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最終章 希望を託されし女神

結婚式の準備

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 外の晴れやかさに舌打ちをしたくなる。
 どうしてわたしは天候を操れないのか、と今日ばかりは恨まずにはいられない。


「ガイアノスは何でわたくしと結婚したいのでしょう」

 小さな声でぼやいた。
 平民たちへのお披露目をしたパレードが終わってからは全くガイアノスと会っていない。
 わたしとしては全く会いたくないので、願ったり叶ったりだ。
 だが今日だけは絶対に会わないといけない。
 何故ならば今日はーー。

「とうとう結婚式ですね。これほど嬉しさと不満が出るお祝いは初めてです」

 わたしの生活を全て見てくれるユリが気持ちを代弁してくれる。
 マリア・ジョセフィーヌとガイア・デアハウザーとの結婚式というのは、貴族なら誰もが大きく注目するだろう。
 わたしと釣り合う魔力を持っているのはガイアノスぐらいしか居ない、そしてガイアノスもまたわたしくらいしか釣り合わない。
 魔力的に見れば妥当な結婚だ。
 おそらく何も知らない者からすれば、お似合いの結婚だと思われるだろう。
 ガイアノスとウィリアノスでは極端に顔の造形が違うわけでもなく、ウィリアノスの方が筋肉質で、ガイアノスは少し肉が付いているのが特徴だ。
 もちろん顔の造形だけで結婚が嫌なのではない。
 ただ人間的に劣るガイアノスとしたくないだけだ。

「そうね、ユリとは少ししか一緒にいないのに夫になるガイアノスより知っているわ」
「マリアさまの場合は全く興味を持っていないことが一番の理由だと思いますよ。でも望まぬ結婚なら興味を持てませんよね」


 ユリはカップに紅茶を注いでわたしに渡す。
 よく飲んでいるパラストカーティのではなく、王都原産の茶っ葉を使っている。
 嫌いではないが、わたしの好みとは少し違っている。
 ゆっくり口に運んで、お礼を述べた。

「ありがとう、ユリ。今日でお別れね。春を過ぎたらもう結婚しますの?」
「はい、求婚の御言葉も頂いているのであとは式を挙げるだけです」
「そう……もし良かったらわたくしを呼んでくださいね」

 何気なく言ったつもりだが、ユリはわたしに詰め寄った。
 必死の形相でわたしは何か失言をしたのかと思ってしまった。

「ほ、本当にお呼びしてもいいのですか!?」
「え、ええ。だってせっかくこうして仲良くなったのだから、お祝いしたいではありませんか。もしかして……迷惑ですか?」

 ユリは大きく首を振った。

「迷惑なんて、そんなわけありません! マリアさまに来ていただけるならこれ以上嬉しいことはありませんよ! ハールさまに伝えなきゃ」

 顔を両手で包んで、幸せそうに顔を綻ばせた。
 わたしは嫌がられていないと知って安心する。
 そこで自分の着ている服を見下ろした。
 真白なドレスを身に付けており、いつかこの日が来ることを待ち望んでいたのに、どうにも嬉しくない。
 それは望んだ相手じゃなかったからかもしれない。
 わたしは初めて、結婚式は誰もが幸せな気分になるイベントでないことを知った。
 化粧を済ませて、わたしは一度鏡で自分の姿を見る。

「お綺麗ね」

 後ろから聞きたくない声が聞こえてくる。
 鏡で映し出されるので、わたしは振り返らない。
 ヨハネは扇子を口元にやり、少し悲しそうな顔をする。

「まぁ、ひどいわ。従姉妹のわたしを無視するなんて、せっかく貴女の大切な妹君を連れてきましたのに」

 そう言ってヨハネの後ろから前に出されたのは紛れもなくレティアだった。
 わたしはすぐに振り向く。

 ……やり方が汚いわね。

 ヨハネの思い通りに動かされるのは気に食わないが大事な妹とやっと会えたのだ。
 笑顔を作って、名前を呼んだ。

「おいで、レティア」
「……お姉さま」

 ヨハネは特に止めたりすることなく、普通にレティアを送り出す。
 わたしの結婚式のためにシルヴィ・スヴァルトアルフが連れてきてくれたのだろう。
 後ろ姿や髪飾り等を見せて、感触を聞いてみた。

「どう、綺麗かしら?」
「はい、本当にお綺麗です。ここの生活は大変でしたか?」
「ううん、ユリが全部してくれたから逆に退屈なぐらいです」

 わたしはユリへ顔を向けて、喋ることを許可した。
 一歩前に出てお互いに挨拶をする。

「お姉さまが迷惑を掛けませんでしたか?」
「とんでもございません。それどころか教養が行き届きすぎて先生方も絶賛です。社交場では、令嬢たちが殿方達をほっぽり出してマリアさまとのお話を望まれましたから」
「まぁ……」

 レティアは先程までの表情が固まっている顔から一転して笑う。
 かなり寂しい思いをさせたので、少しでも気分が紛れてほしい。
 わたしも話に交ぜてもらおうとするとレティアが先にこちらへやってきた。
 手を伸ばしてくるのでわたしは急なことで目を閉じた。

「式で動きます」

 短いが確かに伝えられた。
 彼女は小さな糸くずを持っており、こちらへ笑いかける。

「何か付いていましたので取りました」
「ありがとう、もう少しで恥ずかしい式になるところでした」


 どうやらレティアの方でも動いてくれていることがあるようだ。
 そうなると後は下僕たちがどう動くか。
 全く情報が入らないので、天に祈って待つしかできない。
 突然ヨハネが小さく笑い出した。

「何がおかしいのかしら?」
「あらあら、そういえば伝え忘れていたことがありましたの」

 部屋を外回りに移動して、目だけはわたしを見てくる。
 勿体ぶっているが何か重要なことなんだろう。
 彼女の雰囲気が徐々に変わり始めている。
 いつもの冷酷な目に変わっていっているのだ。
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