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第五章 王のいない側近
光の髪を持つ聖女
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わたしはアリアの髪をこれまで何度もよく見た。
前からわたしとそう変わらない魔力なら同じように髪の変色は起きるはずと思ったからだ。
だが彼女の髪は貴族特有の金髪だった。
それもあってこれまでそのことは忘れるようにしていた。
「一体どうされたのですか? アリアは何か見えましたの?」
ラナが不安そうに聞いてくる。
わたしは一度アリアを立たせた。
確認のためにもまずは蝶を追いかける。
「アリア、蝶を追いかけましょう」
「は、はい!」
わたしは今通った蝶の後を付いていく。
わたしとアリアしか見えていないので、他の者はよく分からないまま付いていくる。
そして廊下の突き当たりで蝶が通り抜けていった。
「蝶が壁をすり抜けた!?」
アリアは驚きの言葉をあげた。
これで彼女が見えていることは間違いない。
「もしかしてシュティレンツの城で現れたという蝶ですか?」
クロートが察してくる。
わたしは肯定の代わりに蝶が通った壁を触るが何も反応しない。
「わたくしでは駄目……アリア、ここを触ってみて」
「はい……」
アリアが恐る恐る壁を触ると、一斉に複雑な魔法陣が現れた。
突然の出来事にアリアは驚いて手を離した。
「何ですか、これは? どうしてわたしたちの城にこんなものが」
ラナが唖然としていた。
誰よりもこの城を知っていると思っていたのに、まさかこのような仕掛けがあるとは思うまい。
クロートは冷静に今見えた魔法陣を説明する。
「闇と光の片割れと書かれていますね。おそらくこれに該当する方なら反応する魔法陣のようですね。そうなるとアリアさま……」
クロートは一度言葉を切った。
そして言葉を出す。
「光の髪を持った伝承の聖女なのでしょう」
わたしたちはアリアとラナを交互に見た。
ラナは動揺も見せず、だが否定もしなかった。
アリアは顔を青くしている。
「隠していたのですが、とうとうばれてしまいましたね」
「お姉さま……」
ラナはアリアの頭を撫でた。
優しげな表情は慈愛を感じさせる、
「この子はわたしの本当の妹ではありません。偶然見つけた捨て子でした。誰が親かも分かりません」
思いがけない真実にわたしは聞き間違いかと思った。
このような魔力の子がシルヴィや領主の子供ではないのか?
さらにラナは語り始めた。
「突然天から大きな雷が落ちました。それはまさしく天命。何気なくその雷の下へ向かうとこの子が泣いていたのです」
「どうしてその雷の下へ行ったの?」
ただの雷なら普通は外には行かない。
わたしの質問にラナは昔を思い出すように答えた。
「その日、わたしたち家族は同じ夢を見たのです。よく分からない神々しい何かが“雷を忘れるな”と言ったのです」
神がお告げを残して、本当にアリアが見つかったと彼女は言う。
わたしは何度も眷属達に助けられたので、それを荒唐無稽な話とは思わない。
眷族ではなく神自身が何かする可能性だってある。
「子供なのに大きな魔力を持っているので城で保護が決まりました。彼女には実の妹として教育を受けてもらい、貴族として生きる術を手に入れました。一人で魔法の特訓を勝手にしたので、何度も死に掛けながら体で魔法の使い方を覚える様はまさしく天才でした。そして彼女の髪は本来はもっと神々しい光り輝く髪です」
今でも美しい色合いだが、それよりもさらに輝いていたという。
「シルヴィから命が降ったのです。髪色を薄くしろと。マリアさまには色々な災難が起きている噂があったからです。もしかしたらアリアも狙われるかもしれない。だから毎日髪の色を普通の貴族と変わらないものに変えました」
確かにわたしを襲おうとする輩が多かったと聞く。
そのため護衛は常におり、わたしが一人で抜け出すことを許しはしない。
だからわたしは人目を忍んで抜け出した。
そのせいでヨハネにひどいこともされたが、スリルがあって楽しかった。
「これは運命なのでしょう。マリアさまがこの城に来られたのも。神々はわたしたちに何かを伝えようとしている」
ラナはアリアの背中を押した。
アリアがラナを見ると頷いていた。
そしてアリアが壁に近付いて、再度手を当てると魔法陣が浮かび上がる。
そして魔力を通すと壁が消えて階段が現れる。
「ここにおられましたか!」
アビ両名がこちらに走ってきた。
どうやら話はついたようなので、わたしたちを探していたようだ。
「こ、これは!?」
アビ・シュトラレーセが驚く。
自分が良く知る城に知らない道があるなんて思ってもみなかったのだろう。
「一体どうしたのだ? ここは行き止まりだったはずだが?」
「お父さま、わたしが説明致しますがーー」
チラッとアビ・グレイルヒューケンを見ていた。
そこでアビ・シュトラレーセも察したようだ。
「わたしは少し下がる。話せる内容になったら呼んでください」
自ら場の雰囲気を察してその場を離れてくれた。
ラナは今起きたことを説明する。
「そうか、とうとうマリアさまも知ってしまったか」
「ごめんなさい。守ってもらっている立場なのに暴くようなことをしてしまって」
わたしは素直に謝罪をした。
だがアビは優しい顔で首を振った。
「いいえ、これこそが天命でしょう。ここを調べないといけませんが、襲撃者たちのことも急務です。ここはラナとアリアが調べますので、その間にこちらを片付けましょう」
「分かりました。ラナ、アリア、わたくしはライヘンへ向かいます。それまでにここをお願いしますね」
「かしこまりました」
「マリア姉さま、気を付けてくださいませ」
二人とお別れをして、すぐさまライヘンへ行く手筈を整える。
前からわたしとそう変わらない魔力なら同じように髪の変色は起きるはずと思ったからだ。
だが彼女の髪は貴族特有の金髪だった。
それもあってこれまでそのことは忘れるようにしていた。
「一体どうされたのですか? アリアは何か見えましたの?」
ラナが不安そうに聞いてくる。
わたしは一度アリアを立たせた。
確認のためにもまずは蝶を追いかける。
「アリア、蝶を追いかけましょう」
「は、はい!」
わたしは今通った蝶の後を付いていく。
わたしとアリアしか見えていないので、他の者はよく分からないまま付いていくる。
そして廊下の突き当たりで蝶が通り抜けていった。
「蝶が壁をすり抜けた!?」
アリアは驚きの言葉をあげた。
これで彼女が見えていることは間違いない。
「もしかしてシュティレンツの城で現れたという蝶ですか?」
クロートが察してくる。
わたしは肯定の代わりに蝶が通った壁を触るが何も反応しない。
「わたくしでは駄目……アリア、ここを触ってみて」
「はい……」
アリアが恐る恐る壁を触ると、一斉に複雑な魔法陣が現れた。
突然の出来事にアリアは驚いて手を離した。
「何ですか、これは? どうしてわたしたちの城にこんなものが」
ラナが唖然としていた。
誰よりもこの城を知っていると思っていたのに、まさかこのような仕掛けがあるとは思うまい。
クロートは冷静に今見えた魔法陣を説明する。
「闇と光の片割れと書かれていますね。おそらくこれに該当する方なら反応する魔法陣のようですね。そうなるとアリアさま……」
クロートは一度言葉を切った。
そして言葉を出す。
「光の髪を持った伝承の聖女なのでしょう」
わたしたちはアリアとラナを交互に見た。
ラナは動揺も見せず、だが否定もしなかった。
アリアは顔を青くしている。
「隠していたのですが、とうとうばれてしまいましたね」
「お姉さま……」
ラナはアリアの頭を撫でた。
優しげな表情は慈愛を感じさせる、
「この子はわたしの本当の妹ではありません。偶然見つけた捨て子でした。誰が親かも分かりません」
思いがけない真実にわたしは聞き間違いかと思った。
このような魔力の子がシルヴィや領主の子供ではないのか?
さらにラナは語り始めた。
「突然天から大きな雷が落ちました。それはまさしく天命。何気なくその雷の下へ向かうとこの子が泣いていたのです」
「どうしてその雷の下へ行ったの?」
ただの雷なら普通は外には行かない。
わたしの質問にラナは昔を思い出すように答えた。
「その日、わたしたち家族は同じ夢を見たのです。よく分からない神々しい何かが“雷を忘れるな”と言ったのです」
神がお告げを残して、本当にアリアが見つかったと彼女は言う。
わたしは何度も眷属達に助けられたので、それを荒唐無稽な話とは思わない。
眷族ではなく神自身が何かする可能性だってある。
「子供なのに大きな魔力を持っているので城で保護が決まりました。彼女には実の妹として教育を受けてもらい、貴族として生きる術を手に入れました。一人で魔法の特訓を勝手にしたので、何度も死に掛けながら体で魔法の使い方を覚える様はまさしく天才でした。そして彼女の髪は本来はもっと神々しい光り輝く髪です」
今でも美しい色合いだが、それよりもさらに輝いていたという。
「シルヴィから命が降ったのです。髪色を薄くしろと。マリアさまには色々な災難が起きている噂があったからです。もしかしたらアリアも狙われるかもしれない。だから毎日髪の色を普通の貴族と変わらないものに変えました」
確かにわたしを襲おうとする輩が多かったと聞く。
そのため護衛は常におり、わたしが一人で抜け出すことを許しはしない。
だからわたしは人目を忍んで抜け出した。
そのせいでヨハネにひどいこともされたが、スリルがあって楽しかった。
「これは運命なのでしょう。マリアさまがこの城に来られたのも。神々はわたしたちに何かを伝えようとしている」
ラナはアリアの背中を押した。
アリアがラナを見ると頷いていた。
そしてアリアが壁に近付いて、再度手を当てると魔法陣が浮かび上がる。
そして魔力を通すと壁が消えて階段が現れる。
「ここにおられましたか!」
アビ両名がこちらに走ってきた。
どうやら話はついたようなので、わたしたちを探していたようだ。
「こ、これは!?」
アビ・シュトラレーセが驚く。
自分が良く知る城に知らない道があるなんて思ってもみなかったのだろう。
「一体どうしたのだ? ここは行き止まりだったはずだが?」
「お父さま、わたしが説明致しますがーー」
チラッとアビ・グレイルヒューケンを見ていた。
そこでアビ・シュトラレーセも察したようだ。
「わたしは少し下がる。話せる内容になったら呼んでください」
自ら場の雰囲気を察してその場を離れてくれた。
ラナは今起きたことを説明する。
「そうか、とうとうマリアさまも知ってしまったか」
「ごめんなさい。守ってもらっている立場なのに暴くようなことをしてしまって」
わたしは素直に謝罪をした。
だがアビは優しい顔で首を振った。
「いいえ、これこそが天命でしょう。ここを調べないといけませんが、襲撃者たちのことも急務です。ここはラナとアリアが調べますので、その間にこちらを片付けましょう」
「分かりました。ラナ、アリア、わたくしはライヘンへ向かいます。それまでにここをお願いしますね」
「かしこまりました」
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