245 / 259
最終章 希望を託されし女神
王は静かに時を待つ
しおりを挟む
式が開始する前にわたしは別室で待機する。
首にも絞められた跡が残っているので、秘密裏に治癒の魔法を掛けられる。
治癒をして侍従が部屋から退出してから、ガイアノスは申し訳なさそうに話し出した。
「ドルヴィのことは驚いただろう?」
一度見たことがあったが、それを知っているのは側近だけなので知らないフリをする。
「ええ、まさかドルヴィが魔物なんて……」
「あれは魔物ではない。おれたちが崇める光の神デアハウザーさまだ」
目を見開いて、口に手を当てることで驚きを表現する。
「驚くよな。俺も知ったのは魔法祭の後だ。あの方から魔力を頂いて、お前と並ぶ魔力を手に入れた」
「それはウィリアノスも知っていますの?」
「いいや知らない。あいつは真面目すぎるからな。おそらく上手く扱えないから俺にしたんだろう。まぁ、利用されようがドルヴィになってしまえばこっちのもんよ」
どこか自虐的だが、お互いを利用する関係に満足しているようだ。
「そんなにドルヴィになりたかったの?」
「ああ、ウィリアノスがずっと羨ましかった。勉強もマンネルハイム、そしてお前と結婚できるんだ。妬まないほうが……おい、どうして照れてる」
わたしを急に褒め出したから、正直者だなぁと見る目を変えるところだった。
一度流れを戻そうと咳払いをした。
「それでドルヴィから魔力を授けられたのね」
「ああ、すごい魔力だ。これがあればなんでもできる。俺は初めて自信というものを持った。今日で俺は欲しかったものを全て手に入れられる。さて新しい王の責務として、そろそろ挨拶回りに行ってくる。シルヴィたちも挨拶に来ると思うからここで待機してろ。あのユリとかいう侍従も呼んできてやる」
ガイアノスは部屋を出て行き、その後ユリが入ってきた。
ドルヴィとの話の内容を聞かれたが、彼女を巻き込む訳にはいかないので話を濁した。
しばらくしてから、各領土を治めるシルヴィが護衛騎士を一人だけ連れてやってくる。
あまり聞かせたくない話もあるので、ユリに外で待つようにお願いした。
シルヴィ・スヴァルトアルフも顔に渋面を作ってやってきた。
「おい、マリア・ジョセフィーヌよ」
厳つい顔なのに今日はどこかやつれている。
一体何があったのか。
後ろに立つエルトは苦笑いをしているだけだ。
「おまえ、こいつらを手のひらで転がすために側近たちと結ばせたのか?」
「はひぃ?」
一体何を言っているのか分からない。
エルトを見て説明を求める。
「シルヴィ、前にも言いましたがこれはわたしの意思です。彼女たちは己の忠義を信じている。わたしも同じくそれに倣ったに過ぎません」
「わかった、わかった。もうよいわ。だがマリア・ジョセフィーヌよ。我にとって一番大事なのは自領の民たちだ。ヨハネ・ジョセフィーヌがこちらに圧力を掛けている間は動くことができん。何か出し抜く算段はあるのか?」
どうやらシルヴィ・スヴァルトアルフもこちらの味方をしてくれるようだ。
しかしわたしに情報が入ってこない以上は特に策があるわけではない。
「ありませんが、下僕たちなら必ず何か動いてくれるはずです」
「うむ……噂に聞く限りでは敗北したと聞いているが、まだ結婚式まで時間はある。もし其方へ神の御加護があれば従おう。良いな、エルト」
「それで構いません。こちらの意見をこれほど聞いて頂けただけで感謝の言葉もありません」
その時、ドアの外から聞きたくもない声が聞こえた。
「マリアちゃーん、入ってもいいかしら?」
「はぁーー、いいですよ」
わたしが許可をするとすぐさま入ってきた。
ヨハネだけと思ったらシルヴィ・ゼヌニムも一緒にやってきたようだ。
シルヴィ・ゼヌニムはどこか様子がおかしく、禍々しい雰囲気を感じた。
「しばらくの間にだいぶ耄碌したようだな、シルヴィ・ゼヌニム」
シルヴィ・ゼヌニムは答えずただ睨むだけだ。
アクィエルと同様にうるさいイメージがあったが、今日は静かだと思った。
「あらあら、シルヴィ・スヴァルトアルフもいらしたのですね。シルヴィのお城に全領土の騎士を集結させるなんて、何か面白い行事でもあるのですか?」
「分かっているくせに……聡い女は嫌いではないがお前は別だ。敵に回したくないが元シルヴィ・ジョセフィーヌとは友であったとは思っている」
「ええ、存じております。ですからあまり長居をすると、ドルヴィから疑われますのでそろそろ出られたほうがいいかと」
「ふんっ、ジョセフィーヌの女はみんな気が強いな」
エルトはそれに同意するように頷いた。
シルヴィ・スヴァルトアルフは部屋を出ていく。
残ったヨハネはわたしに対して困った顔を作る。
「もう、駄目じゃない。ドルヴィの正体を知ったのだから、どこで聞き耳を立てているか分からないのよ」
「ご忠告どうも。シルヴィ・ゼヌニムもこの事は知っていると思っていいのよね」
ドルヴィの件は一部の者しか知らない。
それなのにシルヴィ・ゼヌニムの前で話すというのは共犯者だということに他ならない。
「知っているし、知らないわ」
「その物言いはもしかしてウィリアノスと同じようにオンブルを憑けているの?」
「惜しい! もっと強力なやつよ。憑依者の人格を捻じ曲げるから特別な魔物よ。あの湖の水でも元に戻せないって、デアハウザーさまも言っていたわね」
厄介な事をしてくれる。
シルヴィすら操ることが出来るのなら、もうわたしの代では完全に支配を完了させるつもりだろう。
少なくとも五大貴族が治める領土のうち二つの領土は手に入ったに等しい。
「ペラペラとよく教えてくれるのね。もしわたくしがここを逃げ出したら、貴女は情報を流した罪でデアハウザーから殺されるんじゃない?」
「ふふふ、誰も助けてくれる人がいないのだから心配する必要ないじゃない。それにしてもエイレーネさまに似ていますね、本当の親子ではないのに」
「えっ……」
今思いがけない一言が放たれた。
何をふざけた事を言っているのか。
「何を言ってますの? あまりにもおふざけがすぎますよ」
ヨハネは手を口に当ててキョトンとしている。
どこか演技臭いので、分かっててやっているのだ。
「まあ、もしかしてセルランもレイナちゃんも教えてくれなかったの?そんなひどい臣下だったなんて知らなかったわ」
「わたくしの臣下を馬鹿にしているの?」
ヨハネを睨み付けた。
だが彼女は調子を崩さない。
「でもしょうがないわよね。あの城で二人とも亡くなったから伝える時間もなかったのでしょう。ごめんなさい、マリアちゃん。二人とも殺しちゃって、落盤であっけなかったわよ」
わたしの指輪から感じる命の鼓動。
今なお誰も死んでいないはず。
ヨハネはこの事を知らないようだ。
これだけはわたしが唯一勝っている情報だ。
わたしも演技をする。
「もし出来るなら貴女をこの手で殺してあげたいわ。お父さまとお母さま、セルランとレイナの無念を背負ってね」
「こわいこわい。ではまた後で会いましょう」
ヨハネが出ていくと同時にユリが移動の時間を告げる。
首にも絞められた跡が残っているので、秘密裏に治癒の魔法を掛けられる。
治癒をして侍従が部屋から退出してから、ガイアノスは申し訳なさそうに話し出した。
「ドルヴィのことは驚いただろう?」
一度見たことがあったが、それを知っているのは側近だけなので知らないフリをする。
「ええ、まさかドルヴィが魔物なんて……」
「あれは魔物ではない。おれたちが崇める光の神デアハウザーさまだ」
目を見開いて、口に手を当てることで驚きを表現する。
「驚くよな。俺も知ったのは魔法祭の後だ。あの方から魔力を頂いて、お前と並ぶ魔力を手に入れた」
「それはウィリアノスも知っていますの?」
「いいや知らない。あいつは真面目すぎるからな。おそらく上手く扱えないから俺にしたんだろう。まぁ、利用されようがドルヴィになってしまえばこっちのもんよ」
どこか自虐的だが、お互いを利用する関係に満足しているようだ。
「そんなにドルヴィになりたかったの?」
「ああ、ウィリアノスがずっと羨ましかった。勉強もマンネルハイム、そしてお前と結婚できるんだ。妬まないほうが……おい、どうして照れてる」
わたしを急に褒め出したから、正直者だなぁと見る目を変えるところだった。
一度流れを戻そうと咳払いをした。
「それでドルヴィから魔力を授けられたのね」
「ああ、すごい魔力だ。これがあればなんでもできる。俺は初めて自信というものを持った。今日で俺は欲しかったものを全て手に入れられる。さて新しい王の責務として、そろそろ挨拶回りに行ってくる。シルヴィたちも挨拶に来ると思うからここで待機してろ。あのユリとかいう侍従も呼んできてやる」
ガイアノスは部屋を出て行き、その後ユリが入ってきた。
ドルヴィとの話の内容を聞かれたが、彼女を巻き込む訳にはいかないので話を濁した。
しばらくしてから、各領土を治めるシルヴィが護衛騎士を一人だけ連れてやってくる。
あまり聞かせたくない話もあるので、ユリに外で待つようにお願いした。
シルヴィ・スヴァルトアルフも顔に渋面を作ってやってきた。
「おい、マリア・ジョセフィーヌよ」
厳つい顔なのに今日はどこかやつれている。
一体何があったのか。
後ろに立つエルトは苦笑いをしているだけだ。
「おまえ、こいつらを手のひらで転がすために側近たちと結ばせたのか?」
「はひぃ?」
