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最終章 希望を託されし女神

下僕視点10

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 ぼくたちは一度街を出てから、近くの森へと向かう。
 パラストカーティと同じように、何かあった時のため城へと続く抜け道がある。
 ガーネフの案内によって、滝壺まで案内された。
 大きな瀑布は自然の力を感じさせ、ぼくたちは不思議と滝に畏怖の感情を無意識に感じる。


「本当に滝って凍らないんだな」
「うん、流れている水は凍りにくいからね。でも中心部から離れていると凍るよ」
「なるほどな」

 まるで観光のようになっているが、これから各々で動き出すので最後の休息だ。
 ガーネフは滝を指差す。

「ではあそこへ向かいましょう」

 そう言ってガーネフが風の魔法でぼくたちを包み込む。
 ここからはヴェルダンディとアリアは伝承を解放するため別行動だ。
 領主がぼくたちの対処で一杯になれば、その分二人は行動しやすくなる。

「気を付けろよ。俺たちにはもっとやることがある」
「そっちこそ、アリアさまをよろしくね」

 ぼくはヴェルダンディと拳を合わせた。

「気を付けてくださいね」
「アリアさまも御身を一番に考えてください。貴女に何かあればマリアさまも悲しまれる」

 クロートはアリアの健闘を祈る。
 お互いの魔力が天へと昇った。

「そういえば、マリアさまが光と闇の神に奉納ができないのって……」

 ぼくの疑問にクロートも気付いた。

「おそらくですが、この髪は神との絆。他所から来た神では魔力を受け取ることが出来ないのでしょう。アリアさまも送れないのではないですか?」
「はい、こんなところにもヒントはあったのですね。いつかまた光と闇の神の加護が戻れば、この国は元の豊かな国へ戻るのでしょうか?」
「それはこれから証明されます。さあ、行きましょう。まずはこれが最初の反撃です。神が人間を裁くように、わたしたちも神を裁く権利があります。そして……いいえ、ではご武運を」

 クロートは言葉を止めて、ガーネフが操る風に包まれて浮遊した。
 風がぼくたちを滝まで運ぶ。
 そして滝の中へ入っていくとそこは洞窟となっている。
 ガーネフは魔法を解いて、ぼくたちを案内していく。


「それにしてもアリアさまの髪には驚かされました。まさかマリアさまとクロートさん以外にも変色した髪を持っている方がいるなんて思ってみませんでしたから」
「ははっ、そうですよね」
「ちなみにどうしてクロートさんはその髪を持っているんですか?」

 あまり答えたくない質問だ。
 本来なら有り得ない魔力を持ったクロートは様々な憶測が飛び交う。
 今まではシルヴィが防波堤になってくれたので、誰も深く追求してこなかったが今では守ってくれる者がいない。
 誰だって疑問を持ってしまうだろう。
 ガーネフは低い声で確認してくる。

「今までに突然変異した、何て記録はありません。親の何倍もある魔力を継承するなんて絶対に有り得ないはずです。その方法を教えてもらえませんか?」
「残念ながら教えるつもりはありません」
「でもぼくが聞かなくてもいつか誰かが問い詰めてくるはずですよ。もしかしたら強引な手段に出てくるかもしれない。貴方はそれを分かっているはずだ。マリアさまを助けた後にもしかしたら実験対象として二度と日光の下に出ることはできないかもしれない」

 ガーネフの言う通りだ。
 だがクロートは冷静に切り返す。

「もしそうなら全て薙ぎ払うだけです。それに生憎とわたしの命はそう長くはありません。この方法はわたしの命と共に完全にこの世から消してしまいます」
「やっぱり方法があるのですね。ですが弟さんも魔力が上がっていると聞きます。それは本当に失われるのですか?」
「あまり深く聞かない方がいいですよ。貴方の命が狙われます」

 クロートはこれ以上喋らない。
 ぼくはもちろん知っているが、クロート並みの魔力を手に入れていない。
 エンペラーの血を入れれば、もしかしたらぼくも同じように手に入るかもしれないが肝心のエンペラーはもう死に絶えている。
 だけどぼくも一つだけ方法を考えている。

 ……もし上手くいけばぼくもマリアさまのお役に立てるはずだ。

 しばらく歩くとクロートがぼくたちを止める。
 一体何事かと思ったらすぐにその理由が分かった。

「ま、魔物の群れ!?」

 遠くだが確かにデビルがいる。
 それだけではない、魔物はどんどん数を増やしていく。

「ど、どうして!? ぼくがここから抜け出した時はいなかったのに、どこからこんなに進入してきたんだ!?」


 ガーネフの慌てようは演技ではない。
 それなら答えは一つしかない。

「見つかっているのでしょう。それなら強行突破しかない。真っ直ぐ出口まで行きますので付いていくように」


 クロートがトライードを構えてすぐさま目の前の敵を薙ぎ倒していく。
 ぼくも身体強化をかけてすぐさま後ろを追いかける。
 倒した側から魔物がどんどん現れる。
 デビルキングや狼、小さな竜と多種多様な魔物が出てくる。

「す、すごい」

 クロートの一騎当千の姿にガーネフは感嘆する。
 考えてみると、メルオープと良くマンネルハイムの話をするようになったと報告があった。
 やはり血湧き肉躍るといったようなことが好きなのだろう。
 ぼくも少しでもクロートの負担を減らすために、魔物を蹴散らしていく。

「キシャキシャ!」

 横から突然現れたデビルキングがガーネフを襲おうと大きな爪を向けてきた。

「させない!」


 ギリギリ間に合って腕を切り飛ばした。
 相手が怯んだ隙にすぐさま追撃をしかけた。
 残った腕も切り裂き、ふらついた瞬間に首を切り捨てた。

「あ、ありがとうございます」
「急ごう」

 不意打ちとはいえデビルキングを倒せたことは自信となる。
 だがそれと同時にクロートに嫉妬する。
 彼はどの魔物も一撃で仕留めている。
 魔力が離れているのは仕方がないが、技量すらも上なのでぼくは本当に勝っているところがないのだ。

「腕は上がっている」

 ぼくの心を読んだのかクロートが語りかける。

「もしもの時はお前がマリアさまを助けろ。わたしに何があってもいいようにお前が前を進め。練習だと思ってな」

 そうだ。
 ずっとクロートに頼っていてはいけない。
 彼がいなくなれば本当に打つ手がなくなってしまう。
 そうならないようにぼくが魔力と技量を身に付けないといけない。
 少しも時間を無駄にしてはいけないのだ。
 ぼくは魔物をどんどん倒していく。
 途中危ないこともあったが、クロートがぼくをサポートしてくれるので怪我なく進んだ。
 そしてとうとう出口まで辿り着き、はしごの下までたどり着いた。


「あとはここを昇ればーー」
「待ちなさい」


 早速ガーネフが昇ろうとしたがクロートが止めた。
 ぼくもすぐさま行くのは流石に無謀だと思う。

「おそらく敵は待ち伏せしています。魔物を配置したことからわたしたちの存在に気付いている」
「た、たしかに。でも、ここが駄目なら引き返すしかありませんよ?」
「いいえ、たまにはわたしも使ってみたいと思っていたのですよ、魔力を思いっきりね」

 クロートは袋に詰めていた触媒を取り出して自身の周りに置いた。

「えっと……もしかしてですけど」

 ガーネフは何をするのか気付いてぼくを見た。
 だがクロートは止める気はないだろう。
 彼がぼくなら、マリアさまのためならこれも仕方ないと思っているはずだ。
 クロートは魔力を高めていき詠唱を開始する。


「水の神オーツェガットは踊り手なり、大海に軌跡を作り給いて、大海に祈りを捧げるものなり。我は源を送ろう。我は感謝を捧げよう。汝の運命を紡がんために」


 腕を真上に上げて、クロートの周りから大きな渦が出現して空へと舞い上がっていく。
 彼の魔力は易々と天井を破壊していき、城の真上を越えていった。
 魔法が消えた先では、晴れやかに太陽がこちらを照らす。
 さらに上で待ち受けていたであろう騎士たちが次々に下に落ちてくる。
 おそらく誰も死んでいないはずだ、そう思っておこう。

「ぼ、ぼくの城が……」

 緊急事態とはいえ、自分の家に大穴が開くのはショックだろう。
 だがこうするしかなかったので仕方あるまい。
 ぼくたちはすぐさま騎獣に乗って城へと乗り込むのだった。
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