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第四章 学術祭は無数にある一つの試練

最後の手紙

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 ステラたちを見送ったあとにわたしたちは再度王国院へと戻った。
 部屋の中であの時の光景がまぶたの裏によみがえる。
 あのような結婚はやっぱり女の子の夢だ。

「そう思いますよね?」

 わたしはレイナに同意を求めると、ため息を吐いた。

「マリアさま、流石に心の中で考えたことを全て察するのはできません」
「それもそうね」

 わたしは一度レイナが淹れてくれた紅茶を飲んで気分を落ち着かせた。

「ステラの幸せそうな顔を見ると早く結婚したいと思いませんか?」
「そのことですか。確かにステラは綺麗でしたね。マリアさまもお相手が見つかればあのような幸せそうな顔をするのでしょうね」

 そうだといいなと思った。
 わたしの相手はどこにいるのか。
 魔力が釣り合う男性を探さないことには、わたしの結婚はまだまだ先の話だ。


「それはそうと試験前のテストを実施しましたが、わたくしの領土はどうでした?」

 レイナはビクッと体を震わせた。
 目を横に逸らしていた。
 わたしは報告書に目を移した。

「側近は……、全員問題なさそうね」

 流石にわたしの側近は優秀だ。
 少し心配のあったヴェルダンディもギリギリだが高成績であった。
 おそらく下僕に頼んで勉強を教えてもらったのだろう。
 下僕は全部満点なので全く心配がいらない。

「ゴーステフラートは……こっちも大丈夫ね」

 流石はユリナナだ。
 しっかり全体の学力向上を果たしており、一部の生徒も突出した成績を出していた。
 あとは問題の二領土だ。
 勉強はどうしても財力によって左右されるので、パラストカーティは最下位の領土なためどうしても学力にばらつきが出やすい。

「先にパラストカーティね」

 やっぱり全体的に平均点が低い。
 だがメルオープともう二人くらいは高成績になりそうな者もいる。
 でも去年と比べると平均点も上がっているので少なくとも努力はしているようだ。

「まあ、パラストカーティも頑張ってくれているのならいいわ。これからどんどん上げていけば、いずれは優秀な学生を輩出してくれるでしょう。なんだ、心配して損しました。これなら十分優勝をめざせーー」


 わたしは鼻歌を交えながら、最後にシュティレンツの成績を見た。
 パラストカーティ以下の成績にわたしの体が硬直した。
 報告書がプルプルと震え、まさかエリーゼくらいしか高成績の候補がいないなんて。

「レイナ、シュティレンツはどういうことなの?」
「それがーー」

 どうやら一年のほとんどを研究に明け暮れていたので授業にすらほとんど出ていなかったそうだ。
 あと十日足らずで試験もあるのにこれではまずい。

「下僕とリムミントを呼んできなさい。あの二人は数日勉強しなくても一位を取るでしょ」
「えっと、マリアさま? 一体何をされるつもりですか?」


 オドオドとレイナは聞いてくる。
 もちろん決まっている。

「シュティレンツに勉強させるだけよ。十日くらいなら寝なくても大丈夫でしょう」

 わたしは早速シュティレンツを大広間へ集めた。
 下級から上級まで呼んだので、小さな部屋では入りきらない。
 全員が机と椅子に座ってオドオドとしていた。

「あのぉ……」

 領主候補生であるカオディが心配そうに手をあげた。
 わたしはどうぞ、と話すことを許した。

「一体これは何でしょうか?」
「貴方たちの勉強をこれから十日間見ます。指導役として、リムミントと下僕、そしてラケシーー」

 ……ラケシス!?

 にこやかな顔で整列をしており、どの時点で紛れ込んだのか分からなかった。
 というか呼んでいない。

「どうしてラケシスがいますの?」
「もちろんお手伝いするためです! 何なりとお申し付けください」

 元気に答えてくれた。
 少し引いてしまったが協力してくれるのはありがたい。
 一部の男性が喜んでおり、おそらくラケシスのファンクラブの人だろう。
 そこでラケシスの目が光った。
 喜んでいた男性の首にトライードを添えた。

「姫さまのお手を煩わせているのに笑顔なんて余裕ですね?」

 ラケシスの冷たい声がファンクラブの面々に降りかかった。
 どうやら彼女の反感を買ったことで事の重要性を認識してくれたようで、顔面を蒼白にして黙々と勉強を始めた。

「ではみなさん、これからお勉強をしましょうか。居眠りなんてしたらーー」

 わたしは大きな鞭を腰から取り出した。
 床をピシッと音を立てさせて、その感触を確かめた。

「わたくしが起こしてあげます」

 全員が息を飲んだ。
 少しはわたしの本気を感じ取ってくれたかな?


「分からないことは聞いてください。今は少しでも成績を上げることを考えなさい。一日の終わりにテストをやりますので、もし成績が芳しく無かった場合はカオディが責任を取ってもらいますね」
「責任とは……どのような?」

 ゴクリと喉を鳴らした。
 だがわたしも鬼ではない。
 最初くらいは優しくする。


「最初は鞭打ちくらいでいいですけど、次からはラナへ送ろうとした大量の恋文を朗読してもらいましょうか?」
「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちください! どうしてそのようなものが!」

 そこでカオディは気付いてくれた。
 彼はゆっくり妹であるエリーゼに顔を向けた。

「ごめんなさい、お兄さま。マリアお姉さまから何か脅せるものがないかと尋ねられましたので」

 カオディは観念したのか黙々と勉強を始めた。
 他の面々もカオディのために一生懸命勉強を始めた。
 やはり脅しは効くものだ、たとえ本当に持っていなくとも。
 流石に非人道的なので、読まないで捨ててあげた。
 もともとはもう少し苦手な食べ物とかを食べてもらおうとかその程度だったのだが、予想以上に威力が高いものが渡されたのだ。
 エリーゼにもあまり殿方の秘密を暴かないように注意をしてあげた。
 この勉強会が終わったらカオディにも教えてあげよう。

 幸いにも全員が真面目に勉強をしてくれたので、成績も順調に上がっている。
 わたしも合間を見て自分の勉強をやる。
 そしてとうとう試験が目前へと迫った。
 日が沈み始めたので、わたしは全員に労いの言葉をかけた。

「今日までよく頑張りました。これなら明日の試験も大丈夫でしょう。ぜひ明日の試験で良い報告が聞けるのも楽しみにしております」


 全員が晴々とした顔で部屋に戻るのを見送りわたしも戻ると、部屋の前に手紙が落ちていた。
 それは前にわたしに送られてきた手紙だとすぐに分かった。

「姫さま、それはもしかして」


 そういえば前にクロートに見せたことがある。
 ちょうど彼しかいない今は本当に助かった。

「ええ……」


 あの爆発の時、部屋ごと手紙は焼失した。
 それなのに誰かがここに置いたようだ。
 一体誰がやったのか。
 クロートはわたしの代わりにその手紙を開いた。

「どうやらまた姫さま宛ですね」

 わたしはまた何かあるのかと身構えた。
 だがこの手紙が手助けしてくれたおかげでここまで来られたのだから、わたしはしっかり目を通さないといけない。
 わたしはその手紙を覗き込んだ。

 明日の試験は用心すべし。
 最後の最後に失敗したら全てが台無しになる。


 どうやらまた何かあるようだ。
 しかしわたしとクロートは、その後に続く最後の一文を見てお互いに頬を緩ませた。
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