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高反発音楽性
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「ミークやっぱ神ってる。新曲の歌詞マジでヤバい。『居場所がなくなろうとも手を伸ばし続けてよ きっと君に光が差すから』とかチョーいい。ろーちゃんもそう思わん?」
外で放課後の話をする生徒たちの喧騒とカラスの合唱が交わる頃、イヤホンを片耳にハメて机で頬杖をしながら机の上に腰掛ける私にウォークマンの画面を見せる。
「ちーちゃんもさー、みんなもさー、ミーク、ミークって言うけど、音楽なら激しくてカッコいいスタボーンしか勝たん。ちーちゃんも聞けば絶対分かるって」
ちーちゃんのウォークマンを弾いてバッグから一枚のCDを取り出して見せると、ちーちゃんは呆れた表情で乾いた溜息をついた。
「あー始まったよ、ろーちゃんのスタボーン推し。パタッと曲も出さなくなったし、流行ってもないから聞かないよ。それよりろーちゃんこそ...」
「また...」
私は視線と同時にCDを下ろしながらろーちゃんの言葉を遮るようにボソッと呟くと、ろーちゃんが驚いた声とともに私の顔を覗き込む。
「えっ?」
「もういいよ、また明日」
机から降りて声を荒げつつ、机の横にさげているチャック全開のバックにCDを投げ入れ、片方の紐を肩にかけて、手の甲を振って教室を後にした。
「はーっ.....」
溜息をつきながらベッドへ大の字に倒れこみ、薄く紅潮した頬に手の甲をそっと添えて、白い天上をぼんやりと見つめて目をつむる。
――ブーブー
机の上のガラケーのバイブレーションで目を開き、足に力を入れて上体を起こした。机の横の壁に大きくメタリックな色合いのロゴが目を引くスタボーンのポスターに目をやる。
「...私は激しい音楽が好きなだけなのに...。前からそう...好きなんかじゃないピアノばっかり弾かされて...」
ボソッと呟きながら部屋の隅にある埃被ったアップライトピアノをよそ目にガラケーを持ち上げてパカっと開くとみーくんと表示されたメールの通知がきていた。
『ろーさ、CDいる?いい感じに作業できるセットリストになったんだけど、ミークとかろーの好きなスタボーンとか。ミークが多いかもだけど、聞いてみてくれたら嬉しいな』
夕方の事を思い出してしまい、ボタンを強く押し込みながら返信を打ち込む。強く押しすぎていつも以上に同じ文字を入力してしまったり、変換を間違ったりしてスラスラと打ち込めない。
『みーくん、ありがとう。パスで。ごめんね』
返信を送るやいなやバチンと高い音を立てながらガラケーを畳んで机の上に放り投げる。濡れた髪をかき回し、ぐちゃぐちゃな髪のまままたベッドに倒れこんだ。
喧騒に包まれる休み時間にガラケーをポチポチ操作しながら、横目に廊下を見ると、みーくんの姿が目に入った。慌てて立ち上がりみーくんを追いかける。渡り廊下へと入っていくので声をかけようとしたが、すぐに手を口にあてて声を殺した。
「先輩!これもらっていいんですか!」
みーくんの先から陽気な女の子の声が聞こえたからだ。この甘く甲高い声はみーくんの部活の後輩だ。分かっている、分かっているのに、その場を見てられなくなって渡り廊下に繋がる扉に姿が見えないように隠れてしまう。
「いいんだよ、折角作ったのに聞いてもらえないのは悲しいから」
みーくんの言葉に胸が痛くなって俯く。
「あっ、ミークの曲とか入っているんですね、楽しみ」
「ミークは歌詞がいいからさー」
後輩との会話が耳障りに聞こえ、振り切るように頭を搔きむしる。
「みーくんはミークが好き...。私が少しでもミークを聞けてたら...CDを...」
思いがこみ上げればこみ上げるほど目頭が熱くなり、堪えきれなくなりそうでその場を後にした。
あれから数日経ち、みーくんに呼ばれて彼の部屋にいた。彼と一緒にいるのは楽しい時間のはずなのに、彼の部屋までの足取りは重く、たどり着いて彼と話していても上唇が重たくて言葉がうまく出ない。私に追い打ちをかけるかのように、彼の部屋にあるミークのアルバムやポスターが視界に入って、目を背けたくなる。
「んでさー、この前、決め台詞の時に噛んじゃってさー、部活の時、しこたま活舌の練習させられて舌が擦り切れそうになったんよね、らしくねーよなー、だっさいわ」
彼はベッドの上に立ち、身振り手振りで部活の時の話を伝えてくれているのに上の空で、ベッドに腰掛ける私はボソボソと相槌をうつだけ。音楽が好きな彼があえて話題を避けているのだろうか、そう考えるとどんどん表情は曇るばかりだった。
「ろー、どうしたの、泣きそうになって。お、俺そんな悲しい話したっけ」
堪えていた涙が目尻から零れて耐えきれなかった。涙を遮るようにキュッと目をつむり、ゆっくりと瞼をあけてぼやける彼にようやく口を開いた。
