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最終章 希望を託されし女神

下僕視点12

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 領主と騎士の戦いでは、クロートの圧勝だと思ったがすぐにそれは間違いだと気付いた。
 相手の剣撃は凄まじくクロートの攻撃を難なく防いだ。

「この太刀筋に覚えがありますね。犯罪組織のボスと一緒にいた戦士は貴方ですね?」
「マリア・ジョセフィーヌを討てる千載一遇のチャンスを逃して本当に口惜しかったよ」

 こちらを小馬鹿にする態度は心を揺れさせる。
 全力で叩きのめす。
 クロートは間違いなくそう思ったはずだ。
 クロートの身体強化は並みの騎士を大きく上回る。
 先ほどよりも速さが上がって、そのまま畳みかけようとする。
 だが相手はそれすら越える化け物だった。
 全く均衡が変わらない。
 このままではジリ貧なので、流れを変えなければならない。


「ぼくも手伝います」

 トライードに魔力を通して刀身を出した。
 腕にはめているブレスレットによって、身体強化を二倍にする。
 二人でやればどうにかできる、そんな甘い考えを敵を読んでいた。

「雑魚は退いていろ」

 走り始めた途端に大きな風が吹く。
 ぼくの体を簡単に宙にやり、暴風に晒されることで体の自由が奪われる。
 そして床へと思いっきり落とされた。

「かはっ……」

 床へ向けて水の魔法を放って衝撃を多少減らしたが、痛みでしばらく動けなかった。
 敵はたった一度放った魔法だけでぼくを封じた。
 魔力量だけではない、経験という歴然たる実力の差があるのだ。

「大丈夫ですか!」

 ガーネフがぼくを抱えて隅の方へ逃げた。
 ぼくは床を思いっきり殴りつけた。
 何もできずにただ避難しただけだ。
 自分の無力さに失望するだけだ。

「どうやったかは知らんが、お前は良い魔力を持っている。生贄に捧げれば、直接あの方たちへ献上できる」
「姫さまもそのつもりだったのですか?」
「当たり前だろう。せっかくなのだから、有効活用せねばな」


 クロートは顔に憤怒を浮かべ再度攻め始めた。
 アビは笑う余裕があり、何合も打ち合った。
 人間とは到底思えないこの男は神ではないとすると魔物なのか?

「やはりお前らは他所から入ってきた神の仲間か」
「ほお、よくそこまで調べたものだ。なるほど、それでビルネンクルベがお前らに味方しているのか」

 アビは風の魔法を放ってくる。
 それをクロートは水の魔法で防いだ。
 お互いの魔力は互角だ。
 百年前の内乱の首謀者はこいつで間違いない。

「あの時は楽しかったぞ。パラストカーティの領主は惨めに殺され、その家族はわしの主人の贄となった」
「全く楽しそうではありませんね」
「あの日を知らないからだ。ずっと我々を疑い、決定的証拠をドルヴィに提出したのが奴らの失敗だ。本当に滑稽だった」


 顔がにやけており、本当に楽しそうに話す。
 だがぼくらからすると胸糞悪い話だ。

「本物のアビ・フォアデルヘはどこにいます?」
「とうにこの体の持ち主は死んでいる。わしが使ってやっているに過ぎない。さてわしも本気を出そう」


 そういった直後にアビの体が変わり始めた。
 鱗が現れ、体が大きくなっていく。
 口からは牙が現れて、赤色の竜へと変わった。

「黒竜を倒したくらいで調子に乗らないことだ。わしはあやつより強い。この竜神サタンに恐れ慄け!」

 大きな尻尾を振り回してくる。
 しかしクロートにそんな大振りは当たらない。
 騎獣に乗り、やすやすと躱した。

「体が大きくなったのは失敗ですね。これならーー」

 突如として黒い玉がサタンの前に出現した。
 その黒い玉に所々スパークしている。
 そしてそれの意味することにクロートは一瞬気付くのが遅れた。
 光が目の前を横切った。
 その玉に入っている全てのエネルギーが真っ直ぐにクロートへ向かった。