一体何を言っているのか分からない。
エルトを見て説明を求める。
「シルヴィ、前にも言いましたがこれはわたしの意思です。彼女たちは己の忠義を信じている。わたしも同じくそれに倣ったに過ぎません」
「わかった、わかった。もうよいわ。だがマリア・ジョセフィーヌよ。我にとって一番大事なのは自領の民たちだ。ヨハネ・ジョセフィーヌがこちらに圧力を掛けている間は動くことができん。何か出し抜く算段はあるのか?」
どうやらシルヴィ・スヴァルトアルフもこちらの味方をしてくれるようだ。
しかしわたしに情報が入ってこない以上は特に策があるわけではない。
「ありませんが、下僕たちなら必ず何か動いてくれるはずです」
「うむ……噂に聞く限りでは敗北したと聞いているが、まだ結婚式まで時間はある。もし其方へ神の御加護があれば従おう。良いな、エルト」
「それで構いません。こちらの意見をこれほど聞いて頂けただけで感謝の言葉もありません」
その時、ドアの外から聞きたくもない声が聞こえた。
「マリアちゃーん、入ってもいいかしら?」
「はぁーー、いいですよ」
わたしが許可をするとすぐさま入ってきた。
ヨハネだけと思ったらシルヴィ・ゼヌニムも一緒にやってきたようだ。
シルヴィ・ゼヌニムはどこか様子がおかしく、禍々しい雰囲気を感じた。
「しばらくの間にだいぶ耄碌したようだな、シルヴィ・ゼヌニム」
シルヴィ・ゼヌニムは答えずただ睨むだけだ。
アクィエルと同様にうるさいイメージがあったが、今日は静かだと思った。
「あらあら、シルヴィ・スヴァルトアルフもいらしたのですね。シルヴィのお城に全領土の騎士を集結させるなんて、何か面白い行事でもあるのですか?」
「分かっているくせに……聡い女は嫌いではないがお前は別だ。敵に回したくないが元シルヴィ・ジョセフィーヌとは友であったとは思っている」
「ええ、存じております。ですからあまり長居をすると、ドルヴィから疑われますのでそろそろ出られたほうがいいかと」
「ふんっ、ジョセフィーヌの女はみんな気が強いな」
エルトはそれに同意するように頷いた。
シルヴィ・スヴァルトアルフは部屋を出ていく。
残ったヨハネはわたしに対して困った顔を作る。
「もう、駄目じゃない。ドルヴィの正体を知ったのだから、どこで聞き耳を立てているか分からないのよ」
「ご忠告どうも。シルヴィ・ゼヌニムもこの事は知っていると思っていいのよね」
ドルヴィの件は一部の者しか知らない。
それなのにシルヴィ・ゼヌニムの前で話すというのは共犯者だということに他ならない。
「知っているし、知らないわ」
「その物言いはもしかしてウィリアノスと同じようにオンブルを憑けているの?」
「惜しい! もっと強力なやつよ。憑依者の人格を捻じ曲げるから特別な魔物よ。あの湖の水でも元に戻せないって、デアハウザーさまも言っていたわね」
厄介な事をしてくれる。
シルヴィすら操ることが出来るのなら、もうわたしの代では完全に支配を完了させるつもりだろう。
少なくとも五大貴族が治める領土のうち二つの領土は手に入ったに等しい。
「ペラペラとよく教えてくれるのね。もしわたくしがここを逃げ出したら、貴女は情報を流した罪でデアハウザーから殺されるんじゃない?」
「ふふふ、誰も助けてくれる人がいないのだから心配する必要ないじゃない。それにしてもエイレーネさまに似ていますね、本当の親子ではないのに」
「えっ……」
今思いがけない一言が放たれた。
何をふざけた事を言っているのか。
「何を言ってますの? あまりにもおふざけがすぎますよ」
ヨハネは手を口に当ててキョトンとしている。
どこか演技臭いので、分かっててやっているのだ。
「まあ、もしかしてセルランもレイナちゃんも教えてくれなかったの?そんなひどい臣下だったなんて知らなかったわ」
「わたくしの臣下を馬鹿にしているの?」
ヨハネを睨み付けた。
だが彼女は調子を崩さない。
「でもしょうがないわよね。あの城で二人とも亡くなったから伝える時間もなかったのでしょう。ごめんなさい、マリアちゃん。二人とも殺しちゃって、落盤であっけなかったわよ」
わたしの指輪から感じる命の鼓動。
今なお誰も死んでいないはず。
ヨハネはこの事を知らないようだ。
これだけはわたしが唯一勝っている情報だ。
わたしも演技をする。
「もし出来るなら貴女をこの手で殺してあげたいわ。お父さまとお母さま、セルランとレイナの無念を背負ってね」
「こわいこわい。ではまた後で会いましょう」
ヨハネが出ていくと同時にユリが移動の時間を告げる。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる