上 下
220 / 259
第五章 王のいない側近

隠された真実の一片

しおりを挟む
 ルキノにお願いして二人の縄を外してもらう。
 二人とも外傷もなく、ただ運ばれただけのようだ。

「ありがとうございます、このような場所で姫さまにお会いできてよかったです」
「マリア姉さま、ありがとうございます」
「二人が無事でよかった。でもどうして縛られているの?」

 誰がやったのかはだいたい想像できるが一応聞いてみる。
 アリアは少し恥ずかしそうに答えた。

「それが、ラケシスさまたちにお手伝いを頼んで隠された部屋を調べていた時に、仮面を付けた一人の男性に無理矢理縛られてここまで運ばれました。といってもあまり乱暴にはされませんでしたけど」


 やっぱり仮面を付けた連中だったか。
 わたしが辺りを見渡すと見覚えのある玉座があった。
 わたしがシルヴィ・スヴァルトアルフと話をした場所だ。
 あの仮面の女はスヴァルトアルフの玉座の後ろに行けと言っていた。

「そういえばアリアを連れていけって前も言っていたわね。でもどうしてラケシスも連れてこられたのかしら」
「姫さまの神聖な気配を感じたので、隠し部屋に行くとちょうどアリアさまが連れて行かれるところだったので、口封じのために運ばれました」

 何とも間が悪い。
 本当に怪我一つ無くてよかった。

「そういえばライヘンはどのようになりましたか?」
「ライヘンでしたらーー」
「姫さま、あまりこの場所に長居するのはやめたほうがいいと思います」

 アリアの質問に答えようとしたがクロートに止められた。
 確かに神聖な玉座の間にわたしがいるのはよろしくないだろう。

「そうね、アリアこっちにいらっしゃい」
「はい!」

 アリアを連れて玉座の真後ろへと向かう。
 黒のカーテンがされており、その裏にある壁へと向かってわたしは手を伸ばした。
 何もないただの壁だ。
 だがわたしの予想が正しければ。

「アリア、ここを触ってみて」
「分かりました」

 アリアの手が壁へと伸びる。

「きゃあ!」

 アリアは急いで手を戻した。
 やはりわたしの勘は正しかった。

「魔力を吸われました?」
「は、はい! 少しだけですけどびっくりしちゃって」
「おそらくアリアが魔力を込めるとここの隠れた部屋が見つかるはずです。もう少し魔力を使ってください」
「分かりました!」

 再度アリアが魔力を込めると魔法陣が複数浮き上がる。
 そしてすぐに壁が消えて地下への階段が現れた。

「やっぱりね。光の髪を持つアリアしか開けない仕掛けになってたみたい」

 もしかするとわたしの城の玉座の間でも同じような仕掛けがあるかもしれない。
 だがヨハネに占拠されているので、結果的にここしか来られなかった。
 あの謎の女はこれを見越してアリアを連れてここへ来るように言ったのかしら。
 アリアもこの現象には驚いていた。

「そうみたいですね。どうしてこんな特定の人間しか入れない仕掛けを作ったんでしょう」
「それはもちろん入れたくない人物がいるからです。もし見付かるとこの部屋を消されてしまう恐れがある。それならば特定の者しか見つけられないようにすればいい」

 クロートの推測はおそらく当たっているだろう。
 この長い間で伝承については廃れた。
 だがこれほど効果の高い伝承が風化してしまうなんて人為的な策略を感じる。
 わたしたちは階段を降りて、大きな部屋へとたどり着いた。
 部屋の灯りを等間隔で置いてある大きな石に魔力を込めた。
 真っ暗だった部屋も明るくなり、そこには大量の本が置いてある。
 そしてスヴァルトアルフ領と思われる地図が壁に貼ってあった。
 わたしはその地図を見ると、各領土に一つずつバツの印がある。

「一体何の印でしょう」
「ここの資料に書いているかもしれませんね」

 クロートは早速資料を読んでその該当部分を見つけ出した。

「どうやら祭壇の場所を記載しているようですが、わたしたちが向かった場所とは違いますね。これはどういうことですか?」

 クロートは厳しい目をアリアに向けた。
 わたしがスヴァルトアルフとの交渉前に解放した祭壇とは違う。
 アリアたちから聞いた場所に行ったので、それが間違えていたことになるが、彼女たちがわたしを騙そうとするとは思えなかった。

「そうなんです! わたしたちもあの後残って調べたら全く違う記述が出てきたんです! そうですよね、ラケシスさま?」
「はい、アリアさまの言う通りです」

 ラケシスがアリアの言葉を肯定するので、やはりどちらかが間違っている。
 だがパラストカーティやシュティレンツのように魔力の奉納は出来たので、アリアたちに教わった方が本物ではないだろうか。


「おや、ですがここはマリアさまが見つけ出した祭壇ではございませんか?」
「はひ?」

 アビ・グレイルヒューケンは地図に書かれているグレイルヒューケンの祭壇を指差した。
 見る限り小さな村があり、そのような場所を訪れた記憶はない。

「見つけ出した?」
「はい、昨日のことですよ。村人から話を聞いたら、旅をしている貴族と仲良くなり、魔力を奉納すると祭壇が出現して、一緒に踊りを踊ったと。不思議な光が現れて一瞬で緑豊かな土地にしてくれたと言っていました。その時わたしはマリアさまが何かしてくださったと思ったのですが?」

 全く身に覚えがない。
 わたしはもうすでに別の祭壇で魔力を奉納している。

「それってわたくしがスヴァルトアルフに交渉する時よりも良くなったのですか?」
「全く比較できません」

 一体なぜわたしが伝承を解放した時よりも効果が出ているのか。
 謎が謎を呼び、これでは何歩も戻っている気がしてくる。
 クロートも難しい顔をして考えてくれる。

「もしかしてあの仮面の者たちが何かやったのかもしれません?」

 わたしは頭を抱える。
 一体何をしてくれるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

もふきゅな
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...