「ぐぐぐ……」

 かろうじて自身の魔道具が光を受け止める。
 どんどん魔力を込めているからか、役目を終えた魔道具たちが次々に壊れて落ちていく。

「ふはははは」

 光の濁流がクロートを後ろのいばらまで吹き飛ばした。
 背中から激突して、床に落ちた。
 ギリギリ直撃ではなかったが、クロートはかなりの魔力を注ぎ込んだようだ。
 息を切らしながらも敵から目を逸らさなさい。
 だが体がいうことを聞かないらしく、なかなか起き上がれないようだった。

「よく防いだな。だがこれでーー」

 敵の集中はクロートに向いていた。
 千載一遇のチャンスにぼくはしがみつく。
 敵の目がこちらに向いていない間に近付いて、尻尾を切り落とした。

「おのれぇぇ!」

 サタンは風の魔法でぼくを吹き飛ばす。
 床を何度もバウンドしたが、相手にダメージを与えることができた。

「我の体を切り裂くなんぞ、まさか中級貴族の貴様が出来るとはな」
「舐めているからそうなるんだよ。お前を倒して、伝承を解放したら神々が戻る。そうなればお前らなんかすぐに追い出してやる」


 ぼくは気合で立ち上がる。
 痛みはするが体の骨はまだ折れていない。
 これならまだ戦える。

「なるほどな、だから貴様たちは動き回っているのか」

 そこでサタンは笑い始めた。
 この状況で一体何が面白いのだ。
 やっと笑いが止まった。

「無駄なことだと思ってつい笑ってしまった。中央広場の祭壇は餌だ。お前らみたいな馬鹿が来た時のために、わしの魔力で作った魔物を置いている」
「ただの魔物なんかでヴェルダンディを止められない」
「シュティレンツで、称号持ちの小僧を痛めつけた魔物がいると言ってもか?」
「なっ!?」

 セルランと同等の実力を持つ魔物が待ち伏せしている。
 それに加えて大量の騎士たちが捕獲しようと向かっていた。
 このままでは二人は危ない。

「そうだ、その顔が見たかった。あの女さえ消えれば全て台無しになる」

 サタンは空に腕を向ける。
 すると空間が歪んですぐに鮮明に大聖堂の中が現れる。
 そこが祭壇がある場所だ。
 中は荒れており、柱や机、椅子がバラバラになっていた。
 戦闘の跡が見え、血が至るところに付着している。

「もう戦いが終わった後のようだな」

 戦いの音が聞こえない。
 そして首がなくなっている巨大な魔物が転がっていた。

「なっ!?」


 サタンも思ってもみなかったことが起きていた。
 祭壇の映像を近付けるとちょうどアリアが歌を歌っている。
 その目の前にヴェルダンディと謎の女と共にいた仮面を付けた戦士がいた。


「な、な、何故だ!? あの魔物はこの国最強の騎士と遜色ないはずだ。そんな魔物を倒せるはずがない!」

 サタンの声にヴェルダンディたちも気付いた。
 どうやらこちらとあちらはお互いに見聞きできるようだ。

「おいおい、なんだその化け物……下僕、クロート、大丈夫か!」

 ぼくたちの傷付いた姿を見て血相を変えた。
 しかし彼らが無事に役目を終えていて安心する。

「うん、何とかね。こっちは心配しないで。すぐ片付けるから」
「当たり前だ」
「えっ……」

 仮面の戦士が仮面を取り外す。
 その精悍な顔は女性からの人気が高く、そして家柄すらも持っている完璧超人。
 ぼくとは長年反りが合わないが実力だけは尊敬している人物だ。

「セルラン……」
「少しは成長しているようだな」


 ぼくはセルランが嫌いだ。
 実力も頭も良く、そして努力家のところが。
 マリアさまがいつも彼を頼るから、ずっと嫉妬し続けていた。
 何度も消えて欲しいと思ったが、今日だけは本当に彼の存在がかけがえのないものだと知った。


「何をしているクロート、早く立ち上がれ」

 未だ倒れているクロートに声を掛ける。
 彼は一体何を思うだろうか。
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