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第五章 王のいない側近

シルヴィ・スヴァルトアルフ

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 ジョセフィーヌの城を落とされてから十数日が経過した。
 一度シュトラレーセに立ち寄って情報を集めてからスヴァルトアルフの城へと赴いた。
 到着してすぐにシルヴィ・スヴァルトアルフとの謁見を許された。
 側近たちとの再会の前にわたしはレティアと共に玉座の間へと行った。
 そこにはスヴァルトアルフの重鎮やシュトラレーセを含む四領土のアビたちも参加していた。
 ラナとアリアも参加を許可されており、全員がわたしとスヴァルトアルフに注目していた。

「よくぞ来たなマリア・ジョセフィーヌ。そなたの母であるエイレーネさまから話は来ている。辛い数日だっただろう。エイレーネさまには少なくない恩義もある。ずっとここで過ごすが良い」

 スヴァルトアルフは重々しくわたしに気遣いの言葉を掛けた。
 五大貴族の中でも全領土を優秀にさせた手腕はこの優しさから来るからしれない。

「ありがたき幸せ。わたくしの妹のレティアだけでなく、側近全員を保護していただき感謝の言葉もありません」

 わたしとレティアは頭を下げた。
 それを見たシルヴィは大きく頷いた。

「うむ、実の親を失ったそなたに闇の神の鎌を首元に添えるものはいない。ただもし話してもらえるのなら、シルヴィ・ジョセフィーヌの最後を聞かせてくれるか?」
「はい、お父さまは命の灯火を掻き消されそうになりながらもわたくしの身を案じてくれました。ですが、ヨハネは一切の迷いなくお父さまの心臓を貫きました」

 わたしの言葉を聞いて、シルヴィは上を向き、レティアは下を向いた。
 レティアの体が少し震えた。
 彼女の体を支えたいが今はそれができない。

「そうか……本当に死んだのか。ヨハネ・フォアデルへの目的は何か知っているか? どうしてドルヴィと協力している」
「わたくしも噂以上の情報はありません。ですが彼女は昔からわたくしからシルヴィの座を奪おうとしていました」
「ああ、よく聞いた話だ。優秀な女だと聞く。お前の城を取り返してあげたいが、ドルヴィとゼヌニムを敵に回せば我々といえど被害は甚大だ」

 ゼヌニムがまさか裏切るとは思わなかった。
 あのお茶会全てが無駄だったのかと心に闇が来る。
 だが今は考えても仕方がないことだ。

「存じ上げております。わたくしは保護されたことに言葉で表せられない感謝の念を感じています」

 シルヴィはわたしの目をずっと見ていた。
 わたしの中にある何かを見ようとしている。

「そなたの側近たちは優秀だと聞く。特にクロートという蒼の髪を持つという青年の魔力は得難いものだ。そこでどうだ、アリア・シュトラレーセとの結婚させるというのは?」

 アリアが驚きの言葉をあげた。
 周りも、それは名案だとシルヴィの考えに賛成した。


「大変申し訳ございません。それはクロート自身が決めることです。わたくしが確認しますので、その前にアリア・シュトラレーセも結婚を望んでいるのでしょうか?」
「わたしはーー」
「アリア・シュトラレーセも望んでいる」

 アリアが答える前にシルヴィが答えた。
 その時点でアリアの意志は無関係になった。
 シルヴィの言うことは何よりも正しい。


「左様ですか、それでしたら後ほどクロートに確認します」
「彼の確認は要るまい。中級貴族から領主の娘婿になれるのだ。これほど名誉なことはない。主人である其方の言葉一つあれば、あとは我が黙らせよう」

 どうやらすぐさま動きたいようだ。
 待つという言葉を知らないようだが、わたしはそもそもクロートが望まない限り結婚させるつもりはない。


「わたくしも未だ恋に翻弄される身。お互いの意にそぐわないことで、わたくしのように失敗して欲しくないのです。わたくしが話をするまで少しのお時間をくださいませ。シルヴィ・スヴァルトアルフのような情熱的な恋を誰もが憧れるものです」
「うむ……、そういえばそのようなことがあったな。若くとも女だな。口では勝てない。まだアリア・シュトラレーセも幼い。考える時間くらいは与えよう」

 シルヴィは何か納得してくれた。
 だがこれでこの話は保留となったので、わたしは胸を撫で下ろした。


「だがマリア・ジョセフィーヌよ。そなたの魔力だけは稀有なものだ。一生の安全を保障するし、もしレティア・ジョセフィーヌが望めばわたしの息子の将来の妃にしてもいい。だから一生わたしのためにその魔力を使うように」

 わたしはシルヴィの言葉に目を細めた。
 場が少し騒つく。
 圧倒的上位者からの命令だ。
 未だシルヴィでないわたしとスヴァルトアルフのシルヴィではその言葉の重みが違う。

「シルヴィ・スヴァルトアルフ、それはわたしに魔力を注ぐだけの水差しになれと仰るのですか?」
「不満か?」


 お互いの目が腹の探り合いをする。
 まわりの緊張が伝わってくる。
 ここは敵地といっても過言ではない。
 隣にいるレティア以外に誰も味方がいないのだ。
 もし対立すれば、その場にいる全員がスヴァルトアルフの味方をする。
 パラストカーティたちがわたしたちを神と崇めるように、シュトラレーセの神もスヴァルトアルフなのだ。
 たとえ、ラナとアリアといえどもわたしを裏切るしかない。

「わたしはドルヴィたちから其方らの身を守るというのだ。それがどれだけ大変か、同じ五大貴族なら分かるであろう?」


 殺気がわたしを包み込もうとする。
 もう彼らとわたしは対等ではない。
 もうわたしの生殺与奪の権利は握られている。

「……お姉さま」

 レティアは小さな声でわたしに助けを求めていた。
 一度だけわたしは軽く振り向き、そしてまたシルヴィを見た。
 その一瞬で彼女の顔は元に戻っていると確信できた。
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