91 / 93
ソフィアの覚悟
しおりを挟む
ガハリエが消滅して、急にホッとした。
背中を後ろの体に預けた。
「よく頑張ったな」
「うん……クリスは辛くない? 体もだけど心も……」
彼の育ての親を殺したのだ。いくら最低で最悪な男でも、あの男の正体がばれるまでは慕っていた。
私が言わんとしたことに察しがついたようだ。
「辛くはないと言えば嘘になるな。あれでも俺の育ての親だ。だがこれで良かったと思う。あの人は狂ってしまっていた。そうなれば誰かが止めねばならぬ」
ガハリエがどうしてあれほど屈折した精神だったのかは分からない。
元々のああなのか、それとも後天的になのか。
だけどそれを今さら気にしても仕方がない。
「そうだ! 魔女の刻印はどうなった!」
「えっと……うん、少しずつ薄れている……かな?」
たぶんしばらくしたら魔女の力と一緒に消え去るはずだ。
私を助けてくれた魔女達もそうなのかと辺りを探したが、もうすでに見えなくなっていた。
おそらくはこれからの厄介事から逃げるためだろう。
「ソフィア様!」
セリーヌがこちらへ手を振っている。私達は一度降りるため、彼女の元へと向かった。
久々の地面へとたどり着き、降りようとするとクリストフが私を抱えて降りてくれた。
地面に立つと、人影が急接近するように気付いた。
「ソフィアさん!」
「ふげっ!」
すると横から体当たりかのように抱きつかれて一緒に転んだ。
「ブリジット……さん? よかった無事で」
すると目にいっぱい涙をため込んだブリジットが叱リ出す。
「それはこっちのセリフですわ! もう大丈夫ですの! 無茶ばかりして……。これで魔女じゃなくなったんですか!」
「はい……もう違いますよ」
するとブリジットは目一杯涙を流して喜んでくれた。彼女も未来では悲惨な最期を迎えたが今回はそんなことにならずに全てが終わった。
お父様も遅れてやってきて、私を抱きしめてくれた。
「よかった……もう魔女の力は全て消えたのだな!」
「はい……ご心配をおかけしました」
「気にするな! はは、それなら家に帰ったら宴だ! クリストフ君も来たまえ! ははは!」
上機嫌なお父様にちょっとだけほっこりする。
お父様の腕から離れて、チラリとクリストフを見た。私は彼とは逆の方へ歩き出す。
「ソフィー?」
不思議な顔をする彼を無視して、ヒューゴ司祭の元へと向かった。
「もういいのだな?」
「はい……」
ヒューゴは確認を終えると、号令を出す。
すると一斉に神官達が私と皆の間に壁を作った。
「神官達よ! 魔女であった、罪人ソフィア・ベアグルントを護送する! これは教王の命令だ!」
神官達も驚きはあるようだが、教王の指示ということで命令を遂行しようとする。
「どういうことだ! ソフィーはもう魔女ではない! ヒューゴ司祭! 何をするつもりだ!」
やっと全てが終わって安堵してからの絶望にクリストフは理解が追いつけていないようだった。
「言ったはずだ、教王の命令だと。彼女が魔女であったことはこの場にいる皆が見た。魔女の最後がどうなるのか知らないわけではないだろ?」
ヒューゴは異端審問をする立場であり、その任務を遂行しようとするだけだ。
だがそんなことで納得する彼ではなかった。
「馬鹿な! あの男が死ねば魔女の脅威はなくなる! それが分かっていてどうしてソフィーを殺さないといけない!」
「魔女の力が無くなったとどうやって証明する? また時間が経ったら復活するかもしれない。絶対に安全という保証が無いのに、化け物を野放しにするわけがないだろ」
激高するクリストフに冷静な言葉を返すヒューゴ。
さらにクリストフを擁護する声もある。
ブリジットも反論する。
「ですが、ソフィアさんのお力で災厄は退けられたはずです。それなのにその功績も与えずに、彼女を極刑にするのが、彼の国のやり方ですか!」
ブリジットの言葉に多くの騎士達が賛同する。
だがそれを吐き捨てる。
「勘違いをするな、小国の令嬢が口を挟んでいい問題ではない。教王の命令は全てに優先される。もし刃向かうのなら、こんな小さい国なんぞすぐさま滅ぼすこともできる。自分の責任で祖国を滅ぼしたくなければ分をわきまえたまえ」
強権を用いて皆を黙らせていく。私はヒューゴと供に歩きだすと、後ろが騒がしくなっていた。
「落ち着かれよ!」
「こんなことをしたら貴方様も……」
神官達がバッタバッタと投げ飛ばされていく。
それをする人物は一人しかいない。
「ソフィーを……返せ!」
鬼神のごとく彼は相手をなぎ倒していく。
私を助けるために。
ヒューゴは別の神官達に私を任せる。
「先へ行け。私が食い止める」
私は立ち止まることなく歩き続ける。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえても止まることなく、歩き出した。
そして三日後に私の公開処刑が決まった。
背中を後ろの体に預けた。
「よく頑張ったな」
「うん……クリスは辛くない? 体もだけど心も……」
彼の育ての親を殺したのだ。いくら最低で最悪な男でも、あの男の正体がばれるまでは慕っていた。
私が言わんとしたことに察しがついたようだ。
「辛くはないと言えば嘘になるな。あれでも俺の育ての親だ。だがこれで良かったと思う。あの人は狂ってしまっていた。そうなれば誰かが止めねばならぬ」
ガハリエがどうしてあれほど屈折した精神だったのかは分からない。
元々のああなのか、それとも後天的になのか。
だけどそれを今さら気にしても仕方がない。
「そうだ! 魔女の刻印はどうなった!」
「えっと……うん、少しずつ薄れている……かな?」
たぶんしばらくしたら魔女の力と一緒に消え去るはずだ。
私を助けてくれた魔女達もそうなのかと辺りを探したが、もうすでに見えなくなっていた。
おそらくはこれからの厄介事から逃げるためだろう。
「ソフィア様!」
セリーヌがこちらへ手を振っている。私達は一度降りるため、彼女の元へと向かった。
久々の地面へとたどり着き、降りようとするとクリストフが私を抱えて降りてくれた。
地面に立つと、人影が急接近するように気付いた。
「ソフィアさん!」
「ふげっ!」
すると横から体当たりかのように抱きつかれて一緒に転んだ。
「ブリジット……さん? よかった無事で」
すると目にいっぱい涙をため込んだブリジットが叱リ出す。
「それはこっちのセリフですわ! もう大丈夫ですの! 無茶ばかりして……。これで魔女じゃなくなったんですか!」
「はい……もう違いますよ」
するとブリジットは目一杯涙を流して喜んでくれた。彼女も未来では悲惨な最期を迎えたが今回はそんなことにならずに全てが終わった。
お父様も遅れてやってきて、私を抱きしめてくれた。
「よかった……もう魔女の力は全て消えたのだな!」
「はい……ご心配をおかけしました」
「気にするな! はは、それなら家に帰ったら宴だ! クリストフ君も来たまえ! ははは!」
上機嫌なお父様にちょっとだけほっこりする。
お父様の腕から離れて、チラリとクリストフを見た。私は彼とは逆の方へ歩き出す。
「ソフィー?」
不思議な顔をする彼を無視して、ヒューゴ司祭の元へと向かった。
「もういいのだな?」
「はい……」
ヒューゴは確認を終えると、号令を出す。
すると一斉に神官達が私と皆の間に壁を作った。
「神官達よ! 魔女であった、罪人ソフィア・ベアグルントを護送する! これは教王の命令だ!」
神官達も驚きはあるようだが、教王の指示ということで命令を遂行しようとする。
「どういうことだ! ソフィーはもう魔女ではない! ヒューゴ司祭! 何をするつもりだ!」
やっと全てが終わって安堵してからの絶望にクリストフは理解が追いつけていないようだった。
「言ったはずだ、教王の命令だと。彼女が魔女であったことはこの場にいる皆が見た。魔女の最後がどうなるのか知らないわけではないだろ?」
ヒューゴは異端審問をする立場であり、その任務を遂行しようとするだけだ。
だがそんなことで納得する彼ではなかった。
「馬鹿な! あの男が死ねば魔女の脅威はなくなる! それが分かっていてどうしてソフィーを殺さないといけない!」
「魔女の力が無くなったとどうやって証明する? また時間が経ったら復活するかもしれない。絶対に安全という保証が無いのに、化け物を野放しにするわけがないだろ」
激高するクリストフに冷静な言葉を返すヒューゴ。
さらにクリストフを擁護する声もある。
ブリジットも反論する。
「ですが、ソフィアさんのお力で災厄は退けられたはずです。それなのにその功績も与えずに、彼女を極刑にするのが、彼の国のやり方ですか!」
ブリジットの言葉に多くの騎士達が賛同する。
だがそれを吐き捨てる。
「勘違いをするな、小国の令嬢が口を挟んでいい問題ではない。教王の命令は全てに優先される。もし刃向かうのなら、こんな小さい国なんぞすぐさま滅ぼすこともできる。自分の責任で祖国を滅ぼしたくなければ分をわきまえたまえ」
強権を用いて皆を黙らせていく。私はヒューゴと供に歩きだすと、後ろが騒がしくなっていた。
「落ち着かれよ!」
「こんなことをしたら貴方様も……」
神官達がバッタバッタと投げ飛ばされていく。
それをする人物は一人しかいない。
「ソフィーを……返せ!」
鬼神のごとく彼は相手をなぎ倒していく。
私を助けるために。
ヒューゴは別の神官達に私を任せる。
「先へ行け。私が食い止める」
私は立ち止まることなく歩き続ける。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえても止まることなく、歩き出した。
そして三日後に私の公開処刑が決まった。
10
お気に入りに追加
1,287
あなたにおすすめの小説
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ
クレハ
恋愛
ユウナには婚約者であるジュードがいるが、ジュードはいつも幼馴染みであるアリアを優先している。
体の弱いアリアが体調を崩したからという理由でデートをすっぽかされたことは数えきれない。それに不満を漏らそうものなら逆に怒られるという理不尽さ。
家が決めたこの婚約だったが、結婚してもこんな日常が繰り返されてしまうのかと不安を感じてきた頃、隣国に留学していた兄が帰ってきた。
それによりユウナの運命は変わっていく。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる