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最終章 希望を託されし女神

ヨハネの真実

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 空から現れた口はまるで竜のものだ。
 しかしそのプレッシャーは黒竜エンペラーを大きく凌駕する。
 おそらくこれがーー。


「闇の神アンラマンユーー」

 わたしが口に出すと、アンラマンユもこちらに興味を持ったようだ。

「蒼い女か。神の遺産がまだ残っているとはな」

 重々しい声にこちらの魂が震えるのを感じる。
 神からの言葉はわたしの意志すら消し飛ばしてしまうほどの力がある。
 必死に精神を持っていかれないように保つ。
 その顎が開いて、命令を下す。

「ヨハネ、何を遊んでいる。早くこの者を殺せ」
「分かっております。すぐにでもーー」

 その時、雷鳴が鳴ると同時に雷がヨハネの腕に落ちた。

「うがぁっ!」

 右腕が焼け焦げてしまい、その痛みに必死で耐えている。
 女性の体にそのようなことをしていいはずがない。
 それにどうして味方を攻撃するのか。

「ちょっと! 何をしているのよ」

 頭にきて思わず敵を庇ってしまう。
 敵であっても、流石に見ていられない横暴さだ。
 ヨハネは腕を抑えて、顔の汗でその痛みの酷さがわかる。

「この女はこちらを裏切ろうとしていただろう? だから神罰を与えた」


 当然のように言っているが、こちらを物としか見ていない発言に腹立たしくなる。

「良いな? これで二度目だ。次はないと知れ」
「は、はい」

 アンラマンユの口は姿を消した。
 またもや残ったのはわたしたちだけだ。

「義姉上!」

 ガーネフが駆け寄ろうとすると、ヨハネが風の魔法を生み出して吹き飛ばす。
 激痛に耐えて、それでも目的を遂行しようとする。

「邪魔をしないで!」

 彼女は必死にこちらまで足を進める。
 これほどの怪我を負ってもそれでも成し遂げたい目的があるのだ。

「同情なんていらない。あるのは復讐だけよ」

 目に憎悪が映し出されている。
 彼女はそれに突き動かされていた。

「復讐ってわたしに?」


 その時、またもや世界が止まった。
 わたしは残る鏡を拾い上げた。
 暗い世界で、アンラマンユと思われる竜とデアハウザーに囲まれている幼きヨハネがいた。
 そして今と同じように両腕が焼け焦げていた。

「いたっ、いたいよ」

 泣き叫ぶ彼女に構ってくれる者はいない。
 ただ神たちは笑っているだけだ。
 デアハウザーは笑いながら話す。

「お前がデビルから我々の存在に気付かなければこのようにならなかった」
「ごめんなさい、誰にも言いませんから」

 必死に懇願するヨハネに神々は嬉しそうだ。
 デアハウザーはヨハネを持ち上げる。

「ならお前は我々のために動け。お前に神と同じ力と腕を治してやる。人間共のレベルを引き上げて、我らへの魔力の貢ぎを増やせ」
「分かりました」

 そこで黒いモヤがヨハネの腕に纏わりつき、怪我が完全に治った。
 しかし心には深い傷が残ったであろう。
 誰からも助けてもらえないあの場所で一人で神と交渉をする。
 そんなのは十歳前後の少女に耐えれるわけがない。

「あ、ありがとうございます。この身を貴方様に捧げます」
「そうだ、あとは蒼の娘を殺せ」
「えっ……」

 わたしのことを言っているのだ。
 だがヨハネは質問をする。

「どうしてマリアさまを?」
「蒼の髪は反逆できるだけの魔力を持つ。この世に残してはならん」


 ヨハネはそこで別案を出す。

「それでしたらもっと成長させてから食べられるのはいかがですか?」

 ヨハネは慎重に言葉を選んで提案した。
 それに神々も興味を示す。

「わたしが彼女に恐怖を教えて、わたしに反抗できないようにします。そうすれば貴方様が望む魔力をたくさん手に入れられるはずです」
「面白い、好きにやってみせろ。我々はお前を見て、人間を裏切る様を愉しんでやろう」

 アンラマンユは消え去り、そして光の神デアハウザーが力を与えた。
 そしてまた時が戻った。

「ヨハネ……貴女はわたしを守ってくれたの?」

 わたしの延命と手紙で成長を手伝う。
 彼女はわたしに何かを期待しているのだ。
 決して敵のためにしたのではないだろう。

「同情なんていらない! 大事なのは結果よ!」

 ヨハネはわたしにも魔法を放つ。
 全開で放つ雷はわたしも魔道具だけでは防げない。
 水の濁流を出してヨハネの攻撃を相殺した。
 今度は本気でわたしを殺そうとしている。
 彼女の行動はおそらく全て意味がある。

「ねえ、ヨハネ。わたしを選びなさい」

 わたしは彼女に提案をする。
 一瞬彼女は喉を鳴らしたが、すぐにこちらを睨んで迷いを消す。

「そんな甘いこと言って倒せる神じゃないのよ! 甘さを捨てなさい! わたしぐらい殺してみせなさいよ!」

 ヨハネは雷をあたり一帯に放つ。
 まるで暴走しているように見えるが、わたしとガーネフは避けている。
 彼女はあれほどの傷を負っても魔法をしっかり制御していた。

「親の仇よ! 大事な騎士の仇よ! 憎悪でわたしを消してみせなさい! それで完成する。マリア・ジョセフィーヌなら、わたしが持っていないものを持っている貴女なら勝てるはずよ!」


 彼女はわたしに覚悟を持たせようとしている。
 全てがそう仕組まれていた。
 彼女は自身を人間の敵にして、ずっと抗う機会を窺っていたのだ。

「マリアさま、どうか義姉上を殺さないでください!」

 ガーネフはわたしに懇願する。
 頭を床に擦り付けて、必死にお願いしてきた。

「ガーネフはどうしてヨハネをそこまで庇うの?」

 額を赤くして、彼は答えた。

「あれほど毎日を必死に生きている方はもっと幸せになるべきです。僕は義姉上を尊敬していますから」

 わたしは彼の言葉を聞いて決意する。
 そしてまた上空から竜の口が現れた。


「性懲りもなく……もうお前は用済みだ」

 アンラマンユは心底がっかりした様子で、ヨハネに雷を落とした。
 腕ではなく、彼女自身へ。

「水の神 オーツェガットは踊り手なり。大海に奇跡を作り給いて、大海に祈りを捧げるものなり。我は生命を与えよう。我は王なり。全てを導こう。己が運命を進むために」


 水で出来た大男がヨハネを救い出した。
 わたしの元まで連れてくる。

「何をするの!」

 ヨハネは暴れて大男から抜け出そうとする。
 すぐに焼け焦げた腕にわたしは水の神の涙を振りかける。

「うぐっ!」

 腕から湯気が立ちこめると、みるみるうちに回復する。
 どうやら後遺症も残らなそうだ。

「邪魔をするな」

 アンラマンユの声が響き渡る。
 その時わたしは完全に頭に血が上ってしまった。

「邪魔ですって?」


 身体中から魔力が駆け巡るのを感じた。
 それを知らないアンラマンユはこちらの神経を逆撫でさせる。

「人間がいくら頑張ろうが所詮は我の贄となるだけだ。我の決定は何よりも優先すべきことだ」

 傲慢な神は当然のように言う。
 だかそんなふざけたことを許すわけがない。

「アンラマンユ!」

 わたしは魔力を全開で使う。
 この神だけは絶対に許さない。



「我は世界に始まりを作りし者、命を与えた者なり。生きとし生きる者は寵愛すべきモノなり。水を作りて、世界へ送ろう。水の神オーツェガットは踊り手なり。大海に奇跡を作り給いて、大海に祈りを捧げるものなり。我は生命を与えよう。我は王なり。全てを導こう。己が運命を進むために」

 今回はわたし一人でこの魔法を発動しないといけない。
 それでもわたしに確信があった。

「小癪な!」

 アンラマンユの雷撃が降り注がれた。
 だがもうわたしの魔法も発動している。
 魔力が水へと変換されて、上から来る雷撃を飲み込むほどの大水がアンラマンユ目掛けて飛んでいく。
 雷は飲み込まれてアンラマンユへわたしの怒りが放たれた。

「ふざ……ける……な」


 空から姿を消して、ギリギリで回避したのだろう。
 だかこの空間を破るには十分なエネルギーで、空を突き破り、隔離されたこの空間を破壊した。
 すると元の世界へと帰還した。
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