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最終章 希望を託されし女神

下僕視点6

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 ゼヌニムへ戻るのは出来ないとはいえ、ビルネンクルベでは一抹の不安があった。
 何故ならこの領土もまた貢献度が十七位とパラストカーティとビリを争っているのだ。
 ビルネンクルベは降雪量が多く、ずっと雪に覆われている土地すらある。
 そのため作物も育ちが悪く、酪農などでどうにか平民たちも生活している。
 鉱山が多いため金属を産業の中心にしているため、平民あっての領土だ。
 だから貴族と平民の距離が近いらしい。
 暑い土地を持つパラストカーティと寒い土地を持つビルネンクルベは正反対の性質ながら、人間的には近いものを持っている。
 程なくしてビルネンクルベの城に辿り着き、アクィエルもいることで豪勢な招きを受ける。
 ぼくたちは全員食堂に呼ばれて、アビと会食をする。

「本日はわたしめの城へ来てくださってありがとうございます」
「どういたしまして」


 よくぞここまで堂々と歓待されるのが当たり前だと思えるものだ。
 しかしアビは特に気分を害することなく、他の侍従たちも不満には思っていないようだ。
 アビはニコニコとした顔でアクィエルに尋ねた。

「それで本日はどのようなことでお越し下さったのですか?」

 ぼくはどう説明しようか悩んだ。
 クロートもアクィエルから指示を出されなければ上位者を差し置いて喋ることができない。
 アクィエルは元気よく答えた。

「シルヴィを排除するから手伝いなさい」
「はひ?」

 ……もっと説明してください!


 突然のクーデター発言のせいで場が固まる。
 それもそのはず、シルヴィは神と同義。
 全ての貴族が疑うことなく当たり前として考えていることだ。
 たとえシルヴィの娘であるアクィエルとはいえ、反逆すれば神への貢ぎ物にされかねない。
 アビはぼくたちの顔をチラリと見てから、アクィエルに尋ねる。

「えっと……まだ若いつもりでしたが少し耳が悪くなったようです。アクィエルさまのお言葉を聞き逃す我が身をお許しくださいませ。よろしければもう一度お聞かせもらえますか?」
「ええ、いいですわよ」

 額の汗をハンカチで拭ったアビに再度アクィエルは宣告する。

「シルヴィを排除するから手伝いなさい」

 さっきと全く同じ言葉を続けた。
 アビは深呼吸して天井を眺めていた。
 気持ちは分かる。

「アクィエルさまのお考えに気付けない凡庸なわたしめにどうかそれをする理由を教えていただけないですか」

 アビはぼくたちに説明しろと恐い目を向けてくる。
 しょうがないのでぼくはアクィエルにお願いをする。

「アクィエルさま、是非ぼくから説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「うーん、そうですわね。いいわ、許します」

 アビはホッと息を吐いた。
 ぼくはアクィエルに話した内容を説明した。
 それを聞いたアビは顔を青くしていた。


「そのような……だがそれが真実であれば何とも」

 どうにか現状を飲み込んでもらえたようだ。
 しかし、だからと言ってビルネンクルベがこちらに協力してくれるかはわからない。
 もしかすると、クーデターを起こそうとするぼくたちを捕まえてシルヴィに献上するかもしれない。

「それでアクィエルさまはシルヴィを排除した後はどうするのですか?」

 アビは真剣な目でアクィエルも見つめた。
 この返答次第で全て決まる。
 正直何を言えばこの者たちが協力してくれるかが分からない。

「もちろん、わたしがゼヌニムのシルヴィに、マリアさんをジョセフィーヌのシルヴィにしますわ。大人は情けないのだからわたしたち以外に適任はいませんもの」

 自信満々に答えるアクィエルに僕らは雷が落ちたかのように衝撃を受けた。
 迷いなく答える彼女は間違いなく王の器だ。
 その目に失敗するという恐れはない。
 本当に彼女はアクィエルなのだろうかと疑ってしまうほど、一年前とは全くの別人に見えた。
 アビ・ビルネンクルベは目を輝かせてアクィエルに尋ねる。

「そうするとこの戦いが終われば、我々はアクィエルさまのご寵愛を頂けますか?」

 アクィエルは当たり前の顔で答える。

「当たり前ですわよ。他の五大貴族を出し抜けるのは今だけ、これからはゼヌニムがこの国を支配しますの。外から来た神なんかに好き勝手させるなんて、風の神シェイソーナガットに顔向け出来ないわ」


 後から知ったことだがアクィエルの人望はかなりあるようで、ビルネンクルベの貴族たちからかなり好かれているらしい。
 味方になってくれるというのなら、これほど助かることはない。
 ぼくたちが今後についての話し合いをする中で、シルヴィ・ゼヌニムから通信が入った。
 もうこれで引き返すことはできない。
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