206 / 259
第五章 王のいない側近
シルヴィ・スヴァルトアルフ
しおりを挟む
ジョセフィーヌの城を落とされてから十数日が経過した。
一度シュトラレーセに立ち寄って情報を集めてからスヴァルトアルフの城へと赴いた。
到着してすぐにシルヴィ・スヴァルトアルフとの謁見を許された。
側近たちとの再会の前にわたしはレティアと共に玉座の間へと行った。
そこにはスヴァルトアルフの重鎮やシュトラレーセを含む四領土のアビたちも参加していた。
ラナとアリアも参加を許可されており、全員がわたしとスヴァルトアルフに注目していた。
「よくぞ来たなマリア・ジョセフィーヌ。そなたの母であるエイレーネさまから話は来ている。辛い数日だっただろう。エイレーネさまには少なくない恩義もある。ずっとここで過ごすが良い」
スヴァルトアルフは重々しくわたしに気遣いの言葉を掛けた。
五大貴族の中でも全領土を優秀にさせた手腕はこの優しさから来るからしれない。
「ありがたき幸せ。わたくしの妹のレティアだけでなく、側近全員を保護していただき感謝の言葉もありません」
わたしとレティアは頭を下げた。
それを見たシルヴィは大きく頷いた。
「うむ、実の親を失ったそなたに闇の神の鎌を首元に添えるものはいない。ただもし話してもらえるのなら、シルヴィ・ジョセフィーヌの最後を聞かせてくれるか?」
「はい、お父さまは命の灯火を掻き消されそうになりながらもわたくしの身を案じてくれました。ですが、ヨハネは一切の迷いなくお父さまの心臓を貫きました」
わたしの言葉を聞いて、シルヴィは上を向き、レティアは下を向いた。
レティアの体が少し震えた。
彼女の体を支えたいが今はそれができない。
「そうか……本当に死んだのか。ヨハネ・フォアデルへの目的は何か知っているか? どうしてドルヴィと協力している」
「わたくしも噂以上の情報はありません。ですが彼女は昔からわたくしからシルヴィの座を奪おうとしていました」
「ああ、よく聞いた話だ。優秀な女だと聞く。お前の城を取り返してあげたいが、ドルヴィとゼヌニムを敵に回せば我々といえど被害は甚大だ」
ゼヌニムがまさか裏切るとは思わなかった。
あのお茶会全てが無駄だったのかと心に闇が来る。
だが今は考えても仕方がないことだ。
「存じ上げております。わたくしは保護されたことに言葉で表せられない感謝の念を感じています」
シルヴィはわたしの目をずっと見ていた。
わたしの中にある何かを見ようとしている。
「そなたの側近たちは優秀だと聞く。特にクロートという蒼の髪を持つという青年の魔力は得難いものだ。そこでどうだ、アリア・シュトラレーセとの結婚させるというのは?」
アリアが驚きの言葉をあげた。
周りも、それは名案だとシルヴィの考えに賛成した。
「大変申し訳ございません。それはクロート自身が決めることです。わたくしが確認しますので、その前にアリア・シュトラレーセも結婚を望んでいるのでしょうか?」
「わたしはーー」
「アリア・シュトラレーセも望んでいる」
アリアが答える前にシルヴィが答えた。
その時点でアリアの意志は無関係になった。
シルヴィの言うことは何よりも正しい。
「左様ですか、それでしたら後ほどクロートに確認します」
「彼の確認は要るまい。中級貴族から領主の娘婿になれるのだ。これほど名誉なことはない。主人である其方の言葉一つあれば、あとは我が黙らせよう」
どうやらすぐさま動きたいようだ。
待つという言葉を知らないようだが、わたしはそもそもクロートが望まない限り結婚させるつもりはない。
「わたくしも未だ恋に翻弄される身。お互いの意にそぐわないことで、わたくしのように失敗して欲しくないのです。わたくしが話をするまで少しのお時間をくださいませ。シルヴィ・スヴァルトアルフのような情熱的な恋を誰もが憧れるものです」
「うむ……、そういえばそのようなことがあったな。若くとも女だな。口では勝てない。まだアリア・シュトラレーセも幼い。考える時間くらいは与えよう」
シルヴィは何か納得してくれた。
だがこれでこの話は保留となったので、わたしは胸を撫で下ろした。
「だがマリア・ジョセフィーヌよ。そなたの魔力だけは稀有なものだ。一生の安全を保障するし、もしレティア・ジョセフィーヌが望めばわたしの息子の将来の妃にしてもいい。だから一生わたしのためにその魔力を使うように」
わたしはシルヴィの言葉に目を細めた。
場が少し騒つく。
圧倒的上位者からの命令だ。
未だシルヴィでないわたしとスヴァルトアルフのシルヴィではその言葉の重みが違う。
「シルヴィ・スヴァルトアルフ、それはわたしに魔力を注ぐだけの水差しになれと仰るのですか?」
「不満か?」
お互いの目が腹の探り合いをする。
まわりの緊張が伝わってくる。
ここは敵地といっても過言ではない。
隣にいるレティア以外に誰も味方がいないのだ。
もし対立すれば、その場にいる全員がスヴァルトアルフの味方をする。
パラストカーティたちがわたしたちを神と崇めるように、シュトラレーセの神もスヴァルトアルフなのだ。
たとえ、ラナとアリアといえどもわたしを裏切るしかない。
「わたしはドルヴィたちから其方らの身を守るというのだ。それがどれだけ大変か、同じ五大貴族なら分かるであろう?」
殺気がわたしを包み込もうとする。
もう彼らとわたしは対等ではない。
もうわたしの生殺与奪の権利は握られている。
「……お姉さま」
レティアは小さな声でわたしに助けを求めていた。
一度だけわたしは軽く振り向き、そしてまたシルヴィを見た。
その一瞬で彼女の顔は元に戻っていると確信できた。
一度シュトラレーセに立ち寄って情報を集めてからスヴァルトアルフの城へと赴いた。
到着してすぐにシルヴィ・スヴァルトアルフとの謁見を許された。
側近たちとの再会の前にわたしはレティアと共に玉座の間へと行った。
そこにはスヴァルトアルフの重鎮やシュトラレーセを含む四領土のアビたちも参加していた。
ラナとアリアも参加を許可されており、全員がわたしとスヴァルトアルフに注目していた。
「よくぞ来たなマリア・ジョセフィーヌ。そなたの母であるエイレーネさまから話は来ている。辛い数日だっただろう。エイレーネさまには少なくない恩義もある。ずっとここで過ごすが良い」
スヴァルトアルフは重々しくわたしに気遣いの言葉を掛けた。
五大貴族の中でも全領土を優秀にさせた手腕はこの優しさから来るからしれない。
「ありがたき幸せ。わたくしの妹のレティアだけでなく、側近全員を保護していただき感謝の言葉もありません」
わたしとレティアは頭を下げた。
それを見たシルヴィは大きく頷いた。
「うむ、実の親を失ったそなたに闇の神の鎌を首元に添えるものはいない。ただもし話してもらえるのなら、シルヴィ・ジョセフィーヌの最後を聞かせてくれるか?」
「はい、お父さまは命の灯火を掻き消されそうになりながらもわたくしの身を案じてくれました。ですが、ヨハネは一切の迷いなくお父さまの心臓を貫きました」
わたしの言葉を聞いて、シルヴィは上を向き、レティアは下を向いた。
レティアの体が少し震えた。
彼女の体を支えたいが今はそれができない。
「そうか……本当に死んだのか。ヨハネ・フォアデルへの目的は何か知っているか? どうしてドルヴィと協力している」
「わたくしも噂以上の情報はありません。ですが彼女は昔からわたくしからシルヴィの座を奪おうとしていました」
「ああ、よく聞いた話だ。優秀な女だと聞く。お前の城を取り返してあげたいが、ドルヴィとゼヌニムを敵に回せば我々といえど被害は甚大だ」
ゼヌニムがまさか裏切るとは思わなかった。
あのお茶会全てが無駄だったのかと心に闇が来る。
だが今は考えても仕方がないことだ。
「存じ上げております。わたくしは保護されたことに言葉で表せられない感謝の念を感じています」
シルヴィはわたしの目をずっと見ていた。
わたしの中にある何かを見ようとしている。
「そなたの側近たちは優秀だと聞く。特にクロートという蒼の髪を持つという青年の魔力は得難いものだ。そこでどうだ、アリア・シュトラレーセとの結婚させるというのは?」
アリアが驚きの言葉をあげた。
周りも、それは名案だとシルヴィの考えに賛成した。
「大変申し訳ございません。それはクロート自身が決めることです。わたくしが確認しますので、その前にアリア・シュトラレーセも結婚を望んでいるのでしょうか?」
「わたしはーー」
「アリア・シュトラレーセも望んでいる」
アリアが答える前にシルヴィが答えた。
その時点でアリアの意志は無関係になった。
シルヴィの言うことは何よりも正しい。
「左様ですか、それでしたら後ほどクロートに確認します」
「彼の確認は要るまい。中級貴族から領主の娘婿になれるのだ。これほど名誉なことはない。主人である其方の言葉一つあれば、あとは我が黙らせよう」
どうやらすぐさま動きたいようだ。
待つという言葉を知らないようだが、わたしはそもそもクロートが望まない限り結婚させるつもりはない。
「わたくしも未だ恋に翻弄される身。お互いの意にそぐわないことで、わたくしのように失敗して欲しくないのです。わたくしが話をするまで少しのお時間をくださいませ。シルヴィ・スヴァルトアルフのような情熱的な恋を誰もが憧れるものです」
「うむ……、そういえばそのようなことがあったな。若くとも女だな。口では勝てない。まだアリア・シュトラレーセも幼い。考える時間くらいは与えよう」
シルヴィは何か納得してくれた。
だがこれでこの話は保留となったので、わたしは胸を撫で下ろした。
「だがマリア・ジョセフィーヌよ。そなたの魔力だけは稀有なものだ。一生の安全を保障するし、もしレティア・ジョセフィーヌが望めばわたしの息子の将来の妃にしてもいい。だから一生わたしのためにその魔力を使うように」
わたしはシルヴィの言葉に目を細めた。
場が少し騒つく。
圧倒的上位者からの命令だ。
未だシルヴィでないわたしとスヴァルトアルフのシルヴィではその言葉の重みが違う。
「シルヴィ・スヴァルトアルフ、それはわたしに魔力を注ぐだけの水差しになれと仰るのですか?」
「不満か?」
お互いの目が腹の探り合いをする。
まわりの緊張が伝わってくる。
ここは敵地といっても過言ではない。
隣にいるレティア以外に誰も味方がいないのだ。
もし対立すれば、その場にいる全員がスヴァルトアルフの味方をする。
パラストカーティたちがわたしたちを神と崇めるように、シュトラレーセの神もスヴァルトアルフなのだ。
たとえ、ラナとアリアといえどもわたしを裏切るしかない。
「わたしはドルヴィたちから其方らの身を守るというのだ。それがどれだけ大変か、同じ五大貴族なら分かるであろう?」
殺気がわたしを包み込もうとする。
もう彼らとわたしは対等ではない。
もうわたしの生殺与奪の権利は握られている。
「……お姉さま」
レティアは小さな声でわたしに助けを求めていた。
一度だけわたしは軽く振り向き、そしてまたシルヴィを見た。
その一瞬で彼女の顔は元に戻っていると確信できた。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる