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4章 友達はいかがでしょうか

20 破天荒なおもてなし

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 ブルスタット王の誕生祭で、太陽神の試練を受けることになった。
 太陽神は特に努力を重んじる神様であるため、国王から課せられた試練を突破すると、乗り越えた試練によって褒美を貰えるのだ。
 だが失敗すれば、それ相応の罰が下る。
 私の場合にはまたもや婚約破棄となり、自国へ送還されるでだろう。
 そうなれば私は役目を果たせなかったということで、処刑される可能性が高い。
 絶対に失敗できないという緊張を持ちながら、エーデルハウプトシュタット領の呪いを解くために私は馬車で向かっていた。

「全く、無茶をするよ」


 一緒の馬車に乗っているシリウスが向かい側の席でため息を吐いた。

「ごめんなさい。シリウス様にご相談もなく勝手にしてしまいました……」
「別に怒っていない。俺もカナリアには伝えていなかったことが多かったからね。でも一番驚いたのは、太陽神の試練なんてカナリアが知っていたことだ」
「一応は勉強しましたので……でも改宗してすぐに試練に挑むのは少し生意気でしたと反省してます」


 本来なら何かしらの順序があったはずだ。
 しかし国王の病気も悪化しているため、早く治療に取り掛からないと後遺症が残ってしまう恐れがあった。
 急ぎすぎたことを反省した。
 だがシリウスは、息を噴き出して笑っていた。

「何を言っている。逆に太陽神の試練を受けるほど勇気ある者なんて、数世代ぶりくらいだよ」
「そ、そうなのですか?」
「当たり前だ。試練を達成すれば望む報酬が貰えても、失敗した罰が大きすぎて誰もやりたがらないよ。それを他国出身のカナリアがしたもんだから、会場もどよめいていただろ?」


 会場が騒がしくなったのは、てっきり無謀な私に対する怒りの声だと思ってました。
 ただもうやってしまったのは仕方がない。
 私は出来る限りのことをするだけだ。

「あの……」

 私の隣に座っているエマが恐る恐る手を挙げた。
 シリウスが「どうしたんだい?」と聞き、エマはずっと溜め込んでいた質問をする。


「カナリア様のお父様、ノートメアシュトラーセ伯爵が無実と伺ったのですが本当なのでしょうか!」


 私もずっと聞きたかったことだったが、エーデルハウプトシュタット領の呪いの件で頭がいっぱいになって聞きそびれていた。


「おそらくは……まだ完全な証拠が出たわけではないからね。母上もずっと否定されて離宮で監禁されている」
「そうだったのですね……ですが、確か太陽神は最高神以上に不貞行為に関しては厳しいのではないのですか?」


 太陽神は厳しい土地の神であるため、人の業にはかなり厳しい。
 結婚しているのに別の者と関係を持てば、不貞を犯した者はどちらも死刑になる。
 そして一番驚くべきは、もし無理矢理女性が襲われた場合には、犯罪を犯した者と女性、さらに女性のパートナーも死刑になるのだ。
 男性はもちろんだが、女性が処刑になる理由にはこれ以上辱められないように、またパートナーが処刑になる理由は愛する者を守る努力をしなかった罰として、死後の世界で女性のために尽くさせるためであった。

 そんなところで、シリウスの母親がまだ生きていることに驚いた。

「本来は母上は処刑されるはずだっただろう。本来は死罪となるが、一つだけ罪人になった者にも権利がある。自分は無実だという主張する権利がね」
「そうしますと、お義母様は否定なさっているのですね」
「ああ。無実を主張した場合には一年間は処刑や不遇な対応をしてはいけない。ただ父上があのように情緒不安定になってしまっている状況では、母上がいつ危険に晒されるか分からない。だから俺が無実を証明するまでは離宮に住んでもらっているんだ」


 少しだけホッとした。
 私のお父様はもうすでに処刑されてこの世にいないが、シリウスのお母様はまだ生きている。
 これ以上の犠牲者が出てほしくない。


「ところでこの件の黒幕はどなただと考えているのですか?」
「候補として上がっているのは帝国のガストン伯爵だ」


 この前、国王の誕生祭に来ていた帝国の伯爵だ。
 私達一家を疎ましく思っていたはずだから可能性はある。
 今すぐにでも父の無実を証明したい。

「だが確実な証拠が出てこない以上はまだ捕まえることができない。今は時を待つんだ」
「はい……」


 また怒りが再熱しそうになった時に隣に座るエマが私の手を包んでくれた。

「大丈夫ですよ。すぐに無実だと分かってくれます。旦那様がそのようなことをするとは思えませんでしたもの」
「エマ……そうよね、お父様がそのようなことをなさるわけがないわ」


 エマに勇気付けられていると、シリウスもまた私に微笑みかけた。

「少しでも情報が出ればすぐに共有する……ただし、あまり情報を広めないでほしい。一応、この問題に関しては終わったことになっている。俺が調べていることを知られて、相手も本気で証拠を隠滅させられたらどうしようもないからね」
「分かりました。どうかよろしくお願いいたします」

 今の私に出来ることは何もない。
 とりあえずこの国での信頼を勝ち取って、これ以上私の家名の名誉を汚さないことが第一だ。


 エーデルハウプトシュタットに到着すると、すぐさまエーデルハウプトシュタット子爵の屋敷で招待を受けた。
 屋敷の前に馬車を止めると、出迎えてくれたのはエーデルハウプトシュタット夫婦だった。


「シリウス様、カナリア様、本日はよくぞお越しくださいました」
「エーデルハウプトシュタット殿もお招き頂き、ありがとうございます」

 シリウスが先に挨拶を返したので、私も挨拶をする。

「カナリア・ノートメアシュトラーセです。奥様とは先日お会いしたばかりでしたが、エーデルハウプトシュタット子爵ともお会いするのを楽しみしていました」


 先日の話をすると二人は少し顔色が悪くなった。
 おそらくは二人の娘のことを思い浮かべたのだろう。

 ──この前の元気な子はいないのね。

 勢いよく挨拶にやってきた、ヴィヴィアンヌという少女はこの場にはいなかった。
 歳も同じと言っていたので、少しだけおしゃべりを期待している。
 しばらくはここに滞在するので焦らなくてもいいだろうと考えていると、遠くから騒がしい音が聞こえてきた。


「お、お嬢様! 本日はダメだと──」
「退きなさい!」


 馬が加速しながら使用人達の間を駆け抜けていた。
 急な騒ぎに私たちは固まってしまう。


「ヴィヴィ! どうやって倉庫から出たんだ!?」


 エーデルハウプトシュタット子爵が頭を抱えている。
 自分の娘を倉庫に閉じ込めるのは、おそらくは彼女の破天荒さのせいであろうことは予測できる。
 しかし彼女の馬はこちらへ走ってきていないだろうか?


「お二人とも離れてください! ここは危ない!」


 エーデルハウプトシュタット子爵に促され、みんなと距離を取った。
 するとヴィヴィアンヌの馬は私目掛けて方向を変えた。


「カナリア様、掴まって!」
「えっ……ええ!?」


 私は戸惑っている間に距離を詰められ、彼女の腕に抱き抱えられて掴まった。

「お父様! カナリア様を案内してきますわ!」
「ヴィヴィ! 待たんかぁあああ!」

 父親の声を聞いても全く聞こえていないかのようにどんどん加速する。
 後ろで聞こえるシリウスとエマが叫んでいる声も遠ざかっていく。

 ──えっと、えええ──ッ!?

 私は生まれて初めて、馬に荷物のように乗せられたのだった。


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