「だって、私のせいじゃん」
「そんなことない、ただ、部活の時の話を聞いてほしかっただけで。ってか、今日なんか変だよ、どうしたのさ、ろーらしくないじゃん」
頭を目一杯振り、彼の言葉を遮る。
「らしいって何。それならみーくんだってらしくないじゃん。いつも音楽の話をするじゃん」
言葉が出た後、目を少し大きくしたのと同時に口を手で覆い、ぼやけた彼から視線を外す。
「それはろーが…」
彼が大きく声を荒げたと思いきや私の後ろに座り、そっと優しい手が俯く私の頭の上に添えられる。
「それはろーが嫌がるのかなって。CDも受け取ってくれなかったし」
抑えてた口元の手から力が抜けて、必死に堪えてた瞼が決壊して大粒の涙がベッドを濡らす。
「どうしたら、みーくんと楽しくアーティストの話ができるの。ミークの話が好きなのは分かるけど、私にはしてあげられない」
彼は私の頭の上の手をそっと降ろして、後ろから抱き着くように手を回した。
「そっか、スタボーン大好きだもんな。ちょっと待ってな」
彼はベッドから降りて机の上にあったウォークマンを取り、私の傍に座りなおす。
「ろー」
優しい彼の声に顔を上げると耳にそっとイヤホンをつけられる。
「なんでもいいから少し聞いてみてよ」
泣きじゃくって振り払う力もなく、ただただミークの音楽が聞こえる。
「…やっぱり…もっと激しいのがいい」
「ははは、ろーらしいや。もっと激しいってギターとかドラムが?」
彼が笑いながら私が投げ出す感想を丁寧に拾い上げてくれる。一曲が終わると彼はウォークマンを操作して”スタボーン”と表示された画面を見せる。
「ほら、スタボーンの激しいやつ。これくらいないとダメ?」
私はこくりと頷くと彼も頷きながら曲を聞いている。いつしか大粒の涙は止まって、ぼやけた彼がしっかりと見える。
「そりゃ歌詞を聞かせたいミークには合わないなー。スタボーンは激しい音をぶつけるこの感じがいいからこれでいいと思うけどさー」
彼の言葉に一粒の涙が頬を伝う。彼はそれを見て慌てて声をかける。
「あ、あれ、なんか俺した…?」
今度は優しくゆっくり頭を振り、目尻を下げる。
「ううん、みーくんが聞いてくれて、同じ話題を話せたのが嬉しかったから」
「そっか、ほら、次はミークのオススメなんだけどさ、聞いてよー」
私は小さくもしっかりと頷くと、みーくんは微笑んで立ち上がって、CDラジカセの再生ボタンを押した。
―手を伸ばす冒険心よりも
手を振り払われる恐怖心で
心を強張らせていたんだね
外で放課後の話をする生徒たちの喧騒とカラスの合唱が交わる頃、イヤホンを片耳にハメて机で頬杖をしながら机の上に腰掛ける私にウォークマンの画面を見せる。
「ちーちゃんもさー、みんなもさー、ミーク、ミークって言うけど、音楽なら激しくてカッコいいスタボーンしか勝たん。ちーちゃんも聞けば絶対分かるって」
ちーちゃんのウォークマンを弾いてバッグから一枚のCDを取り出して見せると、ちーちゃんは呆れた表情で乾いた溜息をついた。
「あー始まったよ、ろーちゃんのスタボーン推し。パタッと曲も出さなくなったし、流行ってもないから聞かないよ。それよりろーちゃんこそ...」
「また...」
私は視線と同時にCDを下ろしながらろーちゃんの言葉を遮るようにボソッと呟くと、ろーちゃんが驚いた声とともに私の顔を覗き込む。
「えっ?」
「もういいよ、また明日」
机から降りて声を荒げつつ、机の横にさげているチャック全開のバックにCDを投げ入れ、片方の紐を肩にかけて、手の甲を振って教室を後にした。
「はーっ.....」
溜息をつきながらベッドへ大の字に倒れこみ、薄く紅潮した頬に手の甲をそっと添えて、白い天上をぼんやりと見つめて目をつむる。
――ブーブー
机の上のガラケーのバイブレーションで目を開き、足に力を入れて上体を起こした。机の横の壁に大きくメタリックな色合いのロゴが目を引くスタボーンのポスターに目をやる。
「...私は激しい音楽が好きなだけなのに...。前からそう...好きなんかじゃないピアノばっかり弾かされて...」
ボソッと呟きながら部屋の隅にある埃被ったアップライトピアノをよそ目にガラケーを持ち上げてパカっと開くとみーくんと表示されたメールの通知がきていた。
『ろーさ、CDいる?いい感じに作業できるセットリストになったんだけど、ミークとかろーの好きなスタボーンとか。ミークが多いかもだけど、聞いてみてくれたら嬉しいな』
夕方の事を思い出してしまい、ボタンを強く押し込みながら返信を打ち込む。強く押しすぎていつも以上に同じ文字を入力してしまったり、変換を間違ったりしてスラスラと打ち込めない。
『みーくん、ありがとう。パスで。ごめんね』
返信を送るやいなやバチンと高い音を立てながらガラケーを畳んで机の上に放り投げる。濡れた髪をかき回し、ぐちゃぐちゃな髪のまままたベッドに倒れこんだ。
喧騒に包まれる休み時間にガラケーをポチポチ操作しながら、横目に廊下を見ると、みーくんの姿が目に入った。慌てて立ち上がりみーくんを追いかける。渡り廊下へと入っていくので声をかけようとしたが、すぐに手を口にあてて声を殺した。
「先輩!これもらっていいんですか!」
みーくんの先から陽気な女の子の声が聞こえたからだ。この甘く甲高い声はみーくんの部活の後輩だ。分かっている、分かっているのに、その場を見てられなくなって渡り廊下に繋がる扉に姿が見えないように隠れてしまう。
「いいんだよ、折角作ったのに聞いてもらえないのは悲しいから」
みーくんの言葉に胸が痛くなって俯く。
「あっ、ミークの曲とか入っているんですね、楽しみ」
「ミークは歌詞がいいからさー」
後輩との会話が耳障りに聞こえ、振り切るように頭を搔きむしる。
「みーくんはミークが好き...。私が少しでもミークを聞けてたら...CDを...」
思いがこみ上げればこみ上げるほど目頭が熱くなり、堪えきれなくなりそうでその場を後にした。
あれから数日経ち、みーくんに呼ばれて彼の部屋にいた。彼と一緒にいるのは楽しい時間のはずなのに、彼の部屋までの足取りは重く、たどり着いて彼と話していても上唇が重たくて言葉がうまく出ない。私に追い打ちをかけるかのように、彼の部屋にあるミークのアルバムやポスターが視界に入って、目を背けたくなる。
「んでさー、この前、決め台詞の時に噛んじゃってさー、部活の時、しこたま活舌の練習させられて舌が擦り切れそうになったんよね、らしくねーよなー、だっさいわ」
彼はベッドの上に立ち、身振り手振りで部活の時の話を伝えてくれているのに上の空で、ベッドに腰掛ける私はボソボソと相槌をうつだけ。音楽が好きな彼があえて話題を避けているのだろうか、そう考えるとどんどん表情は曇るばかりだった。
「ろー、どうしたの、泣きそうになって。お、俺そんな悲しい話したっけ」
堪えていた涙が目尻から零れて耐えきれなかった。涙を遮るようにキュッと目をつむり、ゆっくりと瞼をあけてぼやける彼にようやく口を開いた。
「だって、私のせいじゃん」
「そんなことない、ただ、部活の時の話を聞いてほしかっただけで。ってか、今日なんか変だよ、どうしたのさ、ろーらしくないじゃん」
頭を目一杯振り、彼の言葉を遮る。
「らしいって何。それならみーくんだってらしくないじゃん。いつも音楽の話をするじゃん」
言葉が出た後、目を少し大きくしたのと同時に口を手で覆い、ぼやけた彼から視線を外す。
「それはろーが…」
彼が大きく声を荒げたと思いきや私の後ろに座り、そっと優しい手が俯く私の頭の上に添えられる。
「それはろーが嫌がるのかなって。CDも受け取ってくれなかったし」
抑えてた口元の手から力が抜けて、必死に堪えてた瞼が決壊して大粒の涙がベッドを濡らす。
「どうしたら、みーくんと楽しくアーティストの話ができるの。ミークの話が好きなのは分かるけど、私にはしてあげられない」
彼は私の頭の上の手をそっと降ろして、後ろから抱き着くように手を回した。
「そっか、スタボーン大好きだもんな。ちょっと待ってな」
彼はベッドから降りて机の上にあったウォークマンを取り、私の傍に座りなおす。
「ろー」
優しい彼の声に顔を上げると耳にそっとイヤホンをつけられる。
「なんでもいいから少し聞いてみてよ」
泣きじゃくって振り払う力もなく、ただただミークの音楽が聞こえる。
「…やっぱり…もっと激しいのがいい」
「ははは、ろーらしいや。もっと激しいってギターとかドラムが?」
彼が笑いながら私が投げ出す感想を丁寧に拾い上げてくれる。一曲が終わると彼はウォークマンを操作して”スタボーン”と表示された画面を見せる。
「ほら、スタボーンの激しいやつ。これくらいないとダメ?」
私はこくりと頷くと彼も頷きながら曲を聞いている。いつしか大粒の涙は止まって、ぼやけた彼がしっかりと見える。
「そりゃ歌詞を聞かせたいミークには合わないなー。スタボーンは激しい音をぶつけるこの感じがいいからこれでいいと思うけどさー」
彼の言葉に一粒の涙が頬を伝う。彼はそれを見て慌てて声をかける。
「あ、あれ、なんか俺した…?」
今度は優しくゆっくり頭を振り、目尻を下げる。
「ううん、みーくんが聞いてくれて、同じ話題を話せたのが嬉しかったから」
「そっか、ほら、次はミークのオススメなんだけどさ、聞いてよー」
私は小さくもしっかりと頷くと、みーくんは微笑んで立ち上がって、CDラジカセの再生ボタンを押した。
―手を伸ばす冒険心よりも
手を振り払われる恐怖心で
心を強張らせていたんだね
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