上 下
210 / 259
第五章 王のいない側近

伝承の調査

しおりを挟む
 決闘で勝利したわたしたちはその日はスヴァルトアルフの城で滞在する。
 明日からはシュトラレーセに赴いて、伝承について調べることになっている。

「イタタ」
「すぐに治しますね」

 私は転けた時に少し擦り傷が残ってしまったので、ラケシスに治してもらう。
 治癒の魔法で簡単に治った。

「ありがとう、ラケシス」
「いいえ、姫さまのためなら何でもやります。ずっと姫さまが戻る日をお待ちしておりました。城が落とされた日からどれほど心配したか……。レイナの分までわたくしがお側をお守りします」

 ラケシスの目は少し赤くなっている。
 セルランとレイナのことは聞いたが、こちらには来ていないらしい。
 まだ二人の命を感じるので死んではいないとは思うが、一体何をしているのか分からない。
 これ以上わたしの大事な側近に無茶なことはさせたくない。

「心配掛けましたわね。許してください、どうしてもシルヴィと舌戦をするには武器が必要だったの」
「とんでもございません。聞けば今日の対談はかなり大変だったと聞きます。どうか今日くらいはゆっくりお休みください」
「わかったわ。明日は早いからみんなも早く眠るように伝えてください」
「畏まりました」


 わたしはすぐに眠りについて夢すら見ずに朝へとなった。
 朝食も終えてすぐに馬車に乗ってシュトラレーセへと向かう。
 わたしとレティアはラナとアリアと同じ馬車に乗った。
 わたしはコソッとラナに尋ねた。

「馬車の従者は大丈夫?」
「はい、わたしの手の者なので何を聞かれても大丈夫です」

 ラナはこちらの味方になってくれているので、彼女が裏切っていなければ何も問題ないだろう。

「そう、ならいいわ。二人とも協力ありがとうね」
「いいえ、わたしはただ見て見ぬ振りをしただけですから。おそらくシルヴィには勘付かれていたでしょうが」
「そうね」

 各領土の伝承についてはラナから情報を貰った順に解放していったに過ぎない。
 協力者がいなければどこに祭壇があるのかが分からないのだ。
 ホーキンスがいないため、わたしの仲間で詳しいのは下僕かクロートだが、伝承についてはそこまで造詣が深くない。
 彼女たちの協力無くしてはわたしたちはお手上げだ。

「この土地の眷族たちももしかしたら目覚めているかもしれないわね」
「マリアさまには眷族の御姿がお見えになるのですか?」


 そういえばわたしは自分の側近たち以外には伝えていないことに気付く。
 隠しているわけでもないので頷いた。

「流石はマリア姉さまです。昨日のシルヴィに臆することのない胆力に、女性でありながらアビにも決闘で勝ってしまわれますし、本当に素敵です」

 アリアから称賛を受けて気持ちが昂ぶる。
 少しは良いところを見せられただろう。

「アリアさん、あまりお姉さまを調子に乗らせないでください」


 少しばかり冷たい態度のレティアに心が傷付く。

「そんな……カッコ良くなかったですか?」

 わたしは声が震えながらどこが悪かった一生懸命考える。
 もしかしたら転んでしまったところだろうか?
 あれは油断を誘うためにどうしても必要だったのだ。
 少しでも弁解しようとしたがそれは勘違いだった。

「もちろんカッコ良かったです。ただあまり危ないことはやめて欲しいだけです」

 わたしはホッとした。
 特に失望されていないようだ。

「もうしませんよ。あとはシルヴィに守ってもらう間にいろいろ調べましょう」

 レティアの髪を撫でて、シュトラレーセにたどり着くのを楽しみにした。
 シュトラレーセは春になると桜が咲き、その光景はこの国随一と言っても過言ではない。
 貢献度が二位ということもあり、街自体の発展度も高く、経済の面でも安定している。
 平民たちもお金があるから、武芸や踊りを嗜む者も多く、演劇なども王都より質がいい。
 お城の形も変わっており、縦ではなく横に広がる風変わりな姿だ。
 一階しかないお城はこのシュトラレーセくらいだろう。

「着きましたね」

 ラナの言葉と同時に馬車が止まった。
 全員が馬車から降りて、わたしはアビ・シュトラレーセにお礼を言う。

「本日から妹と側近共々よろしくお願いします」
「いえいえ、マリアさまのために何かできるのでしたらこちらとしても嬉しい限りです。どうか我が家のようにおくつろぎください」

 アビとの挨拶も終わって早速わたしたちはこの城の図書館へと赴く。
 流石は大領地だ、数々の写本が並べられており、必要な情報がここで大方手に入れられるだろう。


「伝承についてもありますか?」
「もちろんです!」

 ラナに聞いたつもりだが元気よくアリアが答えた。
 不思議にもラナが笑っている。

「シスターズで情報のやり取りをしていたそうですよ。王国院の図書館の本は写本は済んでおりますし、スヴァルトアルフの城にある黒い髪の騎士についての本も写本済みでず」

 そういえば、前にお茶会でも収集してくれると言っていた気がする。
 ラナが命令すると、侍従たちが伝承関連の本を大量に机に乗せた。
 これなら王国院で本を盗んでくる必要も無さそうだ。
 わたしはアリアの頭を撫でてお礼を伝えた。

「では少しずつ調べましょうか」

 わたしたちは数日間、伝承についての調査だけで終わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...