「…いや。     しんどい…」
「ん。じゃあしばらくここでゆっくりしてようか。」

何をするでもなく、時間が過ぎるのをただぼーっと待っているような感覚。
未だに突っ伏して必死に胃を摩りながら、小さく震える体を一定のテンポでとんとんと叩く。

「んっ…いっ。。ん」

室内には真希の胃痛に耐える声だけが響く。俺としては早めに保健室に連れていきたいが、そうもいかない。

不意に、ゴクリと何かを飲み込むような音がした。俺はそんな音発していないから真希しかいない。
となりをみると、真希が顔を真っ青にして、下を向き、下唇を若干血が出る程に噛んでいる。片手は胃を摩り続けていて、もう片方は俺が渡したタオルをギュッと握っていた。
すぐに吐きそうなのだと、分かった。

「真希っ、ごめん。ちょっと待ってね。」 

入口付近に合ったゴミ箱をとって、真希の前に置いた。
背中を摩ると、簡単に決壊した。

「はっ。。うぇ、んっうぇぇえ………けほっ、」
「大丈夫だよ。全部出しちゃおね。我慢しないで。」  

しばらくそうしていると、真希が空嘔吐を始めた。

「うぇ、げほっ、うぇぇ」 
「真希、真希、落ち着いて。吐くものないなら、嘔吐かないほうがいい。」
「っふ、ぅえ。。やっ、、」
「嫌じゃなくて。真希が辛いよ。」
「ぁぁあぁ…いやっ!……はっ、、」

真希は基本、静かに泣く。なにかに耐えられなくなった時、一人静かに。
俺は真希のこんなに荒くなるところは初めて見た。だから、一瞬戸惑った。
でも、相手が真希だからこそ、俺はすぐに対応出来たのだ。

「真希、ちょっとこっち向いて。こっちおいで」

少々強引に肩を掴んで無理やり、自分に向き合わせた。
そして、自分の膝の上に真希を座らせて抱きしめた。少し強めに。今は多少強引でもいいと思った。
自分の肩に真希の頭を預けさせて、頭を撫でた。

「大丈夫。大丈夫。」
「…っぷ。。あぁぁ。。っ」
「よしよし、俺しかいないし。」
「わ、わ、、かん……なぃ。。ぇっん。ど、うしょ。」 
「うん。今は泣きなよ。」
「。。。ご、め、、」 
「謝ることじゃないよ。大丈夫。」

俺は真希を抱きしめて、背中を摩ったり、頭を撫でたり、し続けた。
もちろん、真希自身がずっと摩っている胃のあたりには触れないようにした。新たな刺激で痛みを増やすことはしたくない。

しばらく声を上げて泣き続けた真希は次第に泣き疲れたのか、俺の膝の上で眠ってしまった。

「おやすみ、真希。」

俺は真希の額にそっとキスをした。

毎回、こうして泣いたあとは何も無かったように元通りになるのだ。それは、真希が演じているのか、それとも本当に自分の心の状態を把握しきれていないのか。まだ俺にはわからない。
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