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最終章 希望を託されし女神

人は彼女を女神と呼ぶ

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 ラケシスが連れてきたであろう人々の多さにびっくりする。

「姫さまのために姫さまを崇拝する信者を集めました!」


 建物の上や道にたくさんの平民が詰めかけている。
 その他にも見知った貴族たちも集まっている。
 その一人がわたしの友達であるカナリアだ。

「マリアお姉さま! シスターズも勢揃いしています!」


 カナリアの言う通りシスターズが集まってくれている。
 どうやらラケシスが今日のために召集してくれたようだ。
 辺り一体に国中の民が集まってくれている。

「皆さん、これから我らの女神があの邪神を打ち滅ぼします! 女神に祈りを捧げなさい!」

 全員が一斉に祈ると光が溢れてくる。

「これって……」

 時々起こる不思議な現象だ。
 だがこれで分かった。
 これはみんなの想いがわたしと一つになった時に生じているのだ。

 ……ならわたしがすべきことは一つだけだ。

「下僕、最後よ。わたしがみんなの想いをまとめます。その間、あいつを足止めしなさい」
「もちろんです。みんなで帰りましょう」


 下僕は騎獣で飛び上がり、アンラマンユに挑む。

「もう一人蒼の髪がおったか。しかし、お前は偽物だな?」
「ああ、偽物さ。お前と同じな」
「生意気な口を開くな」

 アンラマンユは光で固定されながらも、首だけ動かして炎をブレスを放った。
 下僕は魔力の膜を広げて全て受け止める。

「がぁああああ!」

 急激な魔力の消費に下僕の体が悲鳴を上げる。
 腰のポーチから急いで、魔力回復の瓶を飲み干す。


「虫けらが! くたばれ!」


 下僕が死ぬ気で防いでくれる。
 わたしはこの光を集めるために踊りを舞った。
 最初はゆっくりとした動きから、よく知る音を思い出しながら始めていく。
 焦る気持ちがリズムを早めないように気を配った。
 全ての国民から微量の魔力を使う。
 貴族や平民の奥底にあるものだ。
 しかし流石にわたしもこれほどの人数でやったことがない。
 どんどん体が重くなっていく。
 おそらく、人数が多いのでわたし自身が支えるのが難しいのだ。

「わたしもお手伝いします」

 アリアの歌が響き渡った。
 初めて聞く彼女の歌声はまるで大地のさえずりのようだった。
 光を集めるのが楽になっていく。
 彼女も光の髪を持つのら二人なら操ればいい。
 その時、新たな祝詞が頭の中に浮かび上がってくる。
 全く知らない祝詞だが、その神だけは知っている。
 この国に伝わる伝説の剣神だ。
 全ての願いを捧げる。

「剣神エステルは魔を討ち亡ぼす担い手なり。数多の困難を乗り越えし者たちへ力をお貸しくださる存在なり。その担い手は慈愛と共に剣を持ち、立ち向かう者たちと共にその剣を振るう。剣神に敗北はなし。振るわれるその一撃は誰もが恐れ、尊敬を持ってこう呼ぶ、一騎当千!」

 大気が震えだした。
 わたしたちに力を与えてくれる剣神が地面からゆっくりその巨大な姿を現してくる。
 まるで女神像のような風貌だが、神々しい輝きを剣神が放つ。

「ふざけるなあああ! このようなところで負けてたまるか!」

 アンラマンユは雷の一撃を放とうと目の前に黒い塊を作ろうとする。
 しかし下僕はそんなことを許しはしない。

「ぼくの全魔力だ!」

 下僕は水の刃をアンラマンユにぶつける。
 魔力を使い果たした下僕は地面に落下した。
 魔法を発動させる時間を与えない。
 集まった魔力は集中が切れたことで散り散りになって、もうこちらに反撃する時間はない。

「お前らは我の贄となればいいのだ! 餌は餌らしくただ黙っていればいい!」

 往生際が悪く叫ぶだけの神にわたしからも言い返す。

「いい加減に自分の罪を認めることね。そうやって何もかも思い通りにできていると思っているのが間違いなのよ。わたしの大事な家族や側近、そして領民たちを傷付けてもう許さない。わたしの国ではあんたみたいな女々しい神なんていらないのよ!」

 言いたいことは全て言ってやった。
 お父さま、お母さま、ヨハネそして未来の下僕。
 全ての想いがあったからこそ、ここまで来られた。

「マリア・ジョセフィーヌが命じる。一騎当千の力を持って悪を滅しなさい!」

 剣神エステルの大剣が背中の鞘から抜かれた。
 剣が輝きを放ち、大上段から大きく振り抜いた。
 輝く一閃がアンラマンユの体を真っ二つに切り裂いた。

「ぐおおお」

 勝った。
 みんながそう思った。
 しかし、アンラマンユは最後の力を振り絞っていた。

「我の物にならぬのなら、この国を道連れにするまでだ!」

 アンラマンユは胴体だけで、自身を魔力そのものに変える。
 体が黒い球体となり、全魔力を注ぎ込むつもりだ。
 わたしは周りを見渡したが、剣神を召喚するためにみんなの魔力をかなり消費させた。
 だれも余力はない。

「ごめんなさい、もう魔力が……」

 アリアは自身の無力さに唇を噛むしかできない。
 だがまだわたしは。
 落ちている回復薬がある。
 わたしは走ってそれを拾い上げて、一気に飲み込む。
 少しだけ回復したが、まだまだ足りない。
 しかし、それでもマリアーマーを動かすには十分だ。
 急いでマリアーマーに乗り込もうとした。

「ダメです!」

 下僕の声がわたしを呼び止めた。

「行っちゃダメだ!」

 わたしが何をしようとしているか気付いたようだ。
 だが少し離れた下僕ではわたしを止められない。

「下僕、貴方の名前を見つけられませんでしたね」
「そんなことはどうでもいいです! お願いですから行かないでください!」

 時間がどんどん迫ってきている。
 もう構ってあげる時間はない。

「わたしの代わりにジョセフィーヌを盛り上げてください!」
「します! しますからどうか残ってください!」
「それと、わたしは笑えてますよ」

 言葉は残した。
 彼はわたしの言葉の通り来てくれた。
 ならわたしは最後の仕事をしよう。
 アリアもわたしが何をしようとするか気付いたようで止めようと声を張り上げる。
 マリアーマーに魔力を込めて、空へと上がった。
 全魔力を使って、わたしは空へと上がる。
 このマリアーマーはわたしが魔力を込めれば込めるほど力が増していく。
 マリアーマーの腕を斜め上に上げてアンラマンユを掴み、さらに上へと上がる。

 ……上空に!

 わたしは空へとアンラマンユの胴体を上げていく。
 魔力がもう残り少なく、意識が朦朧としてくる。
 頭は痛くなり始めて、空にいるので空気も少なくもう限界だ。
 もっと高く、もっと高く。
 何かが口に運ばれた、そして意識が少しだけはっきりする。

 ーー今度は守れました。


 その言葉を最後に聞いて、大爆発が起きた。
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