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最終章 希望を託されし女神

閑話囚われの姫2

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 豪勢なドレスへ着替え、ありとあらゆる装飾品を身に付けていった。
 正直、重たいだけなのでもう少し物を減らしたいが、ガイアノスが他者に誇示したい欲望のために仕方なく付けている。


「先ほどはありがとうございます」

 ユリはお礼を述べる。
 彼女の頬は少し赤くなっているが、一日も経てば目立たなくなるだろう。
 しかし女の子の顔を傷付ける男を許しはしない。

「いいの。貴女はわたくしのために前に出てくれたのだから。でもこれからは無理しないでね」
「無理だなんてしておりません。正直に言うとガイアノスさまにマリアさまは勿体ないと思っています」
「ありがとう、でもあまりそういうことは言わない方がいいわ。もしあの男に聞かれたらどんな目に合うか分かりませんもの」
「分かりました……それにしてもお綺麗です」

 着付けが終わり、わたしは鏡の前に立った。
 動きづらいがこれなら国民に権威を示せるだろう。
 わたしは約束通りすぐにガイアノスの部屋へと向かう。

「マリア……」

 廊下の先でウィリアノスさまが居た。
 偶然というよりもわたしを待っていたようだ。

「お久しぶりです。お元気でしたか?」

 どこか元気がない彼は何かを言いたげだった。
 そして下を向いてボソリと呟く。

「俺では助けられない。ドルヴィの命には逆らえん」
「気にしないでください。わたくしは受け入れていますから」

 わたしの言葉を聞いてウィリアノスは顔を上げた。
 これ以上は彼も罪に問われるかもしれないので、その場を立ち去ることにした。
 ガイアノスの部屋の前にいる護衛騎士たちが感嘆の声を上げた。
 やるべき任務を忘れてこちらに見惚れている。
 後ろについているユリが咳払いすることで、やっとやるべき任務を思い出す。

「ガイアノスさま、マリアさまがお越しなりました」
「と、通せ!」

 少しばかり上擦った声で命令が飛ぶ。
 護衛騎士が部屋のドアを開けるのでわたしは中へと入った。
 彼も正装に着替えて、儀式用の剣を腰に差していた。
 身なりを整えれば彼もまともな人間に見える。
 わたしは裾を上げてお辞儀をした。

「大変遅くなり申し訳ございません。お気に召しましたでしょうか?」

 わたしは定型的な言葉を出すだけで、もしかしたら不快に思うかもしれないと思ったが、彼からの言葉はない。
 下げた頭を上げてみると、彼は固まって見ているだけだ。
 そしてやっと彼の時間が動き出した。

「あ、ああ! 本当に綺麗だ。よし、では向かおう。国民にお前の晴れ姿を見せないとな。おい、兵士ども! すぐさま始めるぞ!」

 ガイアノスの命令に兵たちは慌て始める。
 予定時刻までもう少しあるので、どうしたらいいのかわからないからだ。

「王子! まだもう少し時間があります」
「ええい、無能どもめ! 俺が早くやれと言ったらやれ!」

 ガイアノスは諫言など無視してすぐさま行わせる。
 金で出来た式典用の馬車に乗り、王都を一周する。
 街全体が晴れやかになっており、結婚式に合わせて準備を進めているようだ。
 大勢の国民がわたしを見ようと詰め掛けている。
 わたしは馬車から手を振って応えた。

「うむ、なかなか良いものだな」

 ガイアノスは満足しているようだが、わたしは早く王都を一周して欲しい。
 愛想笑いを浮かべながら外を眺めていると、前にクロートが大量生産していた手のひらサイズの人形を持った者たちが複数いた。

 ……は、恥ずかしい。

 すっかり忘れていたが、まさか本当に買っている人がいるとは考えてなかった。
 何だか恥ずかしくなってくる。
 一人の人形を持っている少女が兵士の間を抜けて、わたしのところまでやってこようとしたが転けてしまった。

「止めてください!」

 わたしは御者に命令した。
 すぐに止まったのでわたしは馬車の外へ出た。

「おい、どこ行くんだ!」

 ガイアノスの引き止めを無視して、わたしは少女のところへ向かう。
 兵士が少女を見物人のところへ戻そうとしているところだった。


「お待ちなさい!」

 兵士は固まって、恐れ慄いていた。
 わたしが突然この少女のところへ来るとは思ってもみなかったのだろう。

「その子をこちらへ」

 兵士は黙ってその少女を下ろして、わたしの安全のために側に近寄る。
 わたしは優しく語りかける。

「そんなに慌ててどうしましたの?」

 わたしの笑顔で緊張も解れたのか、顔を煌めかせて元気良く答えた。

「本物のマリアさまは人形よりも綺麗だったからどうしてもお近くで見たくて……」
「そうなのね。ありがとう、でも危ないからこんなことはしてはダメよ」

 わたしは軽く少女の髪を撫でると大きく首を振って理解してくれた。
 その母親と思われる人物が頭を下げてきた。

「娘が大変無礼を働きました」

 わたしはその顔に見覚えがあった。

 ……ラケシス!?

 フードを被っているので、顔を近くで見るまで気付かなかった。
 髪も変色しており、普段見慣れているわたしでなければ気づかなかっただろう。

「おい、そんなガキはいいだろう! 早く戻れ!」

 ガイアノスがわざわざ馬車から降りてきて、こちらへにやってきた。
 ラケシスの目的を聞きたかったが、彼女たちが色々動いているのはこれで証明された。
 それならばーー。

「あまり大きな声を出さないでくだいませ」

 わたしはやれやれという感じでガイアノスを落胆した目で見る。
 その目に気付いたのかガイアノスの顔に青筋が立つ。

「あぁ? なんだその目は?」
「わたくしの伴侶ならもう少し器というものをーー」

 パチーン。
 わたしは頬を叩かれて倒れた。

「調子に乗るんじゃねえ!」

 ガイアノスは怒ったまま、先に馬車に戻った。

「マリアさま!」

 ユリがわたしを立たせてくれる。
 左の頬が痛むがこれくらいならいくらでも受ける。
 わたしはチラッと後ろを見てからユリと話す。

「ありがとう、大丈夫ですから」
「そうはいきません。治癒をしますね」

 ユリに治癒を施させれて、みるみる痛みが引いていく。

「これで大丈夫だと思います」
「ええ、ありがとうございます。ではお二方も列に戻ってくださいませ。次は危ないから飛び出してきては駄目ですよ」
「はい!」


 わたしは少女の頭を撫でて馬車へと戻る。
 ガイアノスはムスッとした顔で終始黙っていた。
 わたしもこれ以上何かすることなく、無事に王都一周を終えるのだった。
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