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4章 友達はいかがでしょうか

24 呪いの村 エマ視点②

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 私とシリウス様はフーガ族と呼ばれる謎の集団に捕まり、馬車に乗せられて連れて行かれた。


「この子は解放しろ。国の事とは関係がない」
「死にたくないなら黙ってろ!」

 シリウス様が私を守るように相手に交渉するが、聞く耳を持ってくれなかった。
 よく分からない洞穴の中に連れ込まれ、どんどん奥へ連れて行かれる。
 通路のわきに座り込んでいる者がおり、私たちをチラッと見ると急に殺気立った。

「ブルスタットの王子……」
「落ち着け! 人質に何かしたら俺たちもタダでは済まん!」

 リーダー格の男に言われ、渋々とまた壁に背中を預けてこちらを睨んでいた。
 そして奥の小部屋に入れられ、鉄格子の中へと閉じ込められた。

「しばらくはここにいるんだ。飯は出してやる」

 そう言って私たちは置き去りになった。
 四方を鉄格子に囲まれているため逃げようがなく時間だけが過ぎていく。

「すまない。国のことに君を巻き込んでしまって……」

 シリウス様が私へ謝罪をする。
 しかし人質を取ったのは、フーガ族であるためシリウス様が悪いわけではなかった。

「私なんかに謝らないでください。それよりもあの人たちはなんですか?」
「彼らはフーガ族。父上が帝国との戦争中に食糧の備蓄を増やすため、彼らの土地を奪って王族で管理出来るようにしたんだ。俺たちへの憎悪は計り知れないだろう」


 土地を奪われてしまったのなら恨まれるのも理解できる。
 このままだと生きて帰れないかもしれないが、この場にいるのがカナリア様ではなく自分でよかったと思えた。
 ただし、シリウス様も大事なカナリア様のパートナーであるため、この方だけでも逃さないといけない。
 しかし今は脱出しようがないため、悩むだけで気が滅入るだけだ。


「せっかくなので先ほどのカナリア様のお話でもいかがですか?」


 まるで子犬のようにシリウス様が聞きたそうな顔になった。
 私は自分の子供時代の話から始めた。

 ~~☆☆~~

 私は両親の顔を知らずに教会の中の孤児院で育った。
 貧乏な孤児院だけどみんなで助け合っていくのはとても楽しく、孤児院育ちでも比較的満ち足りた生活だった。
 だけど私が七つを迎える頃には状況は一変した。

「シスター、ご飯これだけ?」

 小さな子供が不満気につぶやいた。
 シスターも申し訳なさそうな顔は、つぶやいた子供も悪いことを言ったと自覚してしまうほどだ。
 帝国が他国を侵略して領地を増やしている最中であったため、国は潤いを始めたが、その代わり教会への寄付金が少なくなっていたのだ。
 私たちも生きるために農作業に従事したが、それでも賄えるものではなく、さらにはどんどん親無し子も増えて、貧困が拡大していくのだった。
 お使いで教会の外に出たある日、裕福そうな年上の子供達に絡まれたのだ。

「親無しどもが表に出るなよ!」
「もしここを通りたいなら通行料な!」


 遊び半分でやっているのは分かっているが、それでも年上相手に強く出られるほど私は強くなかった。
 私は震えながらもお願いをした。

「あの……みんながお腹を空かせているんです……だから──」
「だから金出せば通すって言ってるんだろ!」

 ドンっと体を押されて私は倒れた。
 ズキっと手に痛みが走り、捻挫をしたとすぐに分かった。
 さらに持っていたお金がバラバラとこぼれた。

「おっ、金持ってるんじゃん。いただき!」

 私たちのお金を奪おうとするので慌ててズボンの裾を掴んで止めた。

「それは大事なお金なの! 服とかならあげるから!」
「はっ、いらねえよ! 汚ねえんだよ、お前らは!」


 鬱陶しかったのか私を殴ろうと腕を上げた。
 私は目を瞑って痛みに備えようとした時に彼女がやってきた。

「やめなさい!」


 突然遠くから声が響く。
 そこには綺麗なドレスを着た赤い髪の女性が立っていた。

「なんだよ、女かよ。知らねえのか、俺は由緒正しい──」
「待て! あの馬車の家紋はノートメアシュトラーセ家だぞ!」
「伯爵家じゃねえか!? っち、逃げるぞ、お前ら!」


 よく分からないうちに男達は貴族の女の子を見ただけで逃げていった。
 私は慌ててお金をかき集めて懐に戻した。
 ズキっと手が痛むが、あまりここに長く居たくない。

「貴女、怪我しているでしょ?」

 気付けば近くまで貴族の女の子が来ていた。
 従者と思われる大人の人が「カナリア様、無闇に平民の方に関わってはいけません」とカナリア様を遠ざけようとした。
 すると逆に従者を叱りつけた。

「何を言ってますの! 先ほどのは貴族だったでしょ! 貴族が民の模範とならずにどうしますか!」

 子供とは思えない胆力を見せつけられ、私は呆然としていると彼女は近くの枝を拾って、綺麗な刺繍の入ったハンカチで私の手を固定してくれた。

「なかなか見様見真似では上手くいきませんわね。どうですか、動かせます?」
「は、はい……」
「ごめんなさいね。貴族があのようなことをして……お家まで送るわ」

 優しい笑顔を向けられ、同性なのに思わずドキッとしてしまうほど綺麗だった。
 しかし私はこれ以上の面倒ごとは嫌だったので慌てて断る。

「だ、大丈夫です!」

 急いで私は逃げるように彼女から離れていくのだった。

「ハンカチ貰ったままになっちゃった」

 高価なハンカチを返せず日々が過ぎていくと、あるときシスターたちが嬉しそうに新しい寄付をしてくれる人が見つかったと喜んでいた。
 太っ腹なお貴族様に感謝していると、なんと教会を演奏場にして、集客で集まったお金も全て寄付してくれるらしい。

「みんな、貴族様が演奏をされますので、綺麗にしましょうね」
「「はーい!」」

 シスターたちと共に教会を綺麗にして、当日を楽しみにしていると、これまで参拝に来るのも一日に数人がほとんどだったのに、教会いっぱいに人が集まって驚いた。
 私たちは邪魔にならないように物陰に隠れて観る。

「すごい……あの人たちがみんな寄付してくれるの?」
「こら、エマ! 失礼ですよ」

 楽器の演奏なんてこれまで聞いたことがなかったので、私はすごく楽しみにしていると楽器を持って現れたのは、前に私を助けてくれたカナリア様だった。
 あんな小さな女の子の演奏を聴くためにわざわざこれほどの人数が集まることに驚いた。

「皆様、本日はご参加くださりありがとう存じます。今はまだ大変な時期ではありますが、人と人とが助け合わないといけない状況だからこそ、最高神への祈りと民達への感謝を忘れないようにしたいと思います。ささやかではありますが、わたくしの演奏で一時の休息を取っていただけますと幸いです。もし余裕のある方達は慈悲の心を民達へ向けてくださいませ」


 堂々とした挨拶と共にカナリア様の演奏が始まった。
 とても綺麗な音が教会を包み込み、音楽に縁のなかった私たちも食い入るようにずっと聴いた。

 ──あれがお貴族様……。

 長くて短い演奏は終わり、私たちは寄付金の箱を持って立っていると、たくさんのお金持ちたちがお金を落としてくれた。
 これまで見たことがないほどのお金が集まり、シスターたちも喜んでいる。

「カナリア様、本日はご演奏ありがとうございます」
「いいえ、今はまだ貴女達に苦労を掛けてますが、もうしばらく辛抱してください」


 シスターがカナリア様へお礼を述べていたので私も後ろからコソッと近づいた。
 するとカナリア様も私に気が付いた。

「あら? 貴女はこの前の……ここがお家でしたのね」
「あ、あの! これ、ありがとうございました!」

 私は前に借りたハンカチを彼女に返そうと差し出した。
 もしかすると私が洗ったことを嫌がるかと思ったが、彼女は笑って「まあ、洗ってくださったのですね。ありがとうございます」と言ってくれた。

「あ、あの……私を働かせてくれませんか! も、もちろんお金はいりませんから!」
「こ、こら! 申し訳ございません、カナリア様。先ほどの演奏に感激したみたいでして……エマ、下がっていなさい!」


 思わず口から出てしまったため、シスターも困ったような顔をする。
 だがカナリア様は一瞬だけ驚くだけで頷いた。

「ええ、いいわよ」
「ほ、本当ですか!」
「ただし、しっかり教育はしますわよ」
「も、もちろんです! なんでもします!」
「それとお金も出しますので、ぜひ民達の声を教えてください。私たちでは拾えない声が多過ぎますので」

 カナリア様から許しをもらい、私は早速とメイドとして働かせもらった。
 やはり最初は孤児院育ちということもあって、怪訝な顔をされることは多かったが、その度にカナリア様が庇ってくださり、私も仕事を覚えるごとにどんどん周りと打ち解けていった。
 またある日。

「カナリア様、次は何をなさるのですか?」
「そうね。商人たちと打ち合わせの場を設けて、何か変えられるところがないかを聞いてみましょうか。もしかするともっと流通も良くなって、交易も盛んになるかもしれませんし。それを皇帝陛下に進言してみますわ」

 手広くカナリア様は事業をやりながら、学生としても涼しげな顔で品格を保っていた。
 あるとき、私を見たお貴族様が軽蔑した目を向けて、侮辱の言葉を残した時でも守ってくれた。

「平民、平民と言いますが、この子はノートメアシュトラーセ家お抱えのメイドよ。それはわたくしに対して侮辱していると知りなさい!」
「し、失礼しました!」


 年上の男性であろうともカナリア様は臆することなく常にズバズバと言ってくれた。
 だが今回は珍しく私に対して少し怒っていた。

「貴女も貴女よ。また黙って受け入れようとして……」
「申し訳ございません。カナリア様のお手を煩わせてしまって──」
「違うわよ。貴女は私のメイドなんだからもっと堂々としなさい。それはカナリア様への侮辱ということでよろしいですか?って強気に言いなさい。あとは私がなんとかしてあげますから」

 そう言ってカナリア様は私の手を引いて「さあ、お部屋に帰りましょう」と元の優しい笑顔に戻っていた。
 孤児院も前の貧困が嘘のように元の生活に戻り、私も幸せな日々を送った。


 ~~☆☆~~

 黙って聞いていたシリウス様は目を瞬く。

「すごいな、カナリアは。父上の誕生祭で他の令嬢達を味方にしたのが、商人たちを使った方法と聞いてびっくりしたが、前々から友好があったのか」
「はい。カナリア様は平民から人気が高かったですから。だからこそ次期皇后として相応しい方でしたのに、あのように国から追い出されてしまって……」


 もしシリウス様からの話の通りに旦那様の罪が全て冤罪だったら、カナリア様があまりおいたわしい。

「そんなカナリアをこれ以上不幸には出来んな」

 シリウス様は呟き、私が目を向けると人差し指を口に当てて、静かにするように伝えた。
 ちょうど私たちの食事を持ってきた者が、鉄格子の隙間からトレーごと食事を入れようと腕を伸ばしたときに、シリウス様はその腕を掴んで思いっきり引っ張った。

「ぐへっ!」

 男は気絶して、腰に付いている鍵と剣を奪った

「逃げよう」
「は、はい!」


 すぐさま脱出して、私たちは廊下を走る。
 すると後ろから声が聞こえた。

「だ、脱走だ! 第二王子が脱走している!」


 カンカンと音が鳴り響き、洞窟内で反響する。
 するとわらわらとフーガ族たちが武器を持って現れてくる。
 なるべく戦わずに逃げたが、道の分からない私たちは上手く行き止まりの広間に誘い込まれてしまった。
 リーダー格の男が前に出た。

「シリウス様、あまりお怪我はさせたくありません。我らの土地が解放されたら無事にお届けしましょう。もし聞き入れてもらえないのでしたら──」

 男が手を挙げると、フーガ族の者達が得物の刃で威圧してくる。

「それとも大事な婚約者を亡くせば黙りますかな」

 たくさんの男達が私を狙って歩き出した。
 その時──。

 バゴーッンと大きな音が響くと辺り一体に煙が舞った。

「な、なんだ! 何が起きた!」
「わ、分かりません! 何も見えない──」
「落ち着け! 煙が晴れるまで動くな!」


 何が何だか分からず、私とシリウス様は近くの壁まで退避した。
 その時に凛とした声が響き渡る。

「どこの誰かしら。カナリア・ノートメアシュトラーセの大事なメイドに手を出そうとした大馬鹿者は?」

 ──この声は!?

 出口の方から次第に煙がなくなり、その姿が見えた。
 そこには堂々とした私の主がいた。

「このわたくしを敵に回すのでしたら覚悟しなさい。帝国の淑女は男性だろうとも遠慮しないわよ」